虹色の明日へ | ナノ


色の明日へ
24.雨音


 やけにあたたかく感じる雫が、枕に染み込んでゆずかの顔を濡らした。
 両親が家を出ていってから、優しい彼らがこの家にやって来てから、果たしてこんなに涙を流した事があっただろうか。
 泣くまいとしてきた。哀しみを感じる心さえ凍りつかせて。泣いてしまったら、そこで自分は負けてしまうと思ったから。
「……っ、ぅ」
 押し殺した声は、きっと誰にも届かないだろう。暗闇に紛れて、自分を見つめる瞳があるとも知らず。ゆずかはしばらくの間、泣き続けた。

「どうだった、風魔?」
「(……泣いていた。顔を隠して)」
「……そっか。悪いけど、そのまま部屋に戻ってゆずかちゃんの様子見ておいてくれない?」
「……(こく)」
 しん、と静寂に包まれたリビング。ゆずかが置き去りにしたアイスクリームは、溶けないうちに小十郎の手で冷凍庫に仕舞われていた。
「思えば……俺達はゆずかのことを何も知らねぇんだな」
 独眼を伏せ、そう独りごちた政宗に、全員の視線が集まった。
「なんでアイツは、この家に独りきりでいる?幼いゆずかを残して、親は何処に行った?最近はマシになってきたが、笑いもしなけりゃ泣きもしねぇ理由は?どうして誰にも頼ろうとせずに、たった独りで生きているような顔をするのか……俺達は、何も知らねぇんだ」
 寂しそうに、政宗は言う。自分達はまだ、信頼されていないのかと。なにも明かしてはくれないゆずかに、寂しさが募った。
「……仕方なかろう。ゆずか自身が、告げることを望んでおらぬ。我らから無理に聞き出す訳にもいくまい」
「いや……、毛利。政宗様の言う通りだ。俺達はあまりにも知らなすぎる。無理強いをせずとも、知る方法はいくらでもあっただろう」
 例えば、たまにゆずかが両親の話をした時に、さらりと問うことも出来ただろう。
 両親の部屋を探せば、なんらかの理由の一端くらいは見つけ出せたかもしれない。家捜しのようで、気分はあまりよくないが。
 彼女の深淵に触れずに、やってきた結果がこれだと、小十郎は言った。
「……某達は、どうしたらよいのだ」
 ぐっ、と拳を握りしめて、幸村が悔しそうに呟く。常にそばにいると約束したのに、独りで泣かせるような真似をして。これでは、約束を破ったも同然ではないか。
「っ、やはり、ゆずかの部屋に……!」
「やめよ、虎若子」
 立ち上がった幸村を、元就が静かに止めた。
「貴様では、悪戯にゆずかの傷を抉るだけぞ」
「しかし、毛利殿!」
「騒ぎたてれば、更に頑なになるやもしれぬ。貴様は大人しくしておれ」
 面倒な、と言いたげな視線で幸村を黙らせた元就は、ため息を吐いて椅子からおりた。
「貴様が行くのであれば、我が……」
「……っ!!」
「風魔?」
 元就が足を踏み出す前に、黒い羽根と共に小太郎が現れた。その見るからに慌てた様子に、武将達の空気が変わる。
「(っ、ゆずかの様子がおかしい)」
「ゆずかちゃんが!?」
「どういうことだ!」
 血相を変えた佐助と政宗が小太郎に詰め寄った。
「(布団には入ったのだが、呼吸が荒く、汗が吹き出している。……もしかしたら熱があるのかもしれない)」
「……っ!」
「ゆずか……!」
「政宗様!」
「ちょっと旦那!待って!」
 小太郎の言葉を受け取った政宗と幸村が、我先にリビングを飛び出して行った。
 呆気にとられていた他の者達も、急いでそれを追いかけたのだった。


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