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 戀といふものは (オリキャラ警報発令中)



(オリキャラ目線なので閲覧注意)



幼かった私の世界は父と母と幼稚園の先生達と友達と。
あの二人で出来ていた。


古い記憶は父の膝の上に私が座っていて母がキッチンから何か運んでいて、あの二人が私に笑いかけてくれるものだった。


明るい笑顔で名前を呼んでくれるのが嬉しくて恥ずかしくて、私は父の膝から立ち上がって背中に隠れたりしていた。
それをまた笑いながら二人が両腕を広げてからかうのだった。

「大きくなったらおっちゃんのお嫁さんにならん?」
「いやお兄さんのお嫁さんだよねー」
そんな声を掛けてくれたが「お父さんのお嫁さんになるの!」と言うとあの二人は父より嬉しそうな顔で笑っていた。
はしゃぎ疲れて寝てしまった私が夜中に起きると居間から漏れでた光の中で両親とあの二人が穏やかに酒を酌み交わしていた。

父と母が寄り添い、またあの二人も寄り添いあっていた。
私には自然な光景だった。


私が小学生になっても中学生になってもあの二人はうちに来ていた。


父には勿論、母にも言えない悩み事が出来ると二人に聞いてもらっていた。
勉強や学校の事、友達の事。今思えば拙く大した事ない話を二人は笑わずに聞いてくれた。


確か、高学年か中学の始めくらいだったと思う。

そのくらいの年齢になると周りの友達の会話に「あの人かっこいいよね」というフレーズが増えてきていた。
私はまだピンとこなくて、だけど友達みたいに好きな人が出来ない事が不安になったのだ。それをその二人に打ち明けたとき。
ふ、と顔を見合わせたその二人の目に何かを感じたのだ。


気になっていたことがある。


まだ小さい頃、両親と二人と私で行った水族館。

暗い暗い水槽の前の蒼い光の中だったと思う。
クラゲに見とれていた私が顔を上げたとき。
目に映った二人は寄り添い、まるで父と母のようだと思ったのだ。


いつかの夏。
はしゃぎ疲れ、うとうとした私が見たのは頭の上で片割れの目元を撫でる大きな手だった。


それらの光景は二人が私に笑いかけてくれるのと同じくらい、当然だと思ってもいた。


その時の相談に
「焦ってできるもんやないんやで?」と頭を撫でてくれた。
「気になる人ができたらちゃんと兄さんにも教えてね!」と頬をつつかれた。
答えにはなってないと思うけど、笑わずに応えてくれたのが嬉しかった。



高校生になる春先だったと思う。


街にいた私の目に見慣れた背中が並んで映った。
寄り添うように歩く二人に声を掛けようとした時だった。


そっと。宝物を触るように手を伸ばして指に触れていた。


こら、とはにかむように笑うシマさんが。
真摯な目をしたせいじろちゃんが。


自分の知らない人のようで、でも何か納得したのだった。
立ち竦んだ私に気がついた二人は何処かバツが悪そうだけど「お茶するか?」と混ぜてくれた。


天気が良かったのでテラス席に落ち着くと、シマさんが腕を組みうぅ〜と唸っていた。
せいじろちゃんがラテとチーズケーキを私の前に置きシマさんの隣に腰掛けた。
二人はコーヒー。きっとシマさんがミルク入りの砂糖抜き。せいじろちゃんは両方入れて。

「おっさん同士が気持ち悪いとか思うんなら、もううちに顔出しには行かんから」
静かに、前置きもなく言われた。せいじろちゃんは黙ったままコーヒーを飲む。
私は慌てて、びっくりしただけでそんな事思ってないから!とかそんな事言わずに来て!とか言った気がする。
二人に逢えないなんてイヤだとか言い連ねていると「ありがとな」と言われた。
せいじろちゃんはシマさんの脚に片手を置いたまま、ほぅと息を吐いた。


父と母は知ってるのかと問いかければお前が生まれるずぅーっと前から知られとる、と笑った。
小鉄さんも奥さんもその辺大物だよねぇとせいじろちゃんはやっといつものように笑った。



そのときに思ったのだ。


私にもいつか、宝物みたいに手を握ってくれる人ができたらいいと。
私にもいつか、どんなに辛くてもその手を離したくない人ができたらいいと。


それを二人に報告したら優しく微笑んでくれた。



ビル風が吹き抜ける。
函館とはまた違う寒さだと思う。隣を歩く人は寒さより緊張で固まりそうと言う。
東京に行くとよく連れて行ってくれるお店はもうすぐだ。二人は先に来てるはず。


暖かい店内で二人に二人で向かい合う。
ラテのカップを口に運びながら私は隣の彼に言ったのだ。
この二人は私の初恋の相手で、私はこんな二人みたいになりたいの。


そして二人にはこう告げたのだ。
私にも手を離したくない人できたのよ、と。


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これをクチシマといって良いのか判らないけど伊勢にはクチシマです。







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