エゴイスティックマスター | ナノ


▼ 06



幸せな気持ちに満たされた私は、疲れた体を休め、また気持ちも新たにお仕事を頑張ろうと決意しました。

しかしです。入浴を済ませた私が部屋に戻ると、何故か坊ちゃんが我が物顔でベッドに座っていたのです。

「…坊ちゃん、私はもう就寝するつもりなのですが」

勝手に人の部屋に入らないでください。

「伊原、ちょっとこっちに来なさい」
「なんですか」
「今から僕はお前に説教をする」
「なぜです」

坊ちゃんはその場に立っていた私の手を引き寄せ、座ったままじっと見上げてきます。その綺麗な瞳で真っ直ぐに見つめられると、全身が石になったかのように動かなくなるのです。

「理由その一。僕の言うことを聞かず、他の男に身体を触らせた」
「別にいやらしいことをしていたわけじゃ…」
「理由その二。僕が他の女と結婚しても構わないと思っていた」
「うっ…だって」
「理由その三。こんなにずっと一緒にいるのに、お前はちっとも僕のことを分かってくれない」
「え…んんっ!」

首筋に熱い感触。唇を強く押し当てられ、思わず声が漏れます。

「前にも言ったはずだ。お前がいれば他には何もいらないと。地位も名誉も興味がない。お前のためなら何だって捨ててやる。たとえお前が止めろと言っても、だ」
「坊ちゃん…」

どうしてそこまで。

「伊原、お前の主人は誰だ」
「望様です」
「お前が愛している人は誰だ」
「…の、望様です」
「なら僕だけを見ろ。余計なことを考えるな。僕を信じろ」

彼はそのまま私の頬を掴み、言いました。

「伊原。お前の本当の気持ちが聞きたい」
「…っ」
「全部受け止めてやるから」

私の、本当の気持ち。

彼のことを愛しているのは本当です。一生お傍に居ようと決めたのも本当です。彼が私の生きる意味だということも本当です。

全部全部、嘘偽りのない心からの気持ちです。

「…わ、私は」

――だけどそれ以上に、ずっと隠してきた思いがありました。

「坊ちゃんのことを、独占したい、です…っ!」

坊ちゃん、私だけの、坊ちゃん。

その美しい瞳が見つめるのが、私だけであればいい。

その美しい手が触れるのが、私だけであればいい。

その美しい唇が口付けるのが、私だけであればいい。

いつの間にこんなに欲張りになってしまったのか自分でも分かりません。

長い時間をかけて降り積もったこの愛は、これ以上誤魔化すことなど出来ないのです。

「他の女性と結婚なんかしないでください…私だけを愛してください…っ」

彼のシャツにしがみ付きます。カタカタと手が震え、涙が後から後から溢れてきました。

「私から離れないでください…貴方の生きる意味を私にしてください」
「うん」
「貴方の全部を、私にください…っ!」
「うん。あげる。伊原に全部あげる。だから、」

とめどなく流れていく私の涙を拭い、坊ちゃんが幸せそうに笑います。

「だから、僕と結婚してくれ」

男同士で結婚は出来ません。ちゃんと知っています。

決して人に誇れるような恋ではありません。ちゃんと分かっています。

「…っ喜んで」

だけど、だけど、そんなことどうでも良くなるくらい、私は彼を愛しているのです。

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