なんかきたぜ
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「…でも、どうしよう……これじゃ向こうに渡れないぜ?」
「スイが架け橋になろうか」
「や、絶対足りないし落ちるから!」
うーん…と眉間にシワを寄せ、考え込むスイ。
その時、空に小さな影がかかった。
「ビビビ!我々ニ任セテクレ」
「! アンタたち、この間の…」
それは、以前助けたあのコイルだった。コイル達はふよふよとあたし達の周りを翔ぶと、ディグダを振り向いた。
「話ハ聞イタ。我々ガ空カラでぃぐだヲ助ケヨウ!」
「いいの?」
「コノ前助ケテ貰ッタオ礼ダ。ビビ!」
そう言うと、コイル達はディグダの所まで飛び上がった。
不安そうに見るディグダを安心させるように、コイル達は声をかける。
「サァ、我々ニ掴マッテクレ。ビビビ!」
「大丈夫。間違ッテモ痺レタリシナイ。ビビ!」
コイル達がディグダを救出する様を見ながら、これでことは収まるか、と思い安堵の息をついた。
だが、その時。
「見つけたで嬢ちゃん!!」
またなんか来た。
「…スイ、今なんか聞こえた?」
「え、あ、うーん……………気のせいじゃね?」
「あ、やっぱり?」
「コラコラコラぁぁ!!そこ二人!何で揃いも揃ってワシらシカトしとんねん!このハンサムビューティー雷電組首領様になんちゅー無礼じゃ!」
「はんさむびゅーてぃー?」
「
寝言は寝て言いなよ」
ハッ、と冷笑を浮かべながら、あたしは振り向く。
そこにはやはりというかなんというか、アンタ一回きりの捨てキャラじゃなかったの?と言いたいあの関西弁エレブーが立っていた。
しかも相変わらずエレキッドをわんさかつれて。
「相変わらず酷いなぁ嬢ちゃん」
「アンタは顔が酷いよね」
「むしろ存在が酷くねぇ…?」
「こらテメェそこのクソガキャァァァァァ!!!」
「あっ、やばっつい…!」
「なーいすスイくん」
バカな可愛い水龍が癒しです。すさんだ心の憩いの水。
「つーか何しに来たの。アンタかなり邪魔マジ消えればいいのに」
「うおおおワイの繊細なガラスのハートに164973のダメェェェェェジッ!!!!」
「「「「「兄貴ぃぃぃ!!!」」」」」
エレブーに向かって悪態をついたが、返ってきたリアクションにかなり顔を歪めた。
そんなあたしに、スイが不思議そうに首をかしげる。
「なぁユウ、なんでそんなに嫌そうな顔してるんだ?あのひとたちとはそれほど係わり合いないんだろ?」
「前回で終わる予定だったモブキャラがわざわざ出張ってきたことに腹立ててんのよ。しかもスイを気絶させるしなんやかんやでつっかかってくるし礼儀はわきまえてないし。ホント田舎に帰ればいいのに」
「ここがワイの故郷やっちゅーねん!!」
「じゃあ引きこもりになって出てくんな」
「それは無理な相談や。嬢ちゃんはワイのハートに火をつけたからなぁ!」
「お疲れ様でしたお引き取りくださいこの世から」
「おいいいいぃいいぃいいぃい!!?」
なんか喚いているのを取り合えず纏めると。
名の知れた雷電組をたった一撃で倒したあたしにライバル心を抱き、なんとしても超えてやろうって事らしい。ふーん。
「大迷惑なんだけど」
小さな舌打ちと「どっかで存在消してくれないかな」とか呟いても、こいつのお気楽な耳には入っていかないらしく。
「まぁええわ!前回はワイのファンである読者のぷりちーなお嬢さん方に無様な姿さらしちまったかんなぁ。今回こそはワイの華麗なる勝利シーンをお見せしようとあんさんらが疲れてるやろう時を今か今かと待ち構えとったっちゅーわけや!」
「つまりいっちょまえにストーカーさらして卑怯にも弱りきった俺達を一網打尽にしようと臆病者がやるような卑劣極まりない行為をしようとしてたわけか。ふーん、弱い奴が考えそうなことだよな」
「なんじゃとこのクソガキがぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
「事実じゃんか」
…あれ?今なんか空耳が。
スイが真っ黒なんてそんな馬鹿な。嘘だよね嘘ですよね。
あたしはくるりとスイを振り向いた。
「ムキィィィ!!もう我慢ならん!お前ら痛い目見したれェェェェェ!!!」
「うっせーよ黄色軍団。ユウに近づくな。
ハイドロポンプ」
ドバッシャーン!!!「「「「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」」」」「…………」
スイの渾身と黒オーラを纏ったハイドロポンプに呆気なく空の彼方へ飛ばされた雷電ズ。(なんか違う)
とりあえずどっかの携帯獣アニメの毎回毎回飽きずに惨敗する悪役かどうかも怪しくなってきた悪役の如く空の彼方へと吹っ飛ばされご丁寧にキラーン☆と星まで輝かせた雷電ズを無言で見送った。
…ホントに怖いのはあたしじゃなくてこっち(スイ)なのかもしれない、と若干本気で思ってしまった。というか、何故いきなり目覚めた。純粋でお馬鹿な可愛い水龍は一体どこへ。
とにかくコイル達の力を借りてディグダを下まで降ろした後、あたし達はこれ以上のいざこざを避けるように足早に山を降りていった。