▼ 01
――ちょっと飲ませすぎたみたい。ひふみ、今から迎えに来れる?
「…」
そんな慎からの連絡を受けて、指定された場所に辿り着いたのはいいけれど。
「んふふ」
…誰だこいつ。真っ赤な顔をしたままテーブルにぐでんと臥せっているその姿を見て、眉間に皺が寄った。んふふって。
「一応止めたんだけどね…そんなに飲んだら絶対後引くからやめときなって。でも瑞貴ってば聞かないんだもん」
「おれは酔ってらい!」
らい、じゃねーよ。
「ごめん」
「いやひふみが謝らなくても…」
「電話ありがとう。助かった」
「いえいえ」
「こいつの分のお金、これで足りる?」
「うん。大丈夫。ありがとー」
財布から千円札を数枚出して慎に手渡す。良かった、お金下ろしたばっかで。
「おら、瑞貴。帰るぞ」
「やら!」
「立て」
「やら!」
「この酔っ払いが…」
「ふみくんがおんぶしてくれなきゃやら!」
「ぶふっ」
慎が噴き出した。肩を震わせている…笑うな。
「…」
「いたっ!」
ムカついた俺は、真っ赤な顔をして駄々を捏ねる瑞貴の額を叩いた。ぺちりと小気味のいい音がする。ふざけんなよ。何がふみくんだ。
「ふ、ふみくん…ふふ…」
「…忘れろ」
「いや、しばらくこのネタで笑えそう…ふ、く…」
笑いすぎて目に涙を滲ませている慎。いたたまれなくなって、無理矢理この酔っぱらいの腕を掴んで引っ張った。
「やだぁー!帰らなーい!」
「なんなんだよお前は…」
「帰らない!」
「…分かった。そんなに言うなら俺帰るから。ばいばい」
「やだぁぁぁぁ!」
「うるさい」
「おれも帰る!」
「はぁ…じゃあ慎、ごめん。また」
「うん。お疲れー頑張ってね」
天邪鬼にも程があるだろ。あぁもう声でけーしなんなのこいつ。腕にしがみ付いてくる性質の悪い男を引きはがそうとしながら、慎に別れを告げる。最後の最後まで笑われた。
店の外に出ると、空気が少しひんやりとしているのを感じる。これで少しは酔いが醒めればいいんだけど。
「おい、離れろ」
「なんれ?」
「外だから」
「俺のこといや?」
「…そういう問題じゃないから」
「い、いやなんら…」
じわりと瞳に涙を滲ませた瑞貴。突然の反応に思わず固まってしまった。
「俺に、さわられたくないってことだ…」
「いや別にそんなことは…」
「じゃあして!」
「は?」
「ちゅうして!」
「は?」
「ちゅう!ちゅう!」
「ちょ、うるさ…」
道端で大声をあげるその口を慌てて塞ぐ。周りの人からの視線が集まっているような気がして、内心冷や汗をかいた。ふ、ふざけんなこいつ酒癖悪すぎ。もう当分飲ませねぇ。
「…っ」
べろり。掌に濡れた感触。
「ん、ん」
「…お前…」
間違いない…舐めてやがる。人の手を。
prev / next