エゴイスティックマスター | ナノ


▼ おまけ

「伊原」
「はい、なんでしょう」

三時のティータイム。彼は愁いを帯びた瞳でカップの中を見つめます。いつになく深刻そうな表情に、食器を片付ける手を止めました。一体どうしたというのでしょう。

「もう一回テレフォンセックスがしたい」
「…」

冷ややかな目で彼を見下ろしました。心配した私が馬鹿でした。

「あのときのお前は可愛かった…名前を呼ばれ、さみしいと泣かれ、いやらしい声で求められた僕の気持ちが分かるか?」
「やめてください!思い出さないで!」

恥ずかしくって仕方がありません。

「その後の合宿は散々なものだったよ。お前のことが頭から離れず何も手につかないし、帰りのバスの中でも勃起し続けていた」
「変質者!」

皆に気付かれて蔑まれればいいのに。そうすれば少しは大人しくなるでしょう。

坊ちゃんは顔を真っ赤にして怒る私を引き寄せます。そして長い睫毛を伏せ、麗しい表情で言うのです。

「どうしてだろうな…」
「なにがですか」
「どうしてお前はそんなにエロいのだろう…」
「坊ちゃん。大変です。貴方の頭は手遅れです。狂っています」
「そうだ。僕はお前に狂っている。言うなれば伊原病だ」
「人を病原菌みたいに!」
「お前も僕に狂えばいい」
「お断りします」
「伊原、可愛い可愛い僕の伊原。あぁ、片時も離れていたくないよ」

不意打ちでそんなことを言われて、思わず固まってしまいました。しばらくしてから返事をします。

「…はい。私もそう思います」
「よろしい。じゃあテレフォンセックスをするしかないな」
「何一つよろしくありません。嫌です」
「僕が学校に行っている間は電話を肌身離さず持っておくんだぞ。空いた時間に連絡をするから」
「嫌です」
「僕の命令が聞けないのか!!!!」
「学校でそんなふしだらな行為は慎んでください」
「学校じゃなければいいのか」
「駄目です」
「ぐう!!!ならどうすれば!!!」

坊ちゃんは頭を抱えて悩み始めました。学校では成績優秀な彼ですが、こういう姿を見せられるとどうも信用できません。本当は彼は馬鹿なのではないでしょうか。

「そんなにお気に召したのですか。その…テレフォン、…クスが」

セックスなんて到底口に出せない私は、語尾が小さくなります。

「んん?今なんと言った?もう一度」
「そんなにお気に召したのですか」
「ちがう!その後!」
「その…」
「もっと後!」
「が」
「ちがう!その間!」

キッと彼を睨み付けました。

「もう!意地悪!」

言わせたがりの変態!

「可愛いなお前は!!!!今の意地悪というのをもう一度言いなさい!!!!」
「強欲色魔!家畜!野獣!」
「うっ、要求した言葉とは違うが、やっぱりお前の声で罵られるのはいい…」

坊ちゃんははぁはぁ言っています。とても気持ちが悪いです。

「坊ちゃん」
「なんだ」
「私は嫌です」
「なにが」
「直接触ってください。直接抱きしめてください。直接愛してください。電話だけじゃ足りません。坊ちゃんはそうは思わないのですか?」

肩を落としてそう尋ねると、彼はむぎゅうううううっと私の腰に抱き着いてきました。

「そうだな。ごめん。僕が間違っていた」
「分かれば良いのです」
「仲直りにセックスしよう」
「すみません。私が間違っていました。貴方は何一つ分かっていないようですね」

全く、口を開けば卑猥なことばかり。彼の性欲はとどまるということを知らないのでしょうか。

…まぁ、求められて、悪い気はいたしませんが。というか実は物凄く嬉しいのですが。

そんなこと、シラフで言えるはずがありません。

「お手柔らかにお願いします」

私は深く深く溜息を吐いて、この分からず屋の坊ちゃんの頭をそっと撫でたのでした。

end.

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