発見
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「ふぎっ!!」
「ハッ……弱すぎ」
小さな森 B3F
そこで倒したヒマナッツに、あたしは冷めた視線を向けていた。ふーん、ポケモンってのも結構楽しいね?人間では到底できないことができるんだもん。なんか新鮮。
「フウ、やれやれ…スイ、そっちはどう?」
やっぱり先程の地震が原因なのか、森全体の雰囲気がぴりぴりしている気がする。早くそのキャタピーちゃんとやらを見つけなくては、おちおち息さえつけやしない。
そう思いながら振り向いたあたしは、絶句した。
そこには、お花と仲良く戯れるワニノコ(♂)がおりました。………………。
ダッ!
「何してんだよこのクソワニがぁぁぁぁぁっ!!!!」 「ふがっ!!!?」 無言で地面を蹴り、助走をつけてダッシュ!そのまま勢いを殺さずに放った
必殺☆夕日ちゃんスペシャルキック(跳び蹴りVer.)は、スイを約13m程ふっ飛ばした。
顔面からダイブしたスイを尻目に、あたしは華麗に着地を決める。
チッ、思ったより飛ばなかったな。
「やっぱポケモンの姿じゃ威力が弱まるか……体小さいし」
「うっ……い、イテェ………何すんだよ、夕日ー……」
「
黙れサボリ。大体、お前がキャタピーちゃん助けに行くって言い出したんだろ?
なのに何暢気に花と戯れてんだよ」
取り敢えず腹立ったのでブッ飛ばしましたが、
アラ何か問題でも?人の姿だったらきっと腕を組み、スイをぎろりと睨んでいただろうが、あいにく今はポケモンだ。しかもアチャモなので腕が組めない。仕方ないので、とりあえず睨みだけに留めておく。
「あ、悪ィ……。いや〜、きれいな花畑があったから、つい遊びたくなっちゃって…」
「
お前は子どもか。つい、じゃないっての。ったく……」
あたしは深い溜め息をつくと、スイに背を向けた。
「にしても…キャタピーって、どこにいるんだろうな?」
ぽつりとスイが言う。
あたしは黙ったまま、ちらりと視線を横に向けた。
…確かに、このそこそこ広さのある森でたった一匹のキャタピーを見付けるなんて至難の技。もしかしたら行き違いになってるなんて可能性もある。
…どうすれば良いんだろうか。そう考えて空を見上げた、その時。
「……!」
不意に頭の中で、キィン!と甲高い音がして、あたしは顔をしかめた。
痛みがあるわけではない。でも、頭の中を何かが駆け巡る。なんだ、なんだこれ。あたしは頭を押さえ、片目を硬く閉じた。ゆらり、と頭の中で、何かが揺らめく。
わからない、わからない。なんだコレ、何処だここ。
口が、勝手に言葉を紡いだ。
「………最下層、一番下…キャタピー、そこにいて、泣い、て…。…!?」
自分で言って、思わずあたしは口を押さえた。今、あたしは何を言った?知らない、知らないよキャタピーがどこにいるかなんて。
なのに、それなのに―――
なんで、そんな事知ってるの…?
心臓の鼓動が早くなり、背筋に冷たいものがつたう感じがした。スイが、急に黙り込んだあたしの顔を不思議そうに覗きこんでくる。
「夕日、どうかしたか?」
「………」
「夕日…ってどうした!?顔色悪いぞ!?」
スイがあたしの背中を優しくさすってくれる。どうやら彼には聞こえてなかったらしい。本当に小さな声だったから。
あたしは背に感じるぬくもりに、だんだん落ち着いていくのが分かった。
深く息を吸い込み、ゆっくりとはきだす。
「…なんでもない。大丈夫だよ、スイ」
「……ほんとか?」
「うん。早く行かなきゃ…キャタピーちゃんの所に」
そうでしょ?と小首を傾げてスイを見ると、ちょっと顔を赤らめてああ…と頷いた。
? なぜ、顔が赤い?
あたしがスイを怪訝そうに見る。その視線に気がついたのか、スイは慌てて頭を振って「なんでもない!」と叫ぶように言った。
いや、ますます怪しいだけだからね?
と、その時。
ザザザッ近くの草むらが激しく揺れた。
「「………」」
その中から顔を出したのは、ヒマナッツやらケムッソやらポッポだのの野生ポケモン達。この森を住処にしているポケモン達だ。
それも、
大群で。
「ありゃりゃ……囲まれたぜ?」
ひしひしと感じる敵意。
顔をひきつらせるスイに、あたしは溜め息をついた。
「はあ、もう…スイがぐずぐずしてるから………」
「ええっ!?オレだけのせい!?」
「ホラ、さっさとこの包囲網抜けるよ」
スイと背中合わせになり、互いに前を見据えながらにやりと笑う。
ざっと見て、20匹ってトコか………。まあ、雑魚っぽいからカンケーないけど。
「一人10匹がノルマね」
「了解!!」
「意気込むのは良いけど、先にくたばるなよ。疲れるのはあたしなんだから」
「ダイジョーブだって!あ、夕日が倒れたらちゃんとオレが守ってやるからな」
「ワーアリガトウトッテモ嬉シイワ」
「棒読み…」
がっくし、と肩を落とすスイは無視して、あたしは真っ直ぐにキマワリ達を見回す。
…さて、待っててくれてアリガトウね。こんなくだらないコントに、さ。
「じゃ、適当にいきますか」
「おう!いっくぜええええ!!!!」
その声を合図に、あたしたちは同時に大地を蹴った。
***
小さな森、最下層。
「……えーん…お母さん……どこぉ?……ぐすっ」
一匹の幼いキャタピーが、か細い声で泣いていた。
いつポケモンに襲われるか分からない。
いつ助けが来るかも分からない。
そんな中、キャタピーは一人、暗い森の中で泣いていた。
時々聞こえる、怪しい鳥の声。
そんな些細なことでも、幼く、そして一人ぼっちのキャタピーには恐ろしくて仕方がない。
恐怖と、不安と、心細さという負の感情で、キャタピーの心は押しつぶされそうになっていた。
ガサッ!
「!!!!!」
背後で聞こえた音に、キャタピーは身体を硬くした。
なんだろう…?
野生のポケモンかな?
襲われちゃう……?
怖い、怖いよ…!!
思えば思うほど涙が溢れてくる。
ポタポタと、涙が地面に落ちていく。
流れた雫が、地面に濃いシミを作った。
「――――見つけた!!ホントにいたぜ、夕日!!」
「…いきなり大声出すな、馬鹿水龍。キャタピーちゃん怖がるでしょーが」
「!?」
この場所に会わない、明るい声が二つ。
恐怖を感じさせるような声ではなく、安心するような声。
キャタピーは、恐る恐る振り返った。
「キミが、キャタピーちゃん?地割れに落ちたっていう……」
そこにいたのは、アチャモとワニノコの二人組み。
アチャモの方は傷一つなく、無表情ながらも優しい瞳でこちらを見ている。
ワニノコは体中すり傷だらけで、それでも無邪気な笑顔を絶やさなかった。
「ほら、スイがあんなところで突っ走るから。あんだけくたばるなって言ったのに」
「くたばってはないぜー?ちょっとすりむいただけじゃん」
「でもボロボロじゃん」
「…バトルは慣れてないんだよ!」
「言い訳は見苦しいよ?」
「うっせ!」
目の前で言いあう二人に、キャタピーの涙にぬれた丸い目がパチパチと瞬かれる。
それに気付いたアチャモが、クスリと笑ってキャタピーに視線を移した。
「助けに来たよ」
「え……?」
「怖かったね?もう大丈夫だから。お母さんが待ってるよ」
「一緒に帰ろうぜ!なっ!」
そう言って二人は、太陽のような笑顔をキャタピーに向けた。
片や日だまりのような、片や燦々と輝く日輪のような。そんな、笑顔。
「―――っ、うん!!」
キャタピーは瞳に涙をいっぱいにためて、アチャモに抱きついた。
キャタピーの頬を涙が伝う。
しかしそれは先ほどまでの冷たい涙ではなく、とても暖かい涙だった。