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 月夜に呟く



【マフラーに顔埋めて歩く 月しか知らない恋でした】 (作者不詳)



追いつきたくて、追いつきたくて。 貴方の隣に似合うオトコになりたくて。そんな必死な今日この頃。
どうしたって歳の差は埋められないなら早くオトナになればいいじゃんオレ!
そんな甚だしく勘違いと空回りの高速回転でエンジン焼ききれそうな頃だった。



「空元気もいる仕事やけどな。無理しすぎたらあかんのや」


ちょお付き合え!と今は違う隊の、必死にその背を追いかけてる俺たちの軍曹その人だった。
「訓練ミスったとか、出動続いたとか。そんな時はええ。寧ろ笑え」
ええー!?と大げさにぶーたれた俺をちらりと見たその人は。舌を湿らせるようにグラスの中身を舐めると。
「泣きたいときだけはガマンしたらあかんねん」 普段の『軍曹』の顔でなく。

「すり抜けてった命を想う事を、想う気持ちを押しつぶすヤツは自分に潰れてくねん」

そう穏やかに俺に告げたその人の声があまりにも優しくて。
きっとうちの隊長から聞いたのだろう。
先週の出動で俺が吊り上げた要救助者がそのまま意識が戻らないまま冷たくなっていった事を。
そのレスキューがトッキューでの俺の初出動だったことを。
この手がつかんでも戻ってこないのは何度も経験しているというのに。

焼き切れそうな俺を引き戻してくれた。まだまだお前はガキなんだと教えてくれた。
頬杖ついて空いた手で髪をかき回されたとき、俺のデニムに沁みが広がっていった。
何度も何度も髪を撫でる手の温かさが俺の涙腺までも融かしていった。


その帰り道。二人並んで歩いていると蒼い月が浮かんでいた。
「ちょっと欠けてるけどキレイな月やな」 見上げる貴方の横顔はとてもキレイで。
男にキレイは違うだろ自分!とツッコミを心の中で入れてもやっぱりキレイで。
やっぱり貴方の隣に立てるオトコになりたい、と本気で思い始めた夜だった。

貴方を独り占めしたい、と初めて強く想った夜だった。



こんな、ちょっと欠けて明るい月夜はあの横顔を想い出す。


心の底から欲しいと願ったこの想い。 心の底に無理やり沈めたこの想い。
街灯に負けない明るい月を見上げて独り歩く、こんな夜にはそっと声に出して呟いておく。


「嶋本さんが好きなんです」
届けてはならないこの呟きを白い息と共にマフラーに埋めて。


月にしか告げられない恋を、しています。





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