▼ 03
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あれから慎と別れた俺は、ひふみがバイトをしているという店に来ていた。日中はカフェ、夜はバーだというそこは、俺のような田舎者にとっては別世界だ。
メールしても返事がない。電話にも出てくれない。家に行ってもいない。…なら、直談判しかないじゃないか。
「…よし」
店のドアに手をかける。もう何週間も顔を合わせていないせいか、ひどく緊張していた。変なの、再会するときはこんな風に思わなかったのに。
思い切って扉を開ければ、薄暗い店内の様子が目に入ってきて少しホッとする。良かった、煌々としてたらすぐ気が付かれちゃうもんな。カウンターの一番端っこの席に目立たないように移動しながら、ちらちらとひふみの姿を探した。
…とりあえず今はいない…と。
「お客様、ご注文はいかがいたしましょう?」
「あ、…えっと、ノンアルカクテル…なんでもいいんで…」
酔っぱらっている場合じゃないし。とりあえず何か適当に飲んで、そんでひふみっぽい奴がいたら話しかければ…。
「…」
しかしいくら待っても、奴は一向に姿を見せなかった。一か八かで来てみたけど…やっぱ、今日はバイトじゃなかったんだろうか。
なんかトイレ行きたくなってきた。水分ばっかり摂ってるからだ。
トイレ…は、こっちか。
一旦席を離れ、店の奥の通路を進む。
「ねぇ、いつ終わるの?私たち待ってるからこの後一緒にどっか行こうよ」
「やだあんた何誘ってんの!」
「だって超タイプなんだもん」
「ガツガツしすぎだって、うける」
甘ったるい女の声が聞こえた。くっそ、こんな狭い場所でいちゃついてんじゃねーよ。これだから都会の奴は…。てか男の方店員じゃねーか。自然と眉間に皺が寄る。
「最近よくシフト入ってるよね?かっこいいなって思って見てたんだ」
「…はぁ、どーも…」
…!?
思わず顔を上げた。囲まれていてよく見えないが、この声は、間違いない。
「名前なんていうの?」
「…橘、です」
「そうじゃなくて、下の名前」
「あー…フミヤ」
誰だよフミヤ。お前、そんな名前じゃないだろ。
…店員がこんなところで仕事サボって、女と楽しく雑談か?
「えっ」
「きゃ、何…!?」
トイレへと向かう通路。その前を通り過ぎる瞬間に、ぐいっと腕を掴んで引っ張った。突然のことに戸惑う女の声が聞こえるが、そんなのに構っている余裕なんてなかった。
「っ、瑞貴…!?」
そのまま男子トイレに引きずり込む。何でお前がここにいるんだ、という表情を浮かべる店員の…ひふみの顔をキッと睨み付けた。
「へらへらしてんじゃねぇよ」
「え、なん、で…」
「女にちやほやされて、そんなに楽しいかよ…っ」
「はぁ?…ちょっ」
こっちがどんな思いしてたか知らないくせに。ふざけんな。
「おいっ、やめろって!」
「うるせえ」
奴の前にしゃがみこみ、ズボンのファスナーに手をかける。俺が何をするか分かったらしく後退りするが、狭い空間の中で逃げられるはずもない。ドンっとひふみの背中が壁につく音がした。
「ん、」
「っみず…」
ちゅ、と取り出したペニスの先端に口付ける。
やめろと両手で頭を引き離されそうになるが、構わず舌を伸ばした。
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