救助隊のお誘い
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「このコも無事で……もうなんとお礼を申したら良いか……」
キャタピーをつれて地上に戻ったあたしたちは、バタフリーのお母さんに何度も頭を下げられていた。
正直、ココまで礼を言われるとちょっと困るというか…くすぐったいというか………。それを笑顔でかわせるスイは、なんかすごいと思う。うん、それは感心する。
「いや、いいってことよ!最近は何故か地割れとか多くて危険だしね。でも怪我もなくてよかったよ。ホント♪」
「そーそー。それが一番だしねー」
あたしがそう言うと、スイと顔を見合わせ、小さく笑いあった。
そんなあたしたちを、キャタピーが眩しそうに見つめてくる。
「あの、せめてあなた方のお名前を……」
「オレは水龍。んで、こっちが夕日」
「よろしく」
にこり、と笑って頭を下げる。
と、そこで何やら視線を感じて振り向く。
キャタピーがあたしたち二人を穴が開くほど見つめてきていた。
「…………か、カッコイイ……」
「え゙……?」
そう呟いたキャタピーに、あたしとスイはちらりと目を合わせて苦笑した。
なんか、かなりキラキラした目で見てますけど………
もう一度スイを見ると、スイは照れくさそうに笑っていた。
なんか微笑ましい。
「ありがとう!水龍さんに夕日さん!!」
「これはほんの少しですが、お礼です。受け取ってください」
そういって、バタフリーはスイにたくさんの木の実を差し出した。オレンやモモン…ナナシまである。思わずスイと顔を見合わせ、それから同時にバタフリーを見る。
「えっ、こんなに…いいんですか?」
あたしがバタフリーを訊ねると、彼女はにっこり笑った。
「はい。この子を無事で助け出してくれたんですもの。本当はこれでも足りないくらいです。
本当にありがとうございました。では………」
バタフリー親子はもう一度深々と頭を下げて、帰っていった。
キャタピーの無邪気な笑い声が聞こえてくる。無意識のうちに、頬が緩むのを感じた。
バタフリーたちが見えなくなった頃、スイはあたしを振り向いてニカッと笑った。
「さっきは手伝ってくれてありがとうな!お前、なかなか強いじゃんか。見直したぜ」
「…まあ、スイもなかなかだったじゃん」
体中傷だらけだけど。
あたしがそう言うと、スイは照れたように頭を掻く。
「それで……どうすんだい?このあと……」
それを訊かれて、あたしはちくりと胸が痛んだ。
それはまあいろいろ考えてはいたんだけど、直で訊かれるとなぁ……。
「うーん……とくに行くとこないんだよねぇ」
「……なぁ、夕日。行くとこ無いならちょっと来いよ」
そう言って、スイはあたしの手を握ると歩き出した。あたしは首をかしげながらその後について行く。
西に傾きかけた日が、森を明々と照らしていた。
***
「ココなんだけど……」
スイが止まったのは、一軒の家の前だった。
外見的には、焼き物を焼くかまどのようだ。
…にしても、でかいなこれ。フツーに人が住めるよ。造りもしっかりしてるし。ポケモンって、皆こんなおっきな家に住んでるの?
人間界の住宅事情もビックリだネ。
でも、なんかよくわかんないけど………
気に入った、みたい。
なんかわかんないけど、あたし人間のはずなのに……この場所が気に入って喜んでる……?
何これ、ポケモンの本能ってヤツ?
「お、夕日…気に入った?」
「うん。なんかよくわかんないけど、気に入ったよ、スイ」
「やっぱりな。ここ夕日なら住みやすいと思ったし……絶対気に入ると思ったんだぜ」
このとき、もしかしてスイはエスパー?とか思っちゃったのは秘密にしておこう。そうしよう。
多分スイは、人の気持ちを感じ取るのが上手なんだろうな。
「あの…さ、夕日……」
「ん?」
ふとスイが真剣な表情になったので、あたしは首を傾げた。 スイはしばらく視線を宙にさまよわせていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「キャタピーが落ちた地割れもそうだけど……ここんとこ、いろんな災害がなぜか急に起きてるんだよ。そして、多くのポケモンたちが災害に苦しんでる……。オレ、そんなポケモンたちを助けたいんだ。ポケモンたちが安心して暮らせる世の中にしたいんだよ。そこで……さっきキャタピーを助けた腕を見込んで…………えと、その………」
そこで、スイは言葉を濁した。
頬を微かに染めながら、ちらちらとあたしを見ている。
「…オレと一緒に、救助隊やんねえか?夕日と一緒だったら、その、……世界一の救助隊ができると、思うんだ……。
ど、どうだ……?」
スイが頬を染める理由がわかんなかったけれど、あたしは小さくうなずいた。
ココで生きていくには、スイといたほうが何かと都合がいいだろうし、なにより、救助隊という仕事を利用すれば、あたし自身の謎もわかっていくかもしれないから……。
「い、いいのか?」
「そっちから言ってきて、何言ってんの?それに、あたしと言うストッパー役がいないと、スイきっと暴走しちゃうじゃん?」
そう言って明るく笑うと、スイは何を思ったのかいきなり抱きついてきた。あまりにも突然のことに、あたしは目を白黒させる。
「っおわ!!?ちょ、ちょっとスイ!!?」
「ありがとな、ユウ!!今日からオレ達、救助隊の仲間だ!!」
「す、スイ、わかった、わかったからぁ!!!!」
あたしはスイに抱かれたままジタバタと暴れた。たぶん今のあたしの顔は、真っ赤だろうな。癪だけど。
ウブで悪かったなぁ、もう…。
「あ、ゴメン!オレ、つい嬉しくなっちゃって……」
スイはやっと離してくれてあたしはうるさい心臓を必死になって落ち着けていた。
「て、いうか…ユウって何?」
「え?あ…その、呼び名…みたいなもんなんだけど。嫌だったかな?」
「別に、嫌じゃあないけど…」
ユウ、か。
ただ名前を略しただけなのに、なんだか不思議な響き。
いいなぁ、とあたしはうすく笑った。
「チームの名前は……えっと、まだ決めてなかったよな?ユウ、なにがいい?」
「なにがって……」
あたしは、ふと空を見上げた。
空は青からオレンジに変わり、空の色に染まった雲がゆっくりと流れている。
「……スカイ」
「え?」
スイが訊き返してきたので、あたしは視線を戻して彼を見た。
「チーム・スカイってのはどう?Skyは、空。
あたしと、スイの色を持つ空」
あたしは夕焼け空の色、スイは青空の色
「ピッタリだと思うけど?」
「うん、いいんじゃないか!?救助隊、チーム・スカイ!!しっくり来るよ!!」
スイはまるで子供のように目をキラキラさせて、空と、そしてあたしを見た。
「救助隊チーム・スカイ!!明日から始動だ!!頑張ろうぜ!!」
「はいはい、頼りないパートナーさん」
軽く肩を竦め、あたしはクスリと微笑んだ。
(この出会いがあたしの謎を解く鍵だったなんて、そのときはまだ考えてもいなかったの)