水面下の思惑
音信不通でいままでまったく音沙汰のなかった人物から連絡、基突然自分の居場所を知らせるようなことをされれば誰だって驚くことだと思う。ましてや自分から関わるなと言われていたというのにその張本人から合図にも似た信号が送られてくれば余計にその驚きは大きなものとなる。彼が意識を向けていたのは彼女だけだったから、よもや自分達にまで感知されるように彼が霊圧を操作するとは思わなかった。治療という必要最低限の接触でさえ、彼は彼女以外にはまったくと言っていいほど許さなかったから。

面白いことが起きているようだと旭が思ったのは、ある意味当然のことと言える。

(面白いことになりましたねぇ…)

くす、と口許に誰にも気づかれないように小さく笑みを浮かべた旭は、ちらりと時間を確認した後、音も無く静かに席を立つ。書類届けという名目で直弥に接触を図れば恐らく何か頼み事を頼まれるのだろうと見越してのことだった。彼女以外の人間に気づかれるようにわざわざしたのだから何か彼に考えがあるのだろうと。

「あ、いい厳島四席、どちらへ?」

「…いえ、書類を届けて来ようかと」

席を立った旭に気づいた隊士の内の一人(女性)が、慌てたような様子で旭へと駆け寄ってくる。それに内心では面倒に感じながらも表面上だけの笑みでにこりと微笑みかければ、その女性隊士はほんのりと頬を朱に染めた。

───なんて、容易い。なんて、愚か。

少し微笑んだだけでうっとりと頬を染めながら去っていく隊士の背中を冷ややかな視線で見詰めて、旭はくつくつと誰にも気づかれずに笑う。どんな仕草、どんな動作、どんな言葉を掛けるか、どんなことをすれば相手に如何に警戒を抱かせずに無防備な心の隙間から入り込めるのか、その最も適当で効率のいい方法を、旭は知っている。



どうすれば相手に自分の心の内を悟られずに情報を手に入れられるのか。

────簡単だ。初対面の時に、なるべく悪い印象ではなく、いい印象を相手に植え付ければいい。そうすれば、大抵の場合相手は自分に警戒心を抱かなくなる。とても、楽で簡単で───確実な、方法。

もっともそれは、あくまでこういった潜入任務の時だけだ。普段は、やらない。けれど仮面を被るのは、常も今も同様であるからあまり意味はないが。

十三番隊の隊長は病で床についているし、副隊長も空席だから、副隊長の代わりにその任を隊長から任されている三席二人へと書類届けへと赴く旨を伝えれば、「行ってらっしゃーい」や「気をつけて行ってこいよー」という励ましのようなそうでないような言葉と共にあっさり承諾を得た。

ありがとうございます、それでは行って参りますね。と建て前だけの礼を述べて、旭は十三番隊隊舎を後にした。

向かうはどこかの隊の使われていない倉庫、である。
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