エゴイスティックマスター | ナノ


▼ 05



「伊原っ!」
「おかえりなさ…うっ」

帰って早々、坊ちゃんは私をきつく抱きしめます。内臓が飛び出そうでした。骨も折れそうでした。

彼は甘えるように私の首筋に額をぐりぐり押し付けます。

「会いたかった。お前が恋しすぎて鼻からスイカが出るかと思った」
「そんなことをしたら、貴方の鼻の穴が壊れてしまいます」
「例えの話だ。それくらい胸が痛かったということだよ」

その例えなら痛いのは胸ではなく鼻だと思うのですが。

「はぁ。私もです。さぁ洗濯物を出してください」
「えっえっ!ちょっと!もう一度言え!」
「さみしかったです」

きゃあ、と坊ちゃんは女の子みたいな悲鳴を上げました。綺麗なお顔が驚愕の色で満ちています。

「伊原!どうしたんだ一体!さてはお前…伊原じゃないな!?伊原二号だな!?」
「私は一人しかいませんよ」
「伊原なら何人いても構わない。全部愛せる。…って違う!」

ノリツッコミですか。残念ながら下手糞です。百点中五点といったところでしょう。

「分かった!僕の心臓をドキドキさせて、心臓発作まで持ち込ませようという魂胆だ!」
「被害妄想にも程があります」
「だって、だって、伊原が…」

今度はひぐひぐと泣きそうになっています。全く意味の分からないお方です。ころころころころ表情を変えて、情緒不安定なのでしょうか。

「伊原…」

ちゅう。坊ちゃんは私の頬を包み、優しくキスをしました。たった数日離れていただけだったのに、ずいぶんと懐かしい感触です。

「おかえりなさい、坊ちゃん」

何だか嬉しくなって、自然と口角が上がりました。にこにこ笑う私を見て、坊ちゃんが口元を抑えます。

「坊ちゃん?」
「うっ…伊原、駄目だ。出る」
「えぇっ、少々お待ちください!ビニール袋を持って参ります!」
「違う。吐くんじゃない。精液が出ると言っているんだ」

きゃあ、と今度は私が女の子のような声を上げました。

「何故!今の話の流れのどこにそのような要素が!」
「僕の愛を侮るな!お前を見ているだけで射精できるんだぞ!」
「変態!発情期の犬!」
「あっ、いい、伊原、もっと言って」
「嫌です」
「なんだと!僕の言うことが聞けないのか!」

怒る彼に腕を伸ばし、力いっぱい抱き着きました。そのかたい胸板に頬を擦りつけると、ぴたりと動きが止まります。

「い、い、い、いいはら…っ」
「落ち着いてください。ムードが台無しです。私はイイハラではありません。イハラです」
「伊原」
「はい」

うううう、と坊ちゃんが唸ります。お顔が真っ赤です。私はそれを、とても可愛らしいと思いました。

「坊ちゃん、私は今、お誘いをしているのです」
「お誘い」
「はい。恋しくて愛しいのは、貴方だけの思いではありません。私をこんな風にした責任をとってください」
「喜んで!!!!」
「うっ」

また強く抱きしめられます。とても苦しかったけれど、でも同時にとても心地よくもありました。

少しの時間と少しの距離が、私をほんの少し素直にしてくれたのです。

ちょっと優しくしすぎたかなとも思いましたが、坊ちゃんが幸せそうに笑っていたのでもう何だかどうでもよくなってしまいました。

自分の時間がなくたって、休めなくたって、いいのです。あんな寂しい思いをするくらいなら、毎晩くたくたになってしまったほうがマシです。

坊ちゃん、どうか今夜もたっぷり愛してくださいね。

end?

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