(………なんの、つもりなのかしら)
先ほどからずっと背後に感じる気配に雅は警戒を強める。気配の正体はとっくにわかっていた。ついさっき、呟きを漏らした直後に感じた気配に、嫌な予感しかしない。
「な〜にしとるん?雅チャン」
突如として掛けられた声に、驚きもしなければ反応もしなかった。感じていた気配の正体が動いただけのこと。ただそれだけのこと。何の反応もせずに止まっていた歩みを進めようと一歩踏み出した時、雅に声を掛けた張本人が慌てたように再び雅に声を掛ける。
「ちょっ、まさかの無視かいな?!ボク一応隊長やで?!」
そんな声も、無視。関わらないのが一番である。一向に何の反応も返さない雅に呆気にとられたのか、気配の正体である三番隊隊長市丸ギンは瞬歩で雅の前へと移動する。
「無視とか酷いなぁ、そう思わん?」
「…私は仕事中ですので失礼させていただきます」
驚きもせず淡々と。呆れを多分に含んだ視線で現在進行形でサボっている三番隊隊長へと向ける。口調はあくまで淡々と何も悟られぬように。早足でその場から立ち去る。早く三番隊隊長の前から離れてしまいたかった。
あの瞳が、受け付けない。
自分を見つめる視線がとても嫌で気持ち悪くて。込み上げてくる吐き気を抑えるのに精一杯だった。