DOG | ナノ


▼ 02

そして当日、24日の夜。俺は一人、とある駅から少し離れたコンビニの駐車場に車を止め九条を待っていた。

とある駅といっても、以前二人で水族館に行った際に待ち合わせた駅とはまた別の場所だ。俺の家からも、クラス会とやらが開かれている場所からもいい具合に距離がある。

九条は俺の家に一人で行けると言ったが、いろいろと危ないので迎えに行くことにしたのである。あいつに任せているとどんな失敗をしでかすことか。用心してしすぎることはない。いつ何時、誰の目がどこに光っているかわからないのだ。

危ない橋を渡っているという自覚は勿論あるし、常に危機感を持っておかなければならないこの状態に、疲れを感じないわけではない。だが不思議なことに、この関係をやめてしまおうとは一度として思わなかった。

先程コンビニで購入した煙草を吸いながら時間を潰していると、携帯に「もうすぐこんびにつく」と連絡が来た。馬鹿そうな文面に脱力する。ちゃんと変換くらいしろ。

それから数分後、九条がやってきた。上質そうなグレーのマフラーを巻いている。寒い中を歩いてきたせいか、相も変わらず白い肌が薄ら赤くなっていた。

周囲の目が無いことを確認し、早く乗れと後ろの席を指差す。外から見えてしまう可能性があるため、基本的に助手席には乗せないことがルールになっていた。

「お迎えありがと。さみかった」

言いながら九条が乗り込んでくる。

「何かあったかいもん買ってくるか」
「いい。先生んちでココア飲む」

それは俺にココアをいれろと言っているのか。

返事をしないまま車を発進させる。クリスマスの夜だからか、そこら中がどこか浮足立ったような雰囲気で満ちているような気がした。

「楽しかったか」

ちらりとバックミラーを見ると、九条は興奮したように頷いて口を開く。

「うん!すっげぇ楽しかった!」

まるで聞いてもらうのを待っていたかのような嬉々とした様子に、ハンドルを握りながら話を続けた。

「飯、どこで食った」
「ファミレス」
「ちゃんと高校生っぽいとこ行ったんだな」
「みんなホテルの会食とかは飽きたって。俺も初めて行った」
「飽きたってなんだよ」

生意気な。ファミレスのメニューよりよっぽど美味いだろう。

「ステーキ食ったんだけど、なんかゴムみたいな肉出てきて司とめちゃくちゃ笑った!」
「……それは笑うところなのか?」
「笑うだろ!」

金持ちのツボは理解できない。

「でも味っつーかかかってるソースはうまかった」
「そうか」
「あとドリンクバーで全種類のジュース混ぜるやつがいてさ、コップの中身がすげぇ色になってんの!」

あぁ、それは皆が通る道だ。グループの中に必ず一人はそういう阿呆なことをする奴がいる。勿論俺自身はそんな真似をしたことはないが。

「あ、センセーはカラオケ行ったことある?」
「ある」
「俺は今日初めて行った」
「だろうな」
「受付でタンバリンとか貸してくれるって知ってた?」
「知らない。そんなもん必要ないだろ」
「はは、だよな!」

けらけらと笑う九条。余程楽しかったようだ。そんな様子を見て、俺はふと自分の口元が緩んでいることに気が付いた。

「あとな、なんか司が俺が昨日誕生日だったって皆に言ってたみたいでさ、カラオケで棒みたいなお菓子がいっぱい刺さったでっけーパフェが出てきた」
「パフェ?」
「誕生日祝いだって」
「そうか」

頭の中に、大きなパフェを目の前にして笑っている九条の姿が浮かんだ。市之宮と、クラスの奴と、大勢に囲まれて。きっとさぞかし騒がしかったことだろう。

「良かったな」

自然と言葉が口を突いて出てくる。楽しかったなら良かった。素直にそう思えるあたり、俺も随分と甘くなってしまったものだ。

「うん」

力のこもった返事だった。

「ちゃんと行って来いって、俺の言うこと聞いて良かっただろ?」
「おう。ありがとな先生」
「別にお礼は言わなくていい」

俺が特別何かをしてやったわけではない。嬉しかったのも楽しかったのも、それは俺のおかげじゃない。クラスメイトがお前の誕生日を祝ってくれたのは、それが奴らの意思だからだ。祝いたいとか喜ばせたいとか、クラスにとってこいつがそういう対象になったのは、こいつ自身が変わったからだ、と思う。

「うん、でも、ありがと」

こいつ自身が変わったその理由の全てが俺にあるだなんて、そんなことを言うつもりはない。

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