シック・ラバー | ナノ


▼ 01

教師という職業は昔からの夢だった。

だからその夢を叶えることができた俺は今結構幸せで、おまけに恋人と同棲なんかしちゃって、ちょっと最近恵まれすぎじゃないのかと心配になるくらいなんだけど。

「萩ちゃんって彼女とかいんの?」
「えーいないでしょ。だって萩ちゃんだよ」

まぁ勿論、大変なことだってたくさんある。

「あのなぁ…俺のことは先生と呼びなさい。タメ口をやめなさい。あとそういうプライベートな質問には答えられません」

教師らしく丁寧な口調で注意する。これがひふみや慎相手なら「うるっせぇ黙ってろ!!」と大声を上げているところだ。

しかし今目の前にいるのはそんな気心知れた人物ではなく、まだまだ未熟な生徒たちである。しかも女子。この年頃の無邪気で気難しい異性はどうも苦手だ。

ついでに言うと今は掃除時間であり、雑談をする時間ではない。

「だってさぁ、萩ちゃんってあんまり先生っぽくないんだもん」
「本当に大学卒業したの?」
「しました。一応お前たちより7つは上なんだからな」
「うっそだぁ」

嘘じゃねーし。っていうか萩ちゃんって何だよそのあだ名。

「いいから早く掃除をしろって。俺はお前らと雑談するためにここにいるんじゃないの。掃除の監督のためにいるの」
「あっ、話逸らした!やっぱり彼女いないんでしょ」
「人の色恋沙汰なんか聞いて何が楽しいんだよ」
「彼女いないならー、私が萩ちゃんの彼女に立候補してあげるね!」
「そりゃどうも。謹んで遠慮申し上げます」
「なにそれぇ、ひどい」

きゃっきゃっと黄色くはしゃぐ声を聞きながら、俺は深く深く溜息を吐いた。

――教師って、大変な職業だ。



夕食を済ませ、風呂にも入った。髪も乾かしたし後は寝るだけだ。

明日は休みだから午前中だけ持ち込みの仕事して、午後からは買い物行って…あーひふみの奴は仕事だっけ。んじゃちょっと豪華なご飯作って待ってるかな。

ベッドに寝転びながら、頭の中で翌日の予定を立てる。暫く目を閉じていたら、段々と眠気が襲ってきた。あっという間にうとうととまどろみの淵に引きずり込まれていく。

「おい、瑞貴」
「んぁー、なに?」
「寝るんならちゃんと布団の中入れよ。風邪ひくだろ」
「わぁかってるってぇ」

そう返事をしたのはいいが、身体はもうすっかり寝る体制に入っているため、わざわざ動く気にもなれない。

…もうちょっと、もうちょっとしたらちゃんと布団入るから。

「瑞貴」
「うん…」
「瑞貴」

軽く身体を揺さぶられる。何度も名前を呼ぶ声が聞こえて、俺は夢見心地のまま呟いた。

「だからぁ…おれのことは先生って呼べって言ってるだろ…」
「は?」
「おれはおまえの恋人じゃねっつの…」
「…は?」

全く、俺がまだ若いからって調子に乗りやがって。まぁ親しみを持たれるのは嬉しいし、俺も高校生の時は若い先生には馴れ馴れしかったんだけど。でもやっぱり憧れなんだよなぁ、先生って呼ばれるの…って。

「うひゃっ!?」
「…おい」

冷たいものが肌に触れ、ガバッと飛び起きる。見れば、ひふみの手がパジャマの裾から入り込んでいた。

「なっ、なんだよいきなり…びっくりすんだろ」
「呼んでも起きないから」
「相変わらず手冷たいなお前」
「今、何つった?」
「え?」

言われてふと気がつく。そういえば寝ぼけて変なこと言ったかも。

「ごめん。半分寝てた。俺なんて言ってた?」
「…へぇ」
「…なんか怒ってる?」

ひふみの周りの空気が怖い。心なしか温度が低くなったような気もするし、何よりこいつの顔が能面のように無表情になっている。これは完全に怒っているときの顔だ。俺には分かる。っていうか俺じゃなくても分かる。

「えっ…え、ちょっと、ひふみさん…?」

突然肩を掴まれた。そしてそのままベッドの上に押し倒される。

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