サークル
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エレブーをブッ飛ばしたあたし達は、ニコニコ笑顔で帰還した。救助されたディグダは、今もまだ恐怖が残っているのかわずかに震えている。
「うう…ボクとっても怖かったです…ずっと高いところにいたせいでしょうか……。まだ足が浮いてる感じなんです…」
え、足あるの?その時のあたし達の心境は一字一句同じだった。
「で、でも、こうやって助かったんだから良かったよな!」
「そだね。怪我もなくて何よりだよ」
「はい、本当にありがとうございました!」
にっこり笑ってディグダが言う。その場に和やかな雰囲気が流れた。
と、その時。
「おぉ!助かったのかーっ!よかったよかった―――っ!!」
………。
「…ん?」
「あれ、どこからともなく声が…?」
「ダガ、ドコニモ誰モイナイゾ」
コイルがキョロキョロと周りを見回す。
その言葉に、あたしとスイは顔を見合わせた。
「ん?声はすれども…」
「姿は見えず……?」
…あれ、これなんか一回あったよね。それもちょうど今朝らへんに。
「…あっ、もしかして姿が見えない?これはどうも失礼しました!」
「「え」」
刹那、あたし達の目の前の地面から三つの顔が飛び出した。
「「わぁお!!」」
「どうも。ダグトリオです」
「あっ!パパー!」
「茶埜(サノ)!心配したぞ、怪我はなかったか?」
「うん、怖かったけど大丈夫。夕日さん達のおかげだよ!」
ディグダ、もとい茶埜はそう言って笑った。仲睦まじい親子だね、和むねぇ…。
「おかげで助かりました、ありがとうございました」
「お礼ならコイル達に言ってくれよ。今回の救助は俺たちだけじゃ無理だったんだぜ?」
「それはそれは。本当にありがとうございました!」
「イヤイヤ。助ケタノハ当然ノコトダ。ソレニ…進化形ガ三位一体トイウアタリ…親近感モ覚エテイルノダ。ヤハリポケモンドウシ助ケ合ワナクテハ」
「いやはやほんとかたじけない」
そう言って、ダグトリオはコイル達に向かって深々と頭を下げた。
「それでは夕日さん。水龍さん」
「「ありがとうございました」」
「ではっ!」
ボコッ、と来たときと同じように、ダグトリオはディグダを引き連れ地面に戻っていった。
彼らがいなくなった後の地面には、500ポケ、モモンスカーフ、カテキンが入った革袋が置かれていた。
「嵐が過ぎ去ったみたいな人たちだったよね…」
ポツリと呟いたあたしの意見に、皆こくりとした。
「デハ、我々モ…」
「あっ、ちょっと待った!」
「ナンダ?」
立ち去ろうとしたコイル達を引き留めたスイに、一気に視線が集まる。あたしも小首を傾げてスイを見た。
「あのさ、俺達の仲間にならないか?」
「なかま?」
「うん。今回はコイル達がいなかったら救助できなかったワケだし…今後も救助をするためには、仲間が必要だなあって思ったんだ」
至極真面目な顔をしてコイル達に話すスイ。
あたしは目の前がじわりと滲んだ気がしてごしごしと乱暴に目尻を拭う。
「スイ、アンタも考えることはできるんだね…!」
「
酷くね?…ま、ユウもそう思うだろ?」
泣くほどの事か、と言いたげなコイルの視線に苦笑しながらも、スイがあたしに同意を求める。
ここで「仲間なんかいらないよ」と冗談めかして答えてやるのもいいが、確かに純粋に仲間は欲しかった。つか、
正直この馬鹿(スイ)のブレーキ役が欲しい。「うん、仲間は
凄く欲しいよね」
「(…あれ。なんだろう、この物悲しさ……)」
満面の笑顔で言い切ったあたしの思惑をなんとなく感じ取ったのか、スイは明後日の方向に目を向けて黄昏始めた。
そんな彼は放置し、あたしはコイルに向き直る。
「で、どう?あたし達スカイのメンバーにならない?
「救助隊、カ……ナンダカ楽シソウダナ!ビビビ!」
おっ、これは好感触?
と思ったのも束の間、ふともう一匹のコイルが怪訝そうに呟いた。
「…シカシ、救助ニスグ駆ケ付ケルニハ…近クニ我々ノ住ム場所ガ必要ダナ?コノヘンデ我々ガ住ム場所ハアルノカ?」
「あるの?」
「あー……」
ないらしい。
そこまで考えが及ばなかったようだ。
戻ってきたスイはあたしの問いに困ったように頬を掻いた。
「ナラバショウガナイ。残念ダガ諦メテクレ」
場所がないならしょうがないだろう。
コイル達はあたしとスイに手を振りながら去っていった。
その背中を黙って見送り、スイが小さく溜め息をつく。
「まぁ、しょうがないんじゃない?」
「うーん、残念だなぁ……仲間を増やすためには彼らが住む場所が必要なのか…………って、
あ!!」
「なっ何どしたの?!」
暫く思案していたかと思えば、突然大声を上げたスイ。
思わず肩をびくつかせて飛び上がると、スイは満面の笑顔であたしを振り向いた。
「そうだ!明日ポケモン広場に行ってみようぜ!」
「は?仲間を広場に野宿させるつもり?」
今までの話の流れで何故ポケモン広場にまで話が飛躍するのか。
訳がわからずに首を傾げると、彼は違う違う!と首を振った。
「実はさ、“友達サークル”っていうちょっと変わった店があるんだよ。最近そこの店主が帰ってきたらしくってさ」
「友達サークル?」
なんだそのいかにも怪しい店の名は。
「場所はペルシアン銀行の隣。いつもならプクリンがいるはずだ」
「ああ、あそこの…」
確か、以前ポケモン広場に行った際、銀行の隣に空きスペースがあったような気がする。
あそこがその店なのだろうか。
だが、その店に行って一体何があるというのだろう。
怪訝そうな表情でスイを見ると、スイはニカッと笑った。
「明日になればわかるよ。じゃ、明日!絶対、ぜーったい広場に行こうな!」
「え、ちょっ…スイ!」
あたしが止めようと伸ばした手はあっさり空を掴んで。気が付いたら、50mくらい先でじゃーなー!と元気よく手を振るスイの姿が。
…速っ!!
「友達サークル…か」
仕方なくあたしも手を振り返し、スイの青い背中が消えるのを見送った。
まぁ、全ては明日のお楽しみ、ってことにしておくか。
ふぁ、と欠伸を噛み殺し、あたしも大人しく家に入っていった。