毒を食らわば皿まで | ナノ


▼ 04

ぐり、ぐり、と壁を強く抉られて悶絶する。遠慮なしに奥まで突っ込まれてはまた引き抜かれ、濡れた腸内で津々見の指が好き勝手に動き回った。

「んく…ッ、あ、あぁっ、あ、う、んぁっ」

押し殺そうとしても無理だ。喉を突いてせり上がってくる嬌声が個室に響き渡る。きっと今誰かがここに入ってきたら、一発で何が行われているか察するだろう。

「…君、本当に小山?そんな声出せんの?」

そんな声ってどんな声だ。自分の声なんてもう聞き慣れてしまった。与えられる快感に浸り、ただひたすらに媚びたような息を吐く自身を、小山はどこか傍観者のような気持ちで感じていた。

ぬちゅぬちゅとした水音とともに精液が掻き出されていく。それに比例して身体が刺激を貪欲に貪ろうとする。既に小山の性器はパンパンに張りつめて蜜を零し続けていた。

やばい。気持ちいい。形が分かるほどに指を締め付けているのが分かる。少しでもいいところに当たるように身を捩った。

「ここ?」
「ひう…ッ!あ、あぁっ!あ、はぁ…!」

小山の動きを読み取った津々見は、いとも簡単にその場所を探り当てる。いつの間にか二本に増やされていたそれが、緩急つけた繊細な手付きで気持ちの良い部分を何度も擦り上げた。

「ふ、うぅ…っ、あ、んんッ」
「すごいね。きゅうきゅうしてる」
「か…ちょ、課長…っ、そこ、もっと擦ってくださ…!」

スーツを汚さないよう、生理的に溢れそうになる涙を必死に堪える。津々見の肩を掴んで額を離し、その顔を見つめて懇願した。

「…泣くほどいいんだ」

視界に映る彼の顔からは、何の感情も窺うことが出来ない。ただひたすらもっとと強請る小山を観察しているような目つきだ。

見られている。それがまた興奮材料になって、小山は荒い息を吐き出す。浅ましい身体だと思いつつ止められない。

「あぁっ、あっん、う、あっ、かちょ、課長、お願いします、ちが、そこじゃなくて…」
「あのさ。今俺が何してるか分かってる?」
「え…っ、ぁ、な、何って…」
「小山のこと気持ちよくしてやろうとしてるわけじゃないんだけど」

何を言っているのだこの男は。セックスしようと言ってきたのはそっちではないか。だから自分はこうして股を開いているのに。

疑問符を浮かべた小山に、津々見はその甘い瞳を細めて笑った。

「俺はただ精液を掻き出してやってるだけだよ。このままじゃ午後から仕事なんて続けられないでしょ?」

確かに彼の言う通りだが、後処理くらい自分一人でできる。むしろ一人でやった方が楽でいい。わざわざ人に掻き出してもらう必要などどこにもない。

「さっきまで他の男に抱かれてた奴とセックスできるほど、俺の神経は図太くないから」
「…」
「小山なら俺の言ってること理解できるよね」
「ん…っ」

ふっと耳に息を吹きかけられ、身体中に痺れが広がる。たかが息一つでこんなになってしまうのは、すっかりスイッチが入っているせいだろう。

「分かるか分からないか聞いてるの。答えられない程余裕なくなっちゃってるわけじゃないでしょ?」
「あ…」

津々見の言っていること。それはつまり。

「…いつに、しますか」

他の男の証が残っているから今は抱かない。でも後に必ず抱く。言葉の裏にある意図を読み取り、小山は恐らく正解だろうと思われる問いを投げかけた。予想通り彼は満足そうな表情になる。

「さすが物分かり良い奴は違うね。でも一つ訂正させて」
「訂正?」
「いつって決めちゃうと、まるで一度しかしないみたいじゃない?それじゃ意味ないんだよ」
「…自分は別に何回したって構いませんけど」

セックスなんて所詮快感を得るためだけのものだ。自慰とそんなに変わらない行為だと思っているし、今更抱かれるのが嫌だなんてプライドもない。むしろ自分から積極的に誘っているわけで。

幸いなことに津々見は「上手」な方だ。小山の性欲を満たしてくれるのに十分すぎるほどのテクニックを持っている。そんな相手と何度も身体を重ねる提案をされるのは、願ってもみないことだった。

問題は、彼が面倒な人間でないかというところなのだが――。

「やっぱこういうこと慣れてんだ」
「まぁ…好きなんで、セックス」
「気持ちいいことが好き。でも恋人なんて面倒な存在は必要ない。だから後腐れない相手と身体だけの関係…ってか」

その通りだ。自分は誰か特定の人と付き合うのに向いていない、と思う。気楽な今の生活を気に入ってもいた。必要なときに必要なだけ。無駄がない。誰も傷つかない。誰に迷惑をかけることもない。

「悪いけど、それ全部止めてもらうから」
「は…?」

間抜けな声が出た。当然だ。

いくら上司でも私生活にまで口を出される筋合いはないはずだ。弱みを握られているとはいえ、その代償としてこうしてセックスという行為を差し出しているのだから、それで相殺にするつもりだった。

「…!?」

訳が分からない。この男の考えていることが全く読めない。動きを止めた小山の口を、津々見が塞いだ。

「ん…っん、ぁ、ふ、ん――ッ!!」

唇をこじ開けて侵入してくる舌。歯列をねっとりと執拗になぞられて力が抜けていく。

「んんっ、んぅ、ぁ…んん!」

逃げようとした舌を絡めとられた。互いの唾液が混ざり合うかのごとく流れていく。何度も何度も角度を変えつつ、それでも離れない唇のせいで、時折開いた隙間から酸素を吸い込むので精一杯だ。

――この人、めちゃくちゃキスがうまい。

頭の芯がぼーっとして、何も考えられない。普通なら苦しいだけのはずなのに、触れ合った舌先から熱いものが広がっていく。ずっとこうしていたい、と錯覚してしまいそうだった。

濃厚な口付けの中、未だ後ろに埋め込まれたままであった指が、不穏な動きを見せるのを感じ取る。やばい、と小山は反射的に身体を震わせた。

こんな敏感になった状態でまたそこを弄られたら、絶対に物足りなくなる。津々見は今セックスはしないと言った。そんな中途半端な状態で仕事に戻るなんてまるで拷問ではないか。

指だけじゃ、無理だ。もう自分はそういう身体になってしまった。

しかし、津々見は小山の心中など知る由もなくさらに手を進めてくる。

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