▼ 02
「ひふみが自己中なのは、別に今に始まったことじゃないでしょ?メールだってあの人が返す方が珍しいじゃん」
「そうだけどさぁ…」
「いっつも喧嘩してるよね。何で今まで一緒にいたのか、俺にとってはそっちの方が不思議だよ」
空になったグラスの中をストローでぐるぐるとかき回しながら、慎は仕切り直すように結局今回の原因はなんなのと首を傾げた。
「大事にとっておいたプリンを食べたとか、録画した番組を勝手に消したとか?」
「それは中学のときの話だろ」
どうしていちいち覚えてるんだお前は。…っていうかこうして改めて言われると、ひふみも結構些細なことで怒るような人間だったんだな。はは、器の小さい男め。
「んー、じゃあ一体何だろうね」
「…分からん。だってアイツ、何も言ってくれんもん」
いつもそう。大事なことを、奴は一度だって話してくれたことがあっただろうか。
なぁ、ひふみ。お前だって知ってるだろ?俺は言われなきゃ気づけない。分かろうとしてみても無駄な努力に終わってしまう。…馬鹿だから。
「仲直りしたいの?」
「仲直りっていうか…」
そもそもこれは喧嘩なのか?いや違う。一方的すぎる。
ちゃんと、俺に話してほしい。どう思ってるとか、何が嫌だったとか、全部全部ぶちまけてほしい。隠し事なんかすんなよ。
「ふーん…」
上から下まで目を動かし、こちらを舐め回すような視線で見つめる慎。
「な、なんだよ」
「ひふみが何も話をしない理由を、瑞貴は考えたことある?」
「理由…って」
「ここからは俺の想像だけど…多分、ひふみの性格なら、」
「性格なら?」
「…」
沈黙。
喉がカラカラに乾いていることにふと気が付いて、すっかり薄くなってしまったジュースに手を伸ばした。氷がほとんど溶けてしまっている。
「…瑞貴は、ひふみのこと好きなん?」
ズゴッと嫌な音がした。無論俺が噴き出した音である。この間はラーメンで、今日はジュースかよ。俺の喉そろそろ死ぬんじゃね。
「っ、はぁ!?」
「あれ、何その反応」
「お前がなんなん!?」
「俺は好きだけどな」
「は!?」
「ひふみのことも、瑞貴のことも」
勿論、友達としてね?
にこにこと屈託なく笑う顔。しかしその笑顔に、何か悪意が含まれているのはきっと気のせいじゃない。
「…す、」
「す?」
そういう意味なら俺だってひふみのことも勿論慎のことも好きに決まって…ん?
あれ。本当にそうか?俺、ひふみと慎を同じように見ているか?ぐるぐると混乱していく思考。自分のことなのに分からないなんて。こんな感覚は初めてだった。目の前の男にそんな俺の気持ちを全て見透されているようで、居心地が悪くなる。
「っ、お前のその顔ムカつく」
「別に他意はないのに。考えすぎじゃないの」
「他意しかねぇだろ!」
「言葉にすることがそんなに大変なことかな」
そんなこと、こっちが聞きたい。俺の訳が分からないこの思いも、アイツが一体何がしたいのかも。言葉にすれば何かが変わるということなのか。
「…」
無言でほぼ水になってしまったジュースを飲む俺に、慎は面倒くさい二人だねと言ってまた笑った。
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