気分転換  [ 17/19 ]






***



「…ふぅん………」

「―――頭おかしいんじゃないかコイツとか思ってたら焼き尽くす」

「Σいや思ってねぇし!大丈夫だよ、オレユウのこと大好きだから!」



さりげなく告白ありがとう(棒読み)
でも、こんな話普通信じないよなぁ………。内心自嘲の笑みを浮かべ、小さく嘆息する。当然だ。あたしだってそう簡単に信じられるかどうか。




「うーん…ユウ、実は人間だって言ってたよな?」

「え?うん…」



突然の問いに、あたしは頷いた。よくよく考えれば、その話だって怪しいことこの上ない。
よくもスイはああも簡単に信じてくれたもんだ、と今更ながらに思った。



「それってもしかしたら…ユウがポケモンになったのと関係があるんじゃないのかなぁ?」

「え…」



その言葉に、あたしは目を瞬かせた。
…何?スイ、またあたしの言うこと信じてくれてるの?
こんな突拍子もないような、頭沸いてるんじゃないかと思われてもしょうがない話なのに?

黙ってスイを見つめるあたしに気付き、スイはハッとしたように視線をさ迷わせた。
それから不自然なくらいに笑顔を浮かべる。



「と、ところでユウはどうなんだよ!」

「え?」

「だから、人間に戻りたい?」



そう聞かれて、あたしは改めて考えた。
あんまり深く考えたことなかったけど…。

でも、今日の夢に出てきたあたしは、きっと―――



「…戻りたい、のかなぁ……」



夢は願望の現れだと、どこかの誰かが言ったらしい。
なら、あの夢に出てきたあたしが、あたしの望む姿だったんだとしたら―――戻りたい、と心の奥底で思ってるのかもしれない。

どこかぼんやりしたように天井を見上げながら言うと、スイはちょっと目を瞠り、それから苦笑した。



「そっ、か…」

「スイ?」



どこか落胆したような声音のスイに、あたしは首を傾げる。表情も心なしか暗い。
彼の顔を覗き込めば、スイはハッとしたように顔をあげて満面の笑顔をつくった。



「ま、まぁそうだよな!元々人間なら、戻りたいと思うのがフツーなんだよな!……………そう、なんだよな」

「スイ…?」

「っちなみに!人間の時のユウってどんなヒトだったんだ?」



顔を覗き込もうとすると、スイがさりげなくあたしを元の位置に座らせながら訊ねてきた。
どこか無理矢理な笑顔を不審に思いながら、あたしはスイの答えを探すべく記憶の糸を手繰る。
人間の時の、あたしは…………。




「…あれ、…どうだったっけ?」



ダメだ、忘れた。



「…ぷっ、あはは!忘れちゃったのか。つかあっさり諦めたなー」

「しょうがないじゃん、わかんないもんはわかんないんだもん」



軽く唇を尖らせれば、スイはごめんごめんと言いながら必死に笑いを堪えている。反省の色が皆無だ。
…ってゆーか、記憶自体がないんだからそんなの思い出せるわけないじゃん……。



「ま、ゆっくり思い出せばいいよ」



内心で悶々と考えていたことを、スイの一言が消え去った。
スイを振り向くと、彼はクツクツ笑いながらあたしを見ていて。



「でも、ユウなら絶対いいヤツだと思うぜ!」



さっきとは違う、ごく自然な笑顔でそう言った。一瞬だけ、そんな彼に呆気にとられてしまう。

…なんつー恥ずかしいことをさらっと言うんだ、コイツは……。



「…ばーか」

「Σ痛っ!」



パシーン!と小気味いい音がして、あたしはスイの頭をはたいた。照れ隠しなんて、そんなことはない。



「そういえば確か、今日はポケモン広場に行くって言ってたよね」

「ああ、そういえば言ったな…」

「今からちゃっちゃと行こ」

「え!?あ、ちょ、ベンキョーは?」

「なんかあんた見てたらやる気失せた。気分転換に行こうよ」

「やりいっ!」



紙とペンを放り投げ、スイは一目散に家から飛び出していった。…なんつー現金な奴だ。
すぐ見えなくなってしまった青い背中。
散らばった紙とペンを広い集め、一ヶ所に纏めるあたし。
ふっ、と唇が綻んだ。




『ユウなら絶対いいヤツだと思うぜ!』



「………ほんと、ばかじゃないの」



小さく、本当に微かに笑みを浮かべ、あたしは踵を返すとスイの後を追い掛け家の扉を開けた。





 


  









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