虹色の明日へ | ナノ


色の明日へ
19.おかえりなさい


 学校が終われば、あとは家に帰るだけだ。
 放課後を共に過ごす友達もいなければ、特に部活にも入っていない。二週間に一度、委員会の集まりがある時は少し帰りが遅くなることもあるが、それ以外の用事といえば、せいぜい夕飯の買い物くらいで。
 それだって、もう一人でする必要もないのだ。
「っ、ただいま」
「おお、ゆずか。おかえりでござる!」
「幸兄……!」
 玄関の鍵を開けて、家に飛び込めば、出迎えてくれたのは幸村の満面の笑顔。
「どうしたのだ、そんなに息を切らせて」
「……だって……心配、だったの」
「心配?」
「みんな、いなくなっちゃってたら、どうしようって」
 へにゃり。ゆずかの顔が、泣きそうに歪んだ。
 この数日間、ずっと彼らと一緒だったから。姿が見えない場所に行くのが不安だった。昼休みに、小太郎には会っていたけれど、もしかしたら、なんて。ゆずかが家に帰る頃には、彼らは自分達の世界に戻ってしまっているのではないか、と思っていた。
 また、自分は置いていかれるのか、と。
「また家に帰っても、ひとりぼっちなのかな、って」
 こわかった、そう呟けば、ずっと我慢していた涙がうっすらと滲んできた。
 たった数日間の夢のような出来事は、ゆずかにとっては本当に本当に楽しい時間で。離れたくない、と願うほどには、彼らはゆずかの心に深く入り込んでいた。
「……ゆずか」
 す、と屈んだ幸村は、涙が零れるのを堪えているゆずかと視線を合わせて、そっと肩に手を置いた。
「某は、ここにいるでござる」
「……ぁ」
「佐助も、政宗殿や片倉殿、風魔殿も毛利殿も、誰一人欠けておらぬ」
「う、ん」
 汚れも戸惑いも何一つ見当たらない、真っ白で素直な幸村の微笑みは、不安に支配されたゆずかの心を落ち着かせるには十分だった。
「某は、……某達は、この世界の人間ではあり申さん」
「……っ」
「ゆえに、“いつまで”と期限を切ることは出来ぬが……」
 一度言葉を切り、まるで誓いをたてるかのように、真剣な眼差しをゆずかに向けた。
「某達がここにいる間は、ゆずかを独りにしたりはせぬ」
「ほんと……?」
「誠にござる。毎日、毎日、“がっこう”から帰るゆずかを、某はこの場で出迎えよう」
「やくそく、だよ」
「うむ、約束でござる!」
 大きく頷いた幸村は、ゆっくりと立ち上がり、ゆずかの手を取った。
「さあ、疲れたであろう。佐助や風魔殿も心配しておったゆえ、待ちかねてござるよ」
「うん。……幸兄、ありがとう」
「なに、ゆずかはまだ幼い。もっともっと、某達に甘えてくれてよいのだ」
 不安な時は教えてほしい。独りが恐ろしければ共に在ろう。寂しい時は、誰かの名を呼べばいいのだ。
 そう言った幸村と一緒に、リビングに一歩足を踏み入れれば。心配そうな顔で、玄関のほうを見つめていた武将たちが、それぞれ安堵したように表情を崩して。
「おかえり」と、あたたかい言葉をくれた。
「旦那ー、ゆずかちゃんと仲良く手なんか繋いじゃって。今日は破廉恥っ!て叫ばないの?」
「ゆずかに触れるのは、破廉恥ではあり申さん」
「ah?何が違うんだよ?」
「ゆずかは、某の妹でござりまする!家族に触れるのに、破廉恥と叫ぶのはおかしいでござろう?」
「成長したね、旦那……!俺様嬉しい!」
 心底嬉しそうな笑顔を浮かべる佐助に、幸村は少々複雑な気持ちになるのだった。


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