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 夜更けにて



「もう、うちで寝てけばいいじゃん」


ホットカーペットと大きめのブランケット(手触りのいいやつ!)
手頃な大きさのクッションと冷えた缶ビール。
これらはコタツに負けない冬の魅惑的な品々だ。


自分の部屋のより小さなテーブルには乾物と浅漬け等の簡単なツマミ。
視線の先の画面には適当に借りてみた映画。


穏やかな時間はささやかながらも贅沢な気分にさせてくれる。


カーペットに寝転んだ大口はまるで日向ぼっこをする猫のようだ。
不安定な気圧で激務だった最近を思えばこの時間は本当に贅沢だと思う。
張りのある短い髪を撫でれば喉を鳴らす猫のように擦り寄ってきた。
「映画観らんのかい」
「この手の方が大事なのー」 上機嫌だが酔った気配はない。
画面の中では砂漠の中を人馬が駆け抜けている。

「コタツやなくってんこれじゃ寝てまうなー」
あはは!と笑う男の腕に抗わずに引き寄せられてみる。
「だけどこの温さが一番だと思いまーす」
背中から包まれ、ブランケットで覆われる。じわり、と体温が沁みる。

「砂漠も夜は冷え込むんやてな」
「放射冷却ハンパなさそうですもんね」
画面の砂漠に思いを馳せながらカーテンを閉め忘れた窓に目をやると白く曇っていた。


「外、寒そうやな」
「ですね。カーテン閉めとかなきゃ!」立ち上がった大口の体温が遠ざかる。
あー。背中寒いやん。

「あ」
引きかけのカーテンを手に大口が曇った窓を擦っている。
「嶋本さん、外」

ずるずるとブランケットを巻きつけたまま近寄れば。
「寒いはずやな」
指の跡から見える外には白い物がちらほら舞っていた。
「やっぱ寒!」判りきってて開けた窓から冷たい空気が入ってくる。

街灯の灯りが静かに静かに落ちてくる雪を浮かび上がらせていた。
音が消えた、静かな夜。

「今夜は要請入んないこと祈りますよ」当直の連中も気持ちは同じだろう。
何かを遮るように閉められた窓とカーテン。室内の空気はまだ冷たいままだが。


「もう、うちで寝てけばいいじゃん」
「・・・俺も官舎なんやけどな」
「近いから余計面倒って事で」


戻ってきた温もりにほぅ、と溜め息が出れば。
「嶋本さんが一緒に寝てくれたら俺、寒さなんて気になんないし!」
「・・・熱くなることはせんからな」明日は日勤や、と釘を刺しておこう。
「うー。善処シマス」そん時は蹴り出すと脅しもかけておく。

じんわりと沁み込んでくる体温と鼓動。

「布団乾燥機かけとけ。俺ふかふかの布団が好きなんや」
はーい!と返事をした大口は目元に口付けを落とすと寝室に向かった。
甘やかしとるな、と自分に苦笑してしまう。


今度、寒い夜が来たらうちの部屋で鍋でもしながら映画を観よう。
コタツでゆっくり晩酌してもいい。雪積もらなきゃいいですね、とか話しながら。
そして次は自分が言ってやろう。


寒いから湯たんぽがわりになれ、と。


そう決めたら雪が待ち遠しくなってきた。



『雪よ降れ降れ 今すぐ積もれ 泊まる?と聞ける 夜になれ』(作者不詳)






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