▼ 03
このままじゃ流されてしまう。いけないと思うのに、口からは期待しているような吐息が漏れるばかりだ。
ぐちゅ、と耳元で水音が鳴った。舌で耳の穴の中を舐められている。直接脳の中に卑猥な響きが流れ込んでくるみたいだった。
「や、やだ…音、立てんなぁ…っ」
「やだって顔してない」
「てめっ…う、んん…ふ、ん」
包み込むような口付け。歯列を確かめるようになぞられて、また身体が震える。
…だからっ、なんでこんなにキスが上手いんだっつーの!
直接的な歯だへの愛撫ならまだしも、口内を好き勝手に弄り回されることがこんなにも気持ちの良いものだとは知らなかった。それこもこれも全てこいつのせいだ。
「あ、はぁ…ッ、ん、ん、ん…っ」
そっと首に腕を回してみると、ひふみがキスをしながら微かに笑いを漏らす。もっと欲しいと思っているのがバレたんだろう。
「…もっとして欲しい?」
「ん…して」
「やらしいな、瑞…先生」
おい、今瑞貴って言いかけたよな。なんでわざわざ言い直す必要があるんだよ。蕩けかけていた思考がちょっとだけ覚めてしまった。
「先生はやめろ」
「ん…?」
ん…?じゃねーよ!無駄に良い声で返事してんじゃねーよ!
ちゅっちゅっと軽く頬にキスをしながら俺の服を脱がすひふみ。やる気満々である。まぁ俺もすっかりやる気になってしまったので、同じようにその服を脱がしにかかった。
「さっき言っただろ…わ、悪いことしてる気分になるって」
「背徳感か。なんかエロくていいんじゃねーの」
「何言ってんだうすらボケ!」
何が背徳感だ。そんなもんいらんわ。
「もう黙ってろ」
「黙ってろって…っひ、ぁ」
互いに裸になったところで、ひふみの手が既に緩く勃ち上がっている俺のモノを撫でる。
「んっんっ…ん、あぁ、あっ」
「…俺のも触って」
「ん、わ、わかった…」
今日は入れない、と言ってたっけ。扱き合いで終わりにするんだろうか。
…俺は、入れられても別にいーんだけどな…ってちがう!
うずうずと後ろの穴に刺激を欲している自分に気づかないふりをした。これでは俺がちんこだけじゃ足りない淫乱みたいじゃないか。俺は男の矜持ってやつをまだ失いたくはない。
「あっあぁ、ん…うぁっ」
「ん…」
握らされた熱い昂りを夢中になって弄っていると、少しずつ先走りが滲み出してきた。ヌルヌルしたそれを塗り込めるように、手のひら全体を使って愛撫する。
部屋にはぐちゅぐちゅという濡れた音と、俺とひふみの荒い息だけが響いていた。
「ふ…っひ、あ、そこ、そこいい…っ」
「ここ?」
「んぁぁぁっ、んっ、んんぅっ、あぁ!」
「っ、はぁ…」
「あぁ…ッ!」
ぐいぐいと腰を押し付けられ、性器同士が擦れる快感に身悶える。それはひふみも同じなようで、すぐ近くで低く喘ぐ声がした。そんな切羽詰ったような姿が愛しくて、扱く手が激しさを増す。
「あっ、やぁ…そんな、押し付けんなぁ…っん、んぅ」
「よく言う…っそっちだって、腰、浮いてるくせに…」
うるさい。分かってるよそんなこと。
指で形をなぞって、確かめて、その硬さに興奮する。あぁもうすっごい熱いこいつの。
「ひふみぃ…っ、あ、あぁっ、ひふみ、ひふみ…」
「なん、だよ…う、ぁ…っ、ふ」
「俺、俺もうやばいぃ…いく、いきそ、はぁっん、ん!」
シーツに後頭部を擦りつけ、泣きそうな声でそう言った。ガクガクと腰が揺れる。
「…あ…っあ…?」
「だーめ」
途端、ひふみの手が止まった。今まで押し付けられていたモノが離れていく。
「お、お前なぁ…っ!最近焦らしてばっかじゃねーか…!ふざけんなよ!」
同じ男だから寸止めされたら辛いってことくらい予想できるだろ!つーか何度言ったら分かるんだよ!
キッと鋭い視線で頭上の顔を睨むが、ひふみは目を細めて微笑むだけだった。
「ムカついたって、言わなかったっけ?」
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