ザマス
[ 13/19 ]
「ついたぜ、ここが山頂だな!」
「ねぇ、なんでアンタそんなに元気なの?」
一番攻撃を受けて一番ボロボロだったはずのスイ。何故ここまでピンピンしてんだよ。
対するあたしは無駄に疲れた。ここに来るまでに何回このバカを救助したことか…!
「…スイ、帰ったら本当に色々勉強しようね」
「ゲッ!やだよ!勉強しなくてもやってけるって!」
「
あたしがやってけないんだよ」
これから依頼をこなす度にこんなに精神が削がれるのあたし嫌だからね。そのうち本当に見捨てるかもだからね?
「…で、その話はまた帰ってから
ゆっくりじっくりするとして」
「(なんか強調された!)」
「…ディグダって、どこにいるの?」
キョロキョロと辺りを見回しても、それらしい影はどこにもない。ただ周りを切り立った岩で覆われた、寒々とした風が吹いているだけだ。
「ディグダどころか、エアームドもいないんだけど?」
「ホントだ…どこにいるんだろ…」
「…まさか、ガセ掴まされた?」
本当にそうだったらあのダグトリオ、
骨の髄まで焼き尽くす。「ん…?あぁぁっ!」
「え、何?」
「ユウ、あそこにディグダが!」
いきなり叫んだスイの視線の先を追えば、そこには小さなディグダが一匹、ガタガタ震えていた。どうやらガセじゃなかったらしい。
「おーい!大丈夫かー!?助けに来たぞー!」
スイがディグダに近寄りながら大声で訊ねる。
あたしもそれを追おうとして、ふと足を止めた。
「…?」
「…こ、怖いです……!」
「今そっちに行くから、じっとしてろよ!」
スイがディグダに向かって駆け出す。
だがその時、彼の真上に影が落ちた。
「スイ!」
「え?」
先ほどから感じていた違和感の正体を確信したあたしは、前に行こうとしたスイを慌てて引き戻す。
つい一瞬前までスイがいた場所に、重たい何かが降ってきた。
「わぁっ!?」
重たい地響き、立ち込める砂煙。
スイがたらりと冷や汗を流し、あたしは注意深くその煙の中心を見据えた。
「アンタたち!何しに来たザマスか!?」
ん?
「で、ディグダを助けに来たんだ!」
少し腰を抜かしながらも、スイがそれに言い返す。
ブワ、と強風が周囲に舞い、煙が晴れた。
ギラギラ光る銀の体。
鋭い瞳は、こちらを見据えて逃さない。
そこにいたのは、紛れもなくエアームドだった。
…だったんだけど、
「やい、エアームド!悪さしないでディグダを離せ!」
「何言ってるザマス!悪いのはコイツらザマス!」
…ザマス?「毎晩地震が起きて、怖くて安心して眠れないザマス!それもこれも、コイツらが地底で暴れるからザマス!!」
…あ、ザマスね。ふーんザマス…。
要するに、この山に住むエアームドのザマスさん(仮名 多分♀)は毎晩のように起こる地震をディグダ達が暴れるせいだと思っているらしい。
安眠妨害迷惑はなただしいから、いっそのことディグダを拐って大人しくさせようと、そう思い立ったそうだ。
……………。
なんて早急な判断。「お、おい…それは違うよ。確かに最近、よく地震が起きるけどさ……でもディグダ達が地底で暴れたぐらいで地震は起きないよ」
スイの口振りによると、あたしがここに来る前から地震は度々起こっていたようだ。それもかなりの頻度で。
そりゃあ安心して眠れないだろうねぇ…。
「てかさ、ちょっと考えればわかるんじゃない?
頭沸いてるスイでもわかるんだから」
「
本当に酷くない?」
「うるっさいザマス!!文句あるなら勝負ザマス!!」
何故そうなる。どうやらこのザマス(仮名)、かなりのせっかちでヒステリックらしい。
あたしの言葉に半泣きのスイは置いといて、興奮してるザマス(仮名)を落ち着かせるにはどうやら
叩きのめすしかないらしい。
あたしは溜め息をつき、ギンッと目付きを鋭くさせた。
「しょうがないね。そっちが吹っ掛けてきた喧嘩だよ?…
たっぷり後悔させてあげる」
「(夕日の背後に黒い炎がッ!!?)」
にこり、と笑って、あたしは口に炎を集束させた。
スイも若干顔を青くしながら、あたしに習って戦闘体制をとる。
「ふふふ…お望み通り相手してやるよ。"炎の渦"!!」
「いきなり不意討ち!?」
先手必勝。不意討ちも立派な戦法よ。
慌てたザマス(仮名)が上空に飛び上がり、難を逃れる。
あたしたちを見下ろし、焦ったように言った。
「ふ、不意討ちなんて卑怯ザマス!」
「卑怯?
ハッ!!喧嘩に卑怯も糞もないよ。
勝てばいいんだよ勝てば」
「なんて悪役台詞」
「キィィィッ!!救助隊の風上にもおけないザマス!」
「
誘拐犯にそんなこと言われたくないんだけど」
言いながら、あたしはバックから取り出したゴローンの石を上空のザマス(仮名)に向かって投げつける。見事翼と額に硬い石が直撃、ザマス(仮名)は目の前に星を散らしながら墜落した。
「よし、任務完了(ミッションコンプリート)」
「…うん、俺いた意味あった?」
「ないね(即答)」
「……………」
敵ながら、エアームドを心底哀れむ水龍であった。
「…うん、ユウに喧嘩売った時点でもう駄目だったんだろうな」
「その通りよ」
余ったゴローンの石をバックに片付け、あたしはフンとそっぽを向く。
グググ…ともはや動けないザマス(仮名)が、なんとか体を起こしてあたしたちを見上げた。
「むむむ……ま、参ったザマス………。ここはいったん、逃げるザマス…!」
バサリ、と翼を広げ、ザマス(仮名)は飛び立った。
追い討ちをかけようと再びゴローンの石を構えれば、もうやめてやれと半泣きのスイに止められた。
渋々石をバックに戻し、あたしはディグダを見る。
「ザマス(仮名)は追い払ったよー。大丈夫ー?」
「……こ、怖いです…っ!!」
「…………」
「はぁ?」
何故かさっき以上に涙目であたしを見るディグダ、そして何かを悟ったように遠い目をするスイに、あたしは首をかしげた。
「…と、とにかく降りてこいよう…もう大丈夫だから。うん」
「ダメです…怖くて降りられないです…!
そのアチャモさんが」
「へぇ?
いい度胸じゃん」
「怯えさせてどーすんだっ!大丈夫!コイツは無害だから!」
にっこり笑ったあたしを、スイがあわてて制する。
やだなぁ、別に攻撃したりなんかしないよ。だってまだ子供じゃん。
「…そ、それに、この高さも怖いですぅぅ………」
「しょうがないな…。助けに行くから待ってろよ?」
「スイ、水をさすようで悪いけど」
「なんだ?」
いざディグダのところへ行こうとしたスイを押し退け、あたしは少し進むと足下をちょいちょいと示す。
「この谷底に落ちる勇気があってそれを言ってるのかな?」
「へ?……って
深ッ!!?」
あたしが示した所から先はザックリ道が切れていて、覗くと底が見えないほど深い奈落が広がっていた。
あたしは唖然とするスイの肩を叩き、にこりと笑う。
「さぁ、頑張れスイ☆」
「無理だよ!」うん、わかってて言ってるよ?