気分転換
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「…ふぅん………」
「―――頭おかしいんじゃないかコイツとか思ってたら焼き尽くす」
「Σいや思ってねぇし!大丈夫だよ、オレユウのこと大好きだから!」
さりげなく告白ありがとう(棒読み)
でも、こんな話普通信じないよなぁ………。内心自嘲の笑みを浮かべ、小さく嘆息する。当然だ。あたしだってそう簡単に信じられるかどうか。
「うーん…ユウ、実は人間だって言ってたよな?」
「え?うん…」
突然の問いに、あたしは頷いた。よくよく考えれば、その話だって怪しいことこの上ない。
よくもスイはああも簡単に信じてくれたもんだ、と今更ながらに思った。
「それってもしかしたら…ユウがポケモンになったのと関係があるんじゃないのかなぁ?」
「え…」
その言葉に、あたしは目を瞬かせた。
…何?スイ、またあたしの言うこと信じてくれてるの?
こんな突拍子もないような、頭沸いてるんじゃないかと思われてもしょうがない話なのに?
黙ってスイを見つめるあたしに気付き、スイはハッとしたように視線をさ迷わせた。
それから不自然なくらいに笑顔を浮かべる。
「と、ところでユウはどうなんだよ!」
「え?」
「だから、人間に戻りたい?」
そう聞かれて、あたしは改めて考えた。
あんまり深く考えたことなかったけど…。
でも、今日の夢に出てきたあたしは、きっと―――
「…戻りたい、のかなぁ……」
夢は願望の現れだと、どこかの誰かが言ったらしい。
なら、あの夢に出てきたあたしが、あたしの望む姿だったんだとしたら―――戻りたい、と心の奥底で思ってるのかもしれない。
どこかぼんやりしたように天井を見上げながら言うと、スイはちょっと目を瞠り、それから苦笑した。
「そっ、か…」
「スイ?」
どこか落胆したような声音のスイに、あたしは首を傾げる。表情も心なしか暗い。
彼の顔を覗き込めば、スイはハッとしたように顔をあげて満面の笑顔をつくった。
「ま、まぁそうだよな!元々人間なら、戻りたいと思うのがフツーなんだよな!……………そう、なんだよな」
「スイ…?」
「っちなみに!人間の時のユウってどんなヒトだったんだ?」
顔を覗き込もうとすると、スイがさりげなくあたしを元の位置に座らせながら訊ねてきた。
どこか無理矢理な笑顔を不審に思いながら、あたしはスイの答えを探すべく記憶の糸を手繰る。
人間の時の、あたしは…………。
「…あれ、…どうだったっけ?」
ダメだ、忘れた。
「…ぷっ、あはは!忘れちゃったのか。つかあっさり諦めたなー」
「しょうがないじゃん、わかんないもんはわかんないんだもん」
軽く唇を尖らせれば、スイはごめんごめんと言いながら必死に笑いを堪えている。反省の色が皆無だ。
…ってゆーか、記憶自体がないんだからそんなの思い出せるわけないじゃん……。
「ま、ゆっくり思い出せばいいよ」
内心で悶々と考えていたことを、スイの一言が消え去った。
スイを振り向くと、彼はクツクツ笑いながらあたしを見ていて。
「でも、ユウなら絶対いいヤツだと思うぜ!」
さっきとは違う、ごく自然な笑顔でそう言った。一瞬だけ、そんな彼に呆気にとられてしまう。
…なんつー恥ずかしいことをさらっと言うんだ、コイツは……。
「…ばーか」
「Σ痛っ!」
パシーン!と小気味いい音がして、あたしはスイの頭をはたいた。照れ隠しなんて、そんなことはない。
「そういえば確か、今日はポケモン広場に行くって言ってたよね」
「ああ、そういえば言ったな…」
「今からちゃっちゃと行こ」
「え!?あ、ちょ、ベンキョーは?」
「なんかあんた見てたらやる気失せた。気分転換に行こうよ」
「やりいっ!」
紙とペンを放り投げ、スイは一目散に家から飛び出していった。…なんつー現金な奴だ。
すぐ見えなくなってしまった青い背中。
散らばった紙とペンを広い集め、一ヶ所に纏めるあたし。
ふっ、と唇が綻んだ。
『ユウなら絶対いいヤツだと思うぜ!』「………ほんと、ばかじゃないの」
小さく、本当に微かに笑みを浮かべ、あたしは踵を返すとスイの後を追い掛け家の扉を開けた。