▼ 02
赤く火照った頬、潤んだ瞳…それは、まるで情事時の表情そのもので。
まずい。何がやばいって、こいつが完全に興奮しきっているからだ。ただでさえ人通りが多い飲み屋街、こんな場所で盛られちゃたまったものじゃない。
とりあえず口を覆ったまま、そろそろと人気のない道へ引きずっていった。腕の中で暴れられたが、小柄な瑞貴が俺の力に勝てるはずもなく。
街灯の光すらあまり届かない、一本外れた通り。他の人の姿が見当たらないことにほっとして、俺の手を舐め続ける頭を引きはがす。
「瑞貴、ちょっと…やめろ」
「やっ」
「やじゃない」
「ふみくん…」
「なに。その呼び方やめてくんない」
「ふみくん、えっちしよ」
は?
「したい、おれ…ふみくんとえっち、したい」
もう一度言う。
は?
「何言って…」
「ん、もう、俺勃ってるからぁ」
突然抱き着いてきたかと思えば、ぐりぐりと下半身を押し付けてくる瑞貴。確かにそこは、硬い感触がする。…まじかよ。
「ふみくん、おねがい、しよ」
「みず…」
「んっ」
混乱する俺の頭を両手で固定し、すごい勢いで唇に吸い付かれた。すぐに舌が入り込んでくる。
「ん、ふぁ、は…ぁっ」
ちゅうちゅうと音を立てて何度も口付けられ、頬が熱くなるのが分かった。…なにこいつ。鼻息荒くてうざいし、歯当たってめちゃくちゃ痛いんだけど。へったくそ。
でも、
「ひ、う…っ」
「あー…もう無理。馬鹿じゃないの、お前」
そんな拙いキスは、俺を興奮させるのに十分すぎるくらいには卑猥だった。
瑞貴の身体を引きはがし、そのまま肩に担ぐ。重い。そりゃそうだ、こいつは男だし。
「やっ!えっちするの!」
「だからぁ、こんなとこでできるわけないだろ」
「できる!」
「青姦とか変態かよ」
「へんたいでいい!」
…勘弁してくれ。舌ったらずというか、ろれつの回らない喋り方で話しかけてくる瑞貴は、その…なんていうか。すごく…やっぱりなんでもない。
耳元で騒がれるのがうるさくて、でも何だか心地よくて、俺は小さく溜息を吐いた。
…はぁ、もう。
「帰ったらいっぱいしてやるから、静かにしろ」
「ほんとっ」
「でもこれ以上騒いだらしない」
「わかった!しずかにする!」
「そんなにしたいわけ?」
「したい」
「なんで?」
「きもちーから」
「あぁそう…」
「あとね、ふみくんとえっちしてると、すっごくしあわせだから」
「しあわせ?」
「うん。だから、いっぱいしてね」
「…」
ふーん。
「ふみくん、なにわらってるの?」
「別に」
俺も幸せだよ、とは言ってやらない。
「この酔っ払いが」
お前の酔いが醒めたらいくらでも言ってやるよ。
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