毒を食らわば皿まで | ナノ


▼ 05

唇を離して拒もうとするが、何故だかこの口付けを終わらせることができなかった。

「んん!んっ、ん、ん、ぁ…や」

ぐちゅぐちゅと激しく指が出入りし、生温い液体が掻き出されていく。

どうしよう。どうしようどうしよう。どうしてこんなに気持ちがいい。

「ん…ッ、は、んん!んっ!んっ、ぁ!あぁ…ン!」

漏れ出る声も食べつくすかのような荒いキスと、内側を擦られる強い刺激。自分がどんな顔をしているかさえ分からなかった。勝手に身体が痙攣する。コントロールが利かない。

飲み込めない唾液が顎に伝う。それをまた舌で舐めとられる。なんてやらしい行為だろう。

「ひ…っん、んんぅっ、んぁぁっ、ん!はぁ…っ」

段々と射精感がこみ上げてきた。内側が不規則に蠢き、津々見の指を懸命に咥えこもうとする。濡れそぼったペニスを無意識のうちにごしごしと扱き、さらにその先の悦楽を求めた。

「…イく?」

中の具合と小山のそんな乱れっぷりを察知してか、唇をくっつけたままで囁くように尋ねてくる津々見。うっすら瞳を開ければ、至近距離で視線が合う。

この状況に彼も少しは興奮しているらしい。津々見の目の奥に先程までは見られなかった色が滲んでいた。

「いく、いく…っ、あ、はぁ…っ、んんん!んっ!」

問いかけに素直に頷く。再び口を塞がれたが、もう拒む気なんてなかった。むしろ自分から舌を絡め貪るような口付けを交わす。

「んっ、んんっ、んぁ、い…っ、あ、いく、んふ、ぅン、あぁ!」

なにもかもがぐちゃぐちゃだ。唾液が混じり合う音、孔を指が出入りする音、それから互いの荒い息の音。全部が結びついて高まっていく。

津々見の膝の上でびくびく跳ねながら、小山は目の前にある真っ白な世界に手を伸ばしかけた。もうちょっと。あと少し。あと少しで最高に気持ちよくなる。

「あぁっ、あっ、う、んんっ、い…っく、いくいくいく、あぁっあ、あ…っ」

指先が襞を掻き分け、敏感な部分を押し潰す。足の先を丸めて射精しようと思った瞬間、津々見のもう片方の手が強く強く小山のペニスを掴んだ。

「あぁぁ…ッ!あっ、あっ…あ…っ!」

根本を押さえられたせいで精液が堰き止められる。イったのにイってない。初めて経験する激しい感覚に、頭が真っ白になった。

「なん…っ、なんで、出な…ッ」

自分の中でぐるぐると精液が渦巻いている気がする。物凄い快感を味わったはずなのに、足りない。我慢していたはずの涙が小山の頬を濡らした。

「もしかしてドライでイったことない?」

聞いたことはあるけれど、自分で体験したことはない。力なく首を横に振ると、津々見はにこりと優しく笑う。

「そう。気持ちいいでしょ」
「イきたい…です…」
「だから、今イったんだってば」
「んぁぁっ!」

にゅぽん、と穴から指を引き抜かれた。その些細な刺激でまた軽く達する。全身がありえない程敏感になっているのだ。

「離してください、出したい…っ!」
「その前にさっきの話の続きをしようか」
「え…」
「俺のお願い聞いてくれたら、ちゃんとイかせてあげる」

お願いとやらがどんな内容のものかは予想が出来なかったが、小山にとって津々見は尊敬できる上司で、決して受け入れることが出来ないような無理な要求をしてくる人ではない。それに今は何もかもどうでもいい。とにかく射精がしたい。一も二も無く頷く。

「…そう。本当にいいんだね」

呟く声が聞こえたが、小山にはその言葉の意味は届かなかった。

津々見は真っ直ぐに小山を見据え、口を開く。

「小山のこと俺のものにするから」

仕事のときに見せる真剣な表情。それが今、自分に向けられている。ただの一部下でしかない自分に。

「は…?」

俺のものって、何。

「俺ゲイなの」
「はぁ…そうですか…」
「ぶっちゃけ小山みたいなタイプは好みじゃないんだけど…気が変わった」

予想だにしない上司のカミングアウトに、小山はどう反応していいか戸惑った。ゲイに偏見はない。というか自分もゲイなのでむしろ気持ちはよく分かる。

そうか。課長はゲイだったのか。道理で手馴れていると思った。ノーマルなら初めてでこんなにうまいわけがない。そんなことを頭の片隅で考える。

「誰でもいいなら俺でもいいでしょ?俺だけのものになってよ」
「…無理です」

自分は今の生活が気に入っている。恋人などいらない。そんな面倒なことしたくない。おまけに津々見は上司だ。小山は常に自分が主導権を握っていたい派である。だから社内でそういう人を作るときもできるだけ気の弱そうな同僚か後輩を選んで、口止めして、都合よく関係を結んできた。

津々見は自分より優れた人間だ。必然的に自分が下位に立つことになる。そんなのはごめんだ。

「…言い方を変えよう」

津々見の口元が綺麗な弧を描く。目の前にあるのは完璧な笑顔のはずなのに、小山の背筋に冷ややかなものが走った。

「小山は俺のものになるんだよ」
「…っ」

この人、瞳が笑ってない。本気だ。

「は、離してください…課長」
「なんで?」
「別にセックスなら何回したって構いませんから、そういうのだけは…」
「そういうのって何?恋人同士になるのがそんなに嫌?」
「嫌だって言ってるで…っ」

逃げようとするところを押さえられ、口を塞がれる。

「…っ、嫌だ!離せ!」

ドン、と強く津々見の胸を押し返すと、その反動で自分の身体が後ろに倒れた。鈍い音とともに後頭部に衝撃が走る。

「…」

津々見の膝の上に乗ったまま、後ろのドアに頭を打ち付けてしまったようだ。自分の間抜けさに言葉も出ない。

「ぶは…っ!大丈夫?平気?」
「…平気です。触らないでください」
「どうして恋人に触っちゃ駄目なの?」
「だからそれは…」
「あのさ」

仰け反った身体を再び引き寄せられる。

津々見はそのまま小山を抱きしめ、低く甘く囁いた。

「覆水盆に返らず…って、知ってる?」

――あぁ、どうしよう。面倒な相手に捕まってしまった。

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