エゴイスティックマスター | ナノ


▼ 04

「…お熱いことで」

ぎゅうぎゅうに抱き合う私たち。車から降りてきた智様は、呆れたような表情をしました。坊ちゃんがガバッと顔を上げます。

「殺す!!!僕は貴様を絶対に許さん!!!」
「坊ちゃん、落ち着いて」
「落ち着いてなどいられるか!!!お前はどうして怒らないんだ!!!卑猥なことをされたんじゃないのか!!!」
「卑猥なことなんかされてません!何をおっしゃっているのです!」
「この期に及んでお前はまだこの変態をかばうのか!!」
「事実を述べているだけです!」
「嘘だ!!あんなにいやらしい声を出しておいてそんな言い分がまかり通るとでも!?」
「いっ、いやらしい声なんか出してませんよ!」
「いいや!いやらしかったね!はぁはぁ言ってたじゃないか!」
「仕方ないでしょう!だって、」

だって、

「智様が、くすぐってくるんですから!」

そうなのです。

背中、鎖骨、脚の付け根…どれも私の弱点です。ちょっと触れるだけでも駄目なのです。くすぐったくてたまらないのです。

それなのに車内でずっとそこばかりをくすぐられて、私はもう限界でした。

「く…くすぐった?」
「はい」
「それはお前のお尻の穴をくすぐったとかそういう…もがっ」
「なんてこと言うんですか!」

ばか!あほ!まぬけ!智様の前で何をおっしゃるんです!!

慌てて彼の口を塞ぎます。頬が熱くなっていきました。

「あっはははは!尻の穴も弱点なのか伊原は!」
「さ、智様!違います!坊ちゃんの言うことは事実無根で…!」
「そうだ。貴様は知らないだろうが、伊原は僕に尻をくすぐられているときが最も可愛い。ちょっといやらしい声を聞けたぐらいで調子に乗るなよ!」
「坊ちゃん!」

あわあわと焦る私を、坊ちゃんはさらに強く抱きしめます。

「金輪際伊原に触るな。口をきくな。視界にいれるな。もしこれを破ったら、兄と言えど容赦しない」

横暴です。

「伊原は誰にも渡さない」
「あと二年も経たないうちに、伊原はお前のお付きではなくなるぞ」
「別に構わない」

えっ。

そんな。坊ちゃん。私はもうお払い箱というわけですか。

思ってもみなかったことです。まさかさみしいと思っていたのがこちらだけだったとは。

「高校を卒業したら、伊原は正式に僕の伴侶になるのだから」

えっ。

「は、はんりょの意味を分かっておいでですか!」

本日二度目の驚きです。思考が追いつかないので畳み掛けないでいただきたい。

「勿論。僕と人生を共にするということだろう」
「まさか周囲に明かすつもりですか!私と貴方の関係を!」
「当然だ。正式に、と言っただろう」
「許してもらえるはずがありません!貴方は西園寺家の次男で、私はただの執事です!」
「ただの執事じゃない。お前は僕を夢中にさせるエロ執事だ」
「坊ちゃん!こんなときまで!ちょっとは真面目に話をしてください!」
「僕はいつでも真面目だが」

嘘にも程があります。

「私は貴方の傍にいられるだけで良いのです。一番じゃなくても、たとえ家のためにご結婚なされたとしても、望様にほんの少しでもこちらを見ていただけるならば…それで満足なのです」
「伊原」
「坊ちゃん、考えを改めてください。いけません。旦那様だってきっと大反対します。もしそうなって執事を辞めさせられたら、私はどうすればいいんですか…?」
「お、おい伊原。泣いているのか?」

ぐすぐすと泣き出した私を見て、今度は坊ちゃんが焦りだしました。

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