▼ おまけ
*
風邪をひいた。もうすぐテスト期間だっていうのに、ついてない。
しかも今日は確か委員会があったはず。佐藤さんに申し訳ないな。まぁ俺のことなんて誰も気にしてないだろうけど。
…たった一人の例外を除いては。
聡太郎、と俺の名前を呼ぶひかるの顔が頭の中に浮かぶ。今頃授業を受けている頃だろう。あいつ課題やったかな。居眠りしていないかな。
俺がいなくても、ちゃんと、いい子にしてるかな。
…って、なんだそれ。いい子って。馬鹿か俺。
まぁ確かにひかるは犬っぽいけど。明るい茶色の髪とか、人懐っこく笑うとことか。背が高いことを考えると、大型犬みたい。
「…ひかる」
無意識のうちに口をついて出た言葉が部屋に響く。あぁぁ、もう、なんなんだよ。こんなときまで俺の中に出てこないでよ。なんか、寂しいと思ってるみたいでやだ。
寂しくない。俺は全然寂しくない。だって昨日も一日中一緒だったじゃないか。
ばさっと布団の中に潜る。さっさと寝よう。もうやだ。
――聡太郎、かわいい。好き。大好き。
「…」
うるさい。うるさいうるさいうるさい。思い出すな。
――ほんと、食べちゃいたい。
「ん、」
馬鹿、馬鹿。あ、やだ。
――えっちな聡太郎のこと、俺にもっと教えて?
「あ、う…」
気がつけば俺の手は下半身に伸びていて、下着の中にあるそれをゆるゆると弄り始めていた。
段々と息が荒くなっていく。火照る身体は風邪のせいか、それとも別の理由からか。
「はぁ、ん…ひか、る」
くちゅり。指を動かすたびに聞きたくもない水音が鳴って、耳を塞ぎたくなった。
尋常じゃないほどの先走り。このままじゃ汚れてしまう、と布団の中で足を動かしてズボンとパンツを脱ぎ去る。
――見て。聡太郎のちくび、俺にいじめられて悦んでる。
ひかるの指先を思い浮かべて、乳首に触れてみた。人差し指と中指の間にきつく挟み込むと、びりびりとそこから快感が広がっていく。
「んんっ、あ、やっ」
ちくび、もっと。もっとして、ひかる。
お前に触られると、とろけちゃいそうな程気持ちが良い。触れたとこから好きだよって言われるみたい。
「ひかるぅ…あ、もっとぉ」
無遠慮にまさぐってきたような、今までの気持ちの悪い手とは全く違う。いや、もう比べること自体が間違っている。
だって、俺も、お前のこと、
「聡太郎!」
あぁ、ついに幻聴まで聞こえるようになったのか。俺は本当に末期だ。
「俺だよ!ひかるだよ!聡太郎の大好きなひかるだよ!」
そうだよ、俺はお前のことが、大好きだよ。
…え?
「…っひかる?」
埋めていた顔を上げて、ドアを見る。そこには太陽のように笑うひかるがいた。
え、なんでここにいるの。っていうか俺、何してんの…。混乱するこちらを余所に、ひかるはベッドに近づいてきた。えっ、ちょっ、近くに来られたら困るんだけど。
「大丈夫?熱は下がった?顔見せて」
…もぉ、やだ。どうしてこうなるんだよぉ。
嬉しそうなひかるの声を上の空で聞きながら、俺はどうやったらこの状況を切り抜けられるか、必死に考えていた。
end.
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