虹色の明日へ | ナノ


色の明日へ
25.震える熱


 汗が滲む額に触れてみれば、予想よりも熱をもった肌に愕然とした。
 荒く繰り返される呼吸。眉根はきつく寄せられ、時折、苦しげに呻くような声が漏れていた。
「熱が酷ぇな……。小十郎、濡らした手拭いを持って来い」
「はっ、只今」
「右目の旦那、それなら冷凍庫に良いものがあった。俺様が行くよ」
 小十郎の返答を待たずに、佐助の姿がかき消える。廊下から様子を窺っていた元就が、ベッドの横に屈んでいた政宗の隣に膝をついて、布団の外に投げ出されていたゆずかの手を握った。
「斯様に幼い身で……、ゆずかは独り、耐えていたのでござるな」
 元就の背後に立った幸村が、今にも泣き出しそうな声でぽつりと呟いた。
 広いベッドに身を横たえ、眠るゆずかは、これまで彼らが見てきたどんな彼女よりも小さく、そして儚い存在に感じられた。
「悄気るな、真田。テメェがそんなんだと、ゆずかが目を覚ました時に不安がるだろう」
「片倉殿……」
「今までは確かにそうだったかもしれねえが、これからは俺達が支えてやりゃあいい」
「……そうでござるな」
 ゆずかを見下ろし、幸村はそっと目を閉じる。自分達がいるのだ、と。小十郎が言った言葉を心で噛み締めた。
「竜の旦那、持ってきたよ」
「ああ、Thank you」
 戻ってきた佐助に、薄いタオルに巻かれた氷枕を渡された政宗は、そのひんやりとした感触に驚きながらも、ゆずかの頭を持ち上げて、その下に入れた。
「水差しとかも用意しとく?」
「いや、それはゆずかが起きてからで構わねえだろう。水が温くなる」
「それもそうか。あ、あとこれ、汗拭いてあげて」
 小十郎とやり取りを交わしつつ、政宗に差し出したハンドタオルを素早く奪ったのは小太郎だった。
「(……ゆずかのそばには己がついている。他の奴らは戻れ)」
「ah?そりゃ出来ねぇ相談だな」
「(人の気配が多くあれば、ゆずかが休めない)」
 小太郎だって、ゆずかが目を覚ますまで見守っていたいという、他の武将達の気持ちは理解している。しかし、それを許せば多少なりとも部屋が騒がしくなるだろうし、そうすればゆずかの休息に支障を来す。
「政宗様、ここは風魔に任せましょう」
「……仕方ねぇ。時折様子を見に来るくらいはいいだろ?」
「(……構わない)」
「風魔殿、ゆずかを御頼み申す」
「大丈夫だよ、旦那。俺様もちょくちょくゆずかちゃんの様子見に来るから」
 忍である小太郎と佐助が見守るならば、ゆずかが目を覚ましてもすぐに駆けつけることが出来るだろう。頑として折れそうにない小太郎に、仕方なく他の武将達は部屋を後にした。
 ――然し。
「(……己は、出ていけと言った筈だが?)」
「黙れ。貴様ごときに、我が従うと思うておるのか」
 鋭い眼差しが、小太郎に向かって飛んでくる。
 元就だけは、ゆずかの手を握ったまま動こうとはしなかった。
 無理矢理に放り出すのもやぶさかではないが、梃子でも動かなそうな彼を見ていれば、それもどうも面倒だと思ってしまう。
「……」
  声の出ない身で、器用にため息を吐いた小太郎は、黙ってゆずかの顔や首に浮かんだ大粒の汗を拭いてやった。
 静寂を好む元就なら、無駄に騒がしくしたりもしないだろうし、問題はない。
「(……脆計智将も、そのような顔をするのだな)」
 唇は動かさずに、心の中で独りごちる。
 心配そうに、不安そうに。歪んだ表情に、彼は果たして気づいているのか。
 小太郎にはよくわからなかった。


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