▼ 01
「えー、いよいよ明日から冬期休暇に入るわけですが……」
毎度毎度、始業式や終業式における校長の話というのはどうしてこうも退屈なのかと思う。
学生のときからずっと、同じことを考えている。あの頃はまさかこの歳になってまでつまらない話を聞かなければならなくなるとは想像もしていなかった。
生徒席を見ても、興味なさそうな顔をしている奴、別のことを考えているであろう奴、居眠りをしている奴が大半を占めていた。そりゃそうだ。
そんな中、九条はしっかりと目を開け、休みといえどわが校の生徒としての自覚が云々、といったお決まりの話をくどくどと並べ立てる校長の方を向いて座っている。
――珍しいこともあるもんだ。てっきり居眠り組にでもなっているもんだと思っていたが。
しかし、よくよく見ているとどうもどこかそわそわと落ち着きがない。大方休みが楽しみで、遊ぶことばかり考えているのだろう。そりゃ目も冴えるはずだ。
ガキはやっぱりガキか。感心して損をした。
そして案の定、俺のその予想は当たっていた。
「今週末、ひま?」
終業式が終わった後、教室に戻る道すがらこちらに寄ってきた九条が小声でこそこそと尋ねてくる。
……今週末。頭の中でカレンダーを捲り、合点がいった。なるほど。
「クリスマスか」
「まぁクリスマスっちゃクリスマスなんだけど、どっちかっていうとメインは23日のほう」
「23日?」
「誕生日」
誰の、とは聞かなくてもわかる。
「……家族で祝ったりしないのかよ」
「当日はな。でも24日は空いてる」
「だから何」
「何じゃねぇよ。誘えよそっちから」
「……」
「痛っ!!」
人にものを頼むときは態度を考えろクソガキ。
「どこかに連れて行ってやったりはできねぇぞ。俺の家だ」
それでもいいかと尋ねる俺に、九条は思い切り頷いた。
*
『ごめん、ほんっとうにごめん!!』
電話口でそんな風に言われ、ふんと鼻で笑う。
「別に謝ることでもねぇよ」
『でも』
でもも何も、誘ったのはそっちの方だ。その言い方だと俺がまるで当日を楽しみに心待ちにしていたようじゃないか。
「行って来いよ」
九条はあの後、クラスメイトからクリスマス会と称したクラス会に誘われたらしい。24日。丸被りである。
理事長の息子であることに加え、反抗的な態度。粗暴な言動。近寄りがたい雰囲気を纏っていた九条は、俺がこの春赴任してきた頃、完全にクラスから浮いていた。いや、クラスどころか学校中で、と言っても過言ではないのかもしれない。
大多数の奴にとって関わりたくないと思われていたであろう九条が、まさかクラスメイトと仲良く「クラス会」とは。
「折角声を掛けてもらったんだから、そういうのは大事にしろ」
友情を大切にしろとか、思い出を作れとか、そんな押しつけがましいことを言うつもりはない。だが、このまま味気なく高校生活を終えてしまうよりは、楽しいことがあった方がずっといい。
くだらない話。バカな話。有意義でもなんでもない、他愛のない話。だけどそれは無駄な時間じゃない。
もしもこの先思い出すとしたら、冷たい視線に晒されていたことよりも、孤立して誰とも触れ合わなかったことよりも、そういう時間の方がいい。
「何、行きたくねぇの」
『いや行きたいけど』
「じゃあ何も問題ないだろ。行って来いって」
『行きたいけど、先生にも会いたい』
「……」
『なるべく早く引き上がるようにするから、終わった後先生んち泊まりに行っていい?』
駄目って言っても来るくせに。
prev / next