▼ 08
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今まで話す機会もほとんどなかったけど、守山くんのことがずっと好きだったの。良ければ付き合ってくれないかな。
昼休み、校舎裏。佐藤さんに告白された。
佐藤さんは…結構可愛い。胸だって大きいし、スカートの裾から覗く白い太ももは女性らしい肉付きをしていて、以前の俺ならイチコロだっただろう。
でも、今は。
「…ごめんなさい。俺、好きな人がいるから」
こんな馬鹿な俺を好きになってくれたのに、ごめんね。そんな思いで彼女を見つめる。
「そっか」
佐藤さんはふっと優しく笑って、ありがとうと言った。
「その人と付き合ってるの?」
「付き合ってるっていうか…まぁ、そういうことになる、かな?」
付き合ってってちゃんと口にしたことはないけど…でもちゅうもえっちもするしね!好きって言われたしね!
「なんか自信なさげだね」
「だって俺いつもうざがられてるもん…」
「そうなの?そんなに守山くんに愛されてる人が羨ましいな」
佐藤さんいつも会ってるよ!っていうか同じ学級委員だよ!
「でも良かった。きっぱりふってくれて」
「ううん。嬉しかった。ありがとう」
「これからも普通に話してね。クラスメイトなんだし」
「うん」
「じゃあ、私行くね」
ひらひらと軽く手を振りながら去っていく佐藤さん。はぁ、びっくりした。まさか俺が告白されるなんて。聡太郎の言ったとおりだった。珍しいこともあるものだ。
緊張の糸が解けてほっとしているところに、再び彼女の声が聞こえた。
「あれ…村上くん、何してるの?」
「あ、ちょ、ちょっと花壇に肥料撒きに…」
「それって委員の仕事だっけ?」
「いや、ちがうけど…俺の趣味、そう、趣味なんだ」
「…変わった趣味を持ってるんだね」
「う、うん…じゃ、俺行くから…」
そのやり取りに思わず一人笑みが零れる。花壇に肥料撒きにって。なにそれ。
校舎の陰から覗く黒髪。風が吹くたびに揺れるボサボサ頭は、他でもない俺の恋人のものだ。ふふ、きょろきょろしちゃって。
「そ、う、ちゃんっ」
「ひやぁっ!?」
周りに誰もいないことを確認し、その華奢な体躯を抱きしめた。
「ひ、ひかる!ばか!離せ!」
「ねぇ聡太郎…俺のこと気になってついてきたの?」
図星。腕の中で固まる聡太郎。
「佐藤さんに付き合ってる人がいるって言っちゃった」
「え」
「もちろん俺の恋人が誰なのか…聡太郎は、分かってるよね」
耳たぶに唇をくっつけて、低く低く囁く。そうちゃんは俺のこの声に弱いはず!知ってるんだからね!
案の定聡太郎はみるみるうちに顔を赤らめ、口の中でぼそぼそと呟いた。
「…お、俺…?」
…あぁ!かわいい!ちゅうしたくなっちゃう!
「正解!ご褒美にちゅうしてあげる!」
「ばか!ここは学校だ!」
「誰も見てないよ」
「んむっ」
ちゅっちゅっとその赤い唇に吸い付いていると、抵抗していた手がとまる。ほんと流されやすいんだから。もう。俺以外にそんなことしたら絶対に許さない。
「…ひかる」
「なーに?えっちなおねだ…いっ!いひゃいよほうはほー!」
思いっきり頬を抓られた。あれっ!?俺のキスでうっとりしてた聡太郎はどこへ!?これからむふふなことするんじゃないの!?
「学校ではやめろって言っただろ!もうお前なんか知るか!」
どかどかと足音を立てながら校舎に戻っていく聡太郎。しかし俺は気づいている。
…聡太郎、うなじまで真っ赤!
「ふふふふふ」
「気持ち悪い」
大好きだよ。他の人なんて絶対見ないから、聡太郎もずっとずっと俺だけを見ててね。
end?
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