ゆめのあとさき | ナノ


 30


 ――おォ……ォおオ……。
 怨嗟の声をBGMに、八握剣を振るう。この空間に入ってから、鏡が光を放つことはなく、鏡で亡者を葬ることは出来なくなってしまった。
 ここは恐らく、あの禍々しい水晶玉が支配する世界。相反する力である浄化の光は、その力を封じられてしまったのかもしれない。
 ……簡単に吹き飛ぶ亡者の脆い身体は、五葉はおろか、幸村や佐助の敵ではなくて。片倉も、呆けたままの政宗を守りながら、どうにか立ち回っていた。
 しかし、あまりにも数が多すぎた。更に彼らは、五葉たちよりも政宗を狙っている様子で。今にも片倉に飛びかからんとする亡者を、そばに駆けつけた五葉が八握剣で斬り飛ばした。
「すまねえ、感謝する!」
「いえ。大丈夫ですか?」
「ああ。1体1体は大した奴らじゃねえ。だが、この量はさすがにな……」
 言葉をかわす間にも、亡者の波は休むことなく襲ってくる。このままではいずれ、五葉たちの体力が切れたところを押しきられてしまうだろう。……ならば。
「……っ、伊達政宗公!目を醒ましてください!」
「おい、五葉、何を……!」
「彼らの狙いは政宗公です!恐らく、義姫様が政宗公を恨む心が、彼らに影響を与えているはず。ならば、彼に目を醒ましてもらわないと……、くっ!」
「五葉ちゃん!!」
 ひとりの亡者が、八握剣を両手で握り締めた。咄嗟に振り払おうと力を込めるが、彼は他の亡者よりも力が強く、どうも上手くいかなかった。
「五葉殿!今すぐそちらに……っうぉおっ!」
「旦那!アンタは自分の身を守って!くそっ、俺様に寄るな!!」
 幸村や佐助が、五葉を助けようと走り寄ろうとするが、その足は亡者達に遮られる。
「政宗公、しっかりしてくださいっ!天駆ける竜である貴方が、既に生を終えた亡者達に、地に堕とされていいはずがない!!」
 渾身の力を込めて、声を張り上げる。どうか届け、と。彼の独眼が、再び現実を見渡せるように。
 しかし、五葉と片倉達を囲む亡者の群れが、じりじりと距離を詰めてきていた。このまま飛びかかられれば、もう駄目かもしれない、そう、一瞬五葉が考えてしまえば。

 ――バリバリ、バリッ!
「ギゃアァあア!」
 蒼白い稲妻が、八握剣を封じていた腕を焼いた。焼かれたところから、ぼろぼろ、と、その身体が崩れていく。
「……Sorry、情けねぇところを見せちまったな」
「政宗、公……」
「少し遅くなっちまったが、アンタの言葉、ちゃんと届いたぜ、五葉」
 唇の端を吊り上げた彼は、とん、と自らの胸を指先で叩いた。
「人質となった父上を、殺す事に迷いはなかった。……ついでに、あの女と一緒になって、俺に毒を盛った弟を殺した時もな」
「政宗様、何を仰られますか!どちらの時も、貴方様はあれほど苦しまれて……!」
「ah、確かに苦しんださ、手にかけたあとはな。でもな小十郎、俺は、“迷わなかった”んだよ」
 落としたままだった竜の爪を拾い上げた政宗は、稲妻によって崩れた亡骸を見下ろして、哀しげに微笑んだ。
「怨まれんのも、詰られんのも、承知の上だった。なのに、姿を見ただけでこんなにも取り乱すとはな……I'm disgusted with myself.(我ながら情けない)」
「いえ……。自らの手で刈り取ったはずの命と再び相見えれば、動揺するのは当然だと思います」
「Hum、そう言ってもらえれば気は楽だな」
 政宗がそう肩をすくめていると、群がっていた亡者を片付けた幸村と佐助が、三人のもとに駆けつけてきた。
「五葉殿、政宗殿!大丈夫でござるか!?」
「よかった、無事みたいだね、五葉ちゃん」
「幸村、佐助。二人も無事でよかった」
 寄せては返す亡者の波は、ようやく引きを見せていた。今は一定の距離を保ち、五葉達を狙う亡者達と。その大群を導くように、先頭に立ち寄り添う二人と五人の視線が絡まり、火花を散らす。
「私にひとつ、考えがあります。聞いてくださいますか、政宗公」
「of course、言ってみな」
 そうして五葉が告げた作戦で、押され気味だった戦況が、一変することになる。


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