エゴイスティックマスター | ナノ


▼ 06

「ふ、う…っ、あぁっ、ん、んっ、なに…これっ、あ…ッ!!」

久しく彼の温度を忘れてしまっていた身体は、ほんの少し触れられただけでも過敏なまでに反応してしまいます。布団の上でびくびくと震える私を、坊ちゃんの視線が余すところなく見つめているのがわかりました。

「…浴衣はいいな。最高だ」

ぐしゃぐしゃに肌蹴た私の浴衣に坊ちゃんは興奮しているようでした。確かに浴衣はいいものです。現に今、(私ほどではありませんが)乱れた浴衣を着たまま中を穿つ坊ちゃんの姿に、私は見蕩れていました。

開いた襟から覗く胸元も、しっとりと濡れたその肌も、私の視線を捉えて離しません。ますます見目麗しくなって帰ってきた彼は、どんな格好をしてもやっぱり美しい。

「どうした。…僕に見惚れたか、伊原」

吐息の合間、坊ちゃんは不敵に笑って言いました。取り繕う余裕など最早とっくに吹き飛んでしまった私は、素直に頷きます。

「坊ちゃ…っ、あ、お願い、もっと、こっち、来て…っ」
「…随分と可愛いことを言う」
「あぁ…―――ッ!!」

坊ちゃんはそう言って両手を布団につくと、身体を倒し、私の両脚を肩に担ぎあげました。深いところまで挿入され、背中を反らして身悶えます。

「んっ、はぁ…っ、あ、あうっ、うぅ、んっ、あぁ…!」

ぷちゅっぷちゅっと何度も抜き差しされる音が響きました。ぬるぬるに濡らされ、ぐちゃぐちゃになってしまったそこが、坊ちゃんの熱く大きな塊に纏わりついて悦んでいます。

「あはぁっ、あんっ、ん、ん…っ、んぅっ、あ、あぁっ、んんッ」

一回、もう一回、と腰を打ち付けられる度にびくびくと全身が震え、必死で布団を握り締めました。快感で滲んだ視界の中で、彼の肩に担ぎあげられた自分の脚が宙を蹴ります。

「…っ、手を、貸せ」

布団を握っていた手を彼の手が握り締めます。指を絡めてぎゅっと強く繋ぎ合わせると、二人の間の距離が一層近くなったような気がして嬉しくなりました。

「はぁ…っ、あ、坊ちゃん、坊ちゃん、もっと、もっとぉ…ッ、もっとして、もっと、も…っ!!」
「もっと、だな」
「ん、うっ、あ…っ、はぁ、もっと、いっぱい突いて、強くして…」
「…あんまり煽るもんじゃないぞ」

離れていた時間を埋めるように、寂しさなんて吹き飛んでしまうくらいに、隙間なんてなくしてほしい。なくなってしまえばいい。そんな思いで何度も強請る言葉を口にすると、突き上げが一層激しくなりました。

「あぁあっ!あっ、もう、いく、いく…ッ、あっ、いくぅぅ…っ」
「僕も、出すから、…っ」
「出して、中に…っください、中、お願い」
「あぁ、わかって…るっ!」

張りつめた先端が内側を押し潰した瞬間、目の前に光が飛びます。

「ひぁぁぁぁ―――ッ!!」
「…ぅあ、イく…っ!!」

がくがくと腰を痙攣させながら白濁を吐き出す私に続いて、坊ちゃんは奥深くまで差し込んで腰の動きを止めました。中で射精されている感覚がありありと感じられます。

「く…っ、あ、伊原…」
「はー…っ、あっ、はぁっ、坊ちゃん…」

酸素を求めて薄く開いた私の口の上に、ぽたりぽたりと水滴が落ちてきました。

「…あ、」

――それは、坊ちゃんの瞳から零れ落ちたものでした。

「え…?」

思わず固まってしまったのは私だけではありません。坊ちゃん自身も何が何だか分からないと不思議そうな顔をしています。

「貴方、泣いて…」
「…そうみたいだな」
「どうして、どうして泣くんですか…?今まで、泣いたことなんて、一度も…」

そう。私が彼と出会ってから十年以上経ちますが、その長い長い時間の中で彼の涙を目にしたことは一度もありませんでした。どんなに怒っていても、どんなに悲しくても、彼は決して泣かなかったのです。

「坊ちゃん…」

繋いでいた手を解き、そっと頬に触れてみました。綺麗な水の粒が私の指先を次々と濡らしていきます。

「伊原」
「わ…っ」

坊ちゃんが私を呼びました。繋がった場所はそのままに身体を抱き起こされます。

「伊原」

――そして。

「僕を愛してくれてありがとう」

私を優しく抱きしめて、そう言いました。

「僕は幸せだ」
「幸せ…?」
「あぁ。お前が幸せにしてくれるんだ」

だから、とさらに言葉は続きます。

「だから、こうして涙が出る」

ぼろりと一粒、私の目からも涙が零れ落ちました。

「お前が僕の傍にいてくれるなら、明日はもっと幸せになる。その次の日はもっとだ。そしてその次の日も、僕の幸せは留まることを知らない」

一粒、また一粒と溢れ続ける私の涙が、坊ちゃんの肩を濡らしていきます。

「愛している」
「…っ私も、貴方を愛してる」

愛してる。貴方を愛してる。世界でたった一人、貴方に愛される存在が私で良かった。私は私で、良かった。私に生まれて良かった。

「誕生日、おめでとう」

坊ちゃんは私の手をとり煌々と光を放つ銀色の環に口付けてから、言いました。

「生まれてきてくれて、本当にありがとう。僕の伊原」

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