▼ 02
恐る恐る頭上にあるひふみの様子を窺ってみる。
「あのー…ごめん、なんか変なこと言ったんだろ?気にしなくていいから。な?」
「気にする。超気にする」
つーん、と効果音がつきそうなくらい思いっきり顔を背けられた。…可愛いなこいつ。なんだよその子どもみたいな拗ね方は。こんな状況にも関わらず少しだけ萌えてしまう。
「機嫌直せよー…」
「やだね」
「俺なんて言ったの?」
「…」
手を伸ばして宥めるようにその頬を撫でてみたが、以前としてひふみの表情は変わらない。俺は本当に何を口走ったんだろうか。確か学校で生徒と話しているような気になってて、そんで…。
「いっ!?」
突然耳を甘噛みされた。耳朶にがぶがぶと歯を立てられる。怒っているという主張なのだろうか。ちょっと痛い。
「ひ、ひふみ?」
「…先生」
「はい?」
「先生、なんだろ?」
「いや俺は確かに先生だけど…なに」
お前にその呼び方されるのはちょっと…違和感がすごい。一体何だって言うんだ。クエスチョンマークを浮かべている俺に、ひふみはなおも先生先生と囁き続ける。
「先生…」
「だ、だから急に何だって…おい!馬鹿!やめろ!」
冷たい指先がするすると北上してきた。すかさず奴の手首を掴んで止めさせようとする。
これは確実にヤろうとしている手付きだ。俺には分かる。こっちは明日は休日だから構わないと言えば構わない(いやもう眠りたいけど)が、こいつ仕事だろ。何考えてんだ。
「別に今日は入れない」
「あ、そう…」
「いやなわけ?俺に触られんの」
「んなことねぇけど」
「ならいいじゃん。何も問題ない」
いやいやいや、大ありだっつの。大体朝起きれなくなって困るのはお前の方なんじゃ…。
「ん、ん」
抗議しようと開きかけた口を塞がれた。勿論唇で、だ。すぐさま舌が入り込んでくる。
「んっ、う…ふ、ぁ、ん…」
「もっと口開けろよ、先生」
「だから…その先生っていうのはなんなんだよ…」
「そっちが言ったんだろうが。俺のことは先生って呼べって」
「それは寝ぼけて間違えたんだよ!分かるだろ!」
「分かってる」
けど、ムカついたから。
そのひふみの言葉にますます疑問が湧いてくる。
「…ムカついた?」
「だって俺と生徒を間違えるとか」
「うっ」
それは…その…申し訳ない。
「しかもお前は俺の恋人じゃないって怒ってた」
「えっ、そ、そんなこと言ったかなぁ…」
「言った」
やばい。やばい。これは完全に俺が悪い。言い訳も言い逃れもできないではないか。
あわあわと焦っているうちにも、どんどんと手が身体を弄ってきた。服を捲り上げられ、薄暗い室内に自分の肌が浮かぶのが見える。
「だからお望み通り、今日は先生って呼んでやる」
「んなこと望んでねぇし!」
「それならそれで好都合。俺のこと間違えた罰な」
「ごめんって!俺が悪かったから、やめ…んっ」
くに、と胸の先端を指で抓られる感触。鈍い痛みと熱が全身に走った。もう数えきれない程触れられたおかげで、弱いところも良いところも全て知られてしまっている。むしろひふみの方が俺の身体のことを分かっているかもしれない。
「…先生、乳首勃ってるけど?」
「やっ、ばか!先生はやめろって…あっ!」
「なんで?」
ひふみは先程の無表情から一転して、悪そうな笑みを浮かべた。
「な、なんか変…ッあ、んんっ、ふ…」
「変?」
この家のこの部屋で、ひふみといる俺。学校でスーツを着て先生と呼ばれる俺。
二つは全く別物の自分で、完全に切り離されたものというか…オンオフっていうの?どこかに切り替えるスイッチがあって、二つは決して交わることは無い。
だから、そんな風にありえない人物にありえない呼び方をされると。
「なんか、すごく悪いこと、してる気分に…なる…」
緩く、けれど決して無視できない甘い刺激に少しだけ息を乱しながら呟くと、ひふみは一瞬きょとんとした後、悪そうに口の端を吊り上げる。
「悪いこと、ねぇ…」
「んんんっ!」
急に強度を増す乳首への愛撫。びくりと全身が震えた。
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