▼ 08
したけりゃ勝手にすればいい。やり方くらい覚えろ。そう命令したのは、俺自身が動きたくなかったからだ。
何もかもを覚えればいい。全て覚えて、欲しいだけ求めればいい。俺がしてやったら、まるで俺の方がお前を望んでいるみたいじゃないか。
「舌、出せ」
「ん…っ」
唇はくっつけたまま、低く呟く。
「俺がしてやったのを思い出して、やってみろ」
「んん、ふ、ぁ、あっ」
言われた通りに差し出された舌を、口内に招き入れてやった。
「ん、んぐ、ぅ」
どうすればいいか分からないとばかりに震えていた舌が、しばらくしてから遠慮がちに俺のそれを絡めとる。
「ん、ふ…んん、ん、んっ」
九条はきつく目を閉じ、見よう見まねで先程の口付けを再現しようとしていた。少し疎かになったとはいえ、ペニスを愛撫する手は止まらない。全く貪欲な奴だと思う。
「ふ、ぅ、はぁ…、ふ」
…下手くそにも程があるだろ。
ただめちゃくちゃに掻き回せばいいというものでもないのに、九条はひたすらセオリーも何もかもをすっ飛ばして口付ける。俺のキスを思い出せと言ったはずだ。俺はそんな無様なやり方はしていない。
「ぁ、んん、ん、ん…」
まぁ、気持ちいいなら、別にいいけど。
キスに関してはもう何も言うつもりはないので、代わりに握らされた性器の方に意識を向けることにする。
「んんんん…ッ!?」
張り出した部分を指の隙間に挟んで締め付けると、口の中に甲高い声を漏らされた。まさか俺が自分から手を動かすとは思わなかったようだ。
「んん゛ッ、ン、んぅ――っ、ん、んっ」
ぐしゅぐしゅと根元から先端まで一気に擦り上げてやると、九条はその度に背中をしならせた。強すぎる快感から逃れようとしているのか、段々と腰が引けてきている。それを無理矢理引き寄せて愛撫を続けた。
濡れそぼったモノを握っているせいで、俺の手のひらはもうベタベタだ。その上さらに透明な液が先端から滲み出してくる。まだ出すのかよ。濡れすぎ。
「…っ、ん、ん、ん!んんんッ!!」
びく、びく、と細い腰が跳ね、シャツを掴む手に力を込められた。そろそろイく頃だろう。漏れる声も段々と高く余裕がなくなってきている。
勿論そんな状態のこいつにキスを続行させる器量なんてあるわけもなく、差し込まれた舌は口の中で意味も無く震えているだけだ。
――いい気味。
心の中で嘲り笑い、強く舌を噛んでやった。
「ん゛んんっ!?」
同時にぐりぐりと尿道に指先を押し付ける。
「ぷはっ、あ、ぁ、〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
九条はガクガクと痙攣しながら白濁を吐き出した。あまりに大袈裟に跳ねるものだから、塞いでいた唇が離れていく。
「ぁ、あっ、あ…あっ」
搾り取るように何度か続けて扱いてやると、吐ききれなかった精液が押し出されるタイミングに合わせて腰が揺れた。目に溜まった涙が今にも零れ落ちそうに揺れている。
絶頂の余韻で激しい呼吸を繰り返す九条の制服のポケットからハンカチを引きずり出し、濡れた手を丁寧に拭った。
「てめ…っ、なに、拭いて…」
「お前の精液」
「なんで、俺のハンカチなんだよ…」
なんで自分のハンカチでお前の精液を拭かなきゃなんないんだよ。汚いだろうが。
「お前こういうところは本当にお坊ちゃんだよな。普通の男子高校生はハンカチなんか持ち歩かねーよ」
「別にいいだろハンカチくらい…」
噛みついてくる声にいつもの覇気がない。そんなに気持ち良かったのかと尋ねると、九条はこくこくと頷いて俺の肩口に顔を埋めた。
「すっげぇ、すげぇ…よかった」
「ふーん。つーかお前最近抜いたろ。何か薄かったし」
「!!」
「溜まってたから俺と二人になりたいとかほざいてんのかと思ってたけど、ちゃんとオナニーしてんじゃねーか」
「オ…そ、そんな理由で二人になりたいとか言うわけないだろっ」
アンタじゃあるまいし、と不貞腐れた顔をする。聞き捨てならない。俺が下半身で物を考えるみたいな言い方だ。それはお前だろ。俺を巻き込むな。
「人が善意でここまでしてやったのに、その言い草はなんだ?えぇ?まずはお礼が先だろ?」
「ひっ、ご、ごめん、ありがとうございます…っぎゃあ!」
ベシンと強く尻を叩くと、九条は悲鳴を上げた。
「痛いぃ…」
「痛くしたからな」
あとお前、肉ないし。そんなうっすい尻してたらさぞかし痛いだろう。
「おら、いい加減ズボン履け。あとさっさとそのだらしない顔を元に戻せ」
「だらしないって…」
「頬が赤い。あと目も。そんなんじゃ教室に戻すわけにいかねぇ」
「えー…でも、戻りたくないし…6限出たくねぇなぁ…」
「…6限は何の授業か分かってて言ってんのか?」
「あっ」
「この俺の授業に出たくないと。本人を前にして良い度胸だな」
九条は笑いながらごめんと言った。
「センセーの授業だったら絶対サボんない」
「当たり前のことを偉そうに言うな」
「5限サボらせたくせに、自分の授業は駄目なのかよ」
「サボらせたのは俺じゃない。お前が勝手にサボったんだ」
あんなこと言うつもりは無かったのに。どうしてくれる。お前のせいだ。俺に真っ当な道を踏み外させるな。もう二度としないからな。
立て続けにそう言い放った俺を見て目を瞬いていた九条は、しばらくしてから嬉しそうに「俺のせいなの」と呟いた。
――お前のせいだよ。何もかも。
「いぎゃっ!!」
ムカついたからもう一発尻を叩いておいた。
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