虹色の明日へ | ナノ


色の明日へ
20.飴と鞭と


「ほら、幸兄のばんだよ」
「うむ、このかーどと同じ絵柄は……ここでござる!……あ」
「HA!テメェは札捲りもロクに出来ねぇのか、真田ぁ」
「申し訳ございませぬお館さむぁあああっ!」
「No!俺は虎のおっさんじゃねぇっ」
「うるせえぞ真田、近所迷惑だろうが!政宗様も、無駄に真田を煽るのはお止めくだされ!」
「チッ、……Sorry」
「(……まこと、騒がしい奴らよ)」
 我らがこの世に落ちて、数日が経過した。この家の主である幼き少女に拾われた我らは、帰れる見込みは立たぬものの、このぬるま湯のような生活にもようやく慣れてきていた。
 殺伐とした戦国乱世では到底考えられぬ、敵国の将や忍と共に暮らすなど。然し、この少女を間に介せば、それもやむなし、とも思えた。
 泰平の世に暮らすゆずかからは、僅かな血の臭いもせぬ。殺気など、感じたこともないのであろう。己の身を守る術すら知らぬその姿を、危険にさらす気にはなれなかった。
 ……我も存外甘くなったものよ。
「……ゆずか」
「あ、なに?就兄さま」
 恐れもせず、我を兄と呼ぶ少女は、我が呼べば嬉しそうに見上げてくる。出会った当初は表情もなく、子供らしからぬ冷めた瞳をしている人間であったが、我らと関わるうちに、どんどんと表情を取り戻していったように思う。
 まだ数日、されど数日。刻の長さは関係あらず。我らと過ごす時間は、余程少女にとって濃密であったのだろう。忘れた感情を、多少でも思い出す程度には。
「そなた、明日も“がっこう”とやらに行くのではないのか」
「……うん」
「ならば、早う湯浴みを済ませて参れ。何時だと思うておる」
「はーい……」
「返事を伸ばすでないわ」
「……はい」
 嫌々返事をしたゆずかは、真田達と遊んでいた“とらんぷ”とかいう札を置いて、リビングから駆けていった。
「shit、邪魔すんなよ、毛利」
「阿呆め。夜更かしをさせれば、癖がつく。貴様らのせいで、ゆずかの勉学に支障が出たらどうするのだ」
「し、しかし、子供は遊ぶのが仕事と、某は思うのだが」
「フン、下らぬ。遊び呆けてばかりおれば、ゆずかが貴様らのようになるであろう」
「ah?そりゃどういう意味だっ」
「言葉のままぞ」
 言い捨てて、今まで座っていたソファに戻る。
 愚かな。甘やかすだけが、子供への接し方ではあるまい。時には厳しさも必要である。
「(我には、我のやり方がある……)」
 兄として。ゆずかを導くのは、愚か者の貴様らではない。……我にしか出来ぬわ。


「そなたは濡れ髪で何をしておる。しっかり髪を乾かさぬか」
「あ、あとでやろうとおもったんだもん」
「その間に湯冷めをしたらどうする気ぞ。夏風邪など、馬鹿しかひかぬわ」
「……もう秋だって、お天気予報のおねえさん言ってたもん」
「屁理屈を言うでない!」
「うー……」
 毛利の旦那にぴしゃりと撥ねつけられて、ゆずかちゃんが唇を尖らせた。
 あーあ、可愛い顔が台無しだって。こういう時に止めに入りそうな右目の旦那も、毛利の旦那の言い分が正論だから、ハラハラしながらも黙ってるし。ここは、俺様の出番かなー。
「ゆずかちゃん、今日は俺様が乾かしてあげる」
「え?」
 忍の本領を発揮して、素早く洗面所から“どらいやー”を持ってきた俺様は、ぽん、とゆずかちゃんの肩を叩いた。少し離れた場所で、風魔の羨ましそうな、悔しそうな視線を感じるけど。この役目は、譲ってなんかやらないよ?
「……猿飛、ゆずかを甘やかすでない」
「あはー、そう睨まないでよ、毛利の旦那。毎回やるわけじゃないし、今日は特別」
 いいでしょ、と笑えば、フン、と鼻で笑われた。しかし言い返す素振りはなかったので、ゆずかちゃんの手を取ってソファに引っ張っていく。
「熱かったら言ってね」
「うん。……ありがと、佐助さん」
「これくらい、お安いご用ってね」
 子供特有の、ふわふわした柔らかい髪を風に乗せながら、俺様は笑った。
 親代わりにも、兄代わりにも、きっと俺様はなれないだろう。人としての心を失くした、忍の俺様には。
 とびきりに甘やかすのは、旦那や竜の旦那に。厳しく育てるのは毛利の旦那と右目の旦那に任せる。適材適所ってね、よくいうでしょ。
「きもちいい……」
「眠くなったら、寝てもいいからね」
「うん……」
 だから俺様は、ゆずかちゃんを助けてあげる。困ってるときに、手を差し伸べてあげる。どんなことだって、ゆずかちゃんが願うなら、キミの手となり足となろう。だって俺様には、それしか出来ないんだ。
「(アンタもきっとそうだろう、風魔)」
 朝。止められたのも無視して、ゆずかちゃんを追って家を飛び出した風魔。アイツだって、俺様と同じ気持ちのはず。
 誰かの手足になるしか、出来ない自分達だから。苦笑して風魔に目をやれば、やっぱりじとりと睨まれた。


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