発見  [ 4/19 ]






「ふぎっ!!」

「ハッ……弱すぎ」



小さな森 B3F

そこで倒したヒマナッツに、あたしは冷めた視線を向けていた。ふーん、ポケモンってのも結構楽しいね?人間では到底できないことができるんだもん。なんか新鮮。



「フウ、やれやれ…スイ、そっちはどう?」



やっぱり先程の地震が原因なのか、森全体の雰囲気がぴりぴりしている気がする。早くそのキャタピーちゃんとやらを見つけなくては、おちおち息さえつけやしない。
そう思いながら振り向いたあたしは、絶句した。

そこには、お花と仲良く戯れるワニノコ(♂)がおりました。


………………。


ダッ!



「何してんだよこのクソワニがぁぁぁぁぁっ!!!!」 

「ふがっ!!!?」 



無言で地面を蹴り、助走をつけてダッシュ!そのまま勢いを殺さずに放った必殺☆夕日ちゃんスペシャルキック(跳び蹴りVer.)は、スイを約13m程ふっ飛ばした。
顔面からダイブしたスイを尻目に、あたしは華麗に着地を決める。
チッ、思ったより飛ばなかったな。



「やっぱポケモンの姿じゃ威力が弱まるか……体小さいし」

「うっ……い、イテェ………何すんだよ、夕日ー……」

黙れサボリ。大体、お前がキャタピーちゃん助けに行くって言い出したんだろ?なのに何暢気に花と戯れてんだよ



取り敢えず腹立ったのでブッ飛ばしましたが、アラ何か問題でも?

人の姿だったらきっと腕を組み、スイをぎろりと睨んでいただろうが、あいにく今はポケモンだ。しかもアチャモなので腕が組めない。仕方ないので、とりあえず睨みだけに留めておく。



「あ、悪ィ……。いや〜、きれいな花畑があったから、つい遊びたくなっちゃって…」

お前は子どもか。つい、じゃないっての。ったく……」



あたしは深い溜め息をつくと、スイに背を向けた。



「にしても…キャタピーって、どこにいるんだろうな?」



ぽつりとスイが言う。
あたしは黙ったまま、ちらりと視線を横に向けた。
…確かに、このそこそこ広さのある森でたった一匹のキャタピーを見付けるなんて至難の技。もしかしたら行き違いになってるなんて可能性もある。

…どうすれば良いんだろうか。そう考えて空を見上げた、その時。


「……!」



不意に頭の中で、キィン!と甲高い音がして、あたしは顔をしかめた。
痛みがあるわけではない。でも、頭の中を何かが駆け巡る。なんだ、なんだこれ。あたしは頭を押さえ、片目を硬く閉じた。ゆらり、と頭の中で、何かが揺らめく。
わからない、わからない。なんだコレ、何処だここ。

口が、勝手に言葉を紡いだ。



「………最下層、一番下…キャタピー、そこにいて、泣い、て…。…!?」



自分で言って、思わずあたしは口を押さえた。今、あたしは何を言った?知らない、知らないよキャタピーがどこにいるかなんて。
なのに、それなのに―――



なんで、そんな事知ってるの…?



心臓の鼓動が早くなり、背筋に冷たいものがつたう感じがした。スイが、急に黙り込んだあたしの顔を不思議そうに覗きこんでくる。



「夕日、どうかしたか?」

「………」

「夕日…ってどうした!?顔色悪いぞ!?」



スイがあたしの背中を優しくさすってくれる。どうやら彼には聞こえてなかったらしい。本当に小さな声だったから。
あたしは背に感じるぬくもりに、だんだん落ち着いていくのが分かった。

深く息を吸い込み、ゆっくりとはきだす。



「…なんでもない。大丈夫だよ、スイ」

「……ほんとか?」

「うん。早く行かなきゃ…キャタピーちゃんの所に」



そうでしょ?と小首を傾げてスイを見ると、ちょっと顔を赤らめてああ…と頷いた。
? なぜ、顔が赤い?
あたしがスイを怪訝そうに見る。その視線に気がついたのか、スイは慌てて頭を振って「なんでもない!」と叫ぶように言った。
いや、ますます怪しいだけだからね?

と、その時。



ザザザッ



近くの草むらが激しく揺れた。



「「………」」



その中から顔を出したのは、ヒマナッツやらケムッソやらポッポだのの野生ポケモン達。この森を住処にしているポケモン達だ。

それも、大群で。



「ありゃりゃ……囲まれたぜ?」



ひしひしと感じる敵意。
顔をひきつらせるスイに、あたしは溜め息をついた。



「はあ、もう…スイがぐずぐずしてるから………」

「ええっ!?オレだけのせい!?」

「ホラ、さっさとこの包囲網抜けるよ」



スイと背中合わせになり、互いに前を見据えながらにやりと笑う。

ざっと見て、20匹ってトコか………。まあ、雑魚っぽいからカンケーないけど。



「一人10匹がノルマね」

「了解!!」

「意気込むのは良いけど、先にくたばるなよ。疲れるのはあたしなんだから」

「ダイジョーブだって!あ、夕日が倒れたらちゃんとオレが守ってやるからな」

「ワーアリガトウトッテモ嬉シイワ」

「棒読み…」



がっくし、と肩を落とすスイは無視して、あたしは真っ直ぐにキマワリ達を見回す。

…さて、待っててくれてアリガトウね。こんなくだらないコントに、さ。



「じゃ、適当にいきますか」

「おう!いっくぜええええ!!!!」



その声を合図に、あたしたちは同時に大地を蹴った。



*** 



小さな森、最下層。



「……えーん…お母さん……どこぉ?……ぐすっ」



一匹の幼いキャタピーが、か細い声で泣いていた。

いつポケモンに襲われるか分からない。

いつ助けが来るかも分からない。

そんな中、キャタピーは一人、暗い森の中で泣いていた。

時々聞こえる、怪しい鳥の声。

そんな些細なことでも、幼く、そして一人ぼっちのキャタピーには恐ろしくて仕方がない。
恐怖と、不安と、心細さという負の感情で、キャタピーの心は押しつぶされそうになっていた。




ガサッ!




「!!!!!」



背後で聞こえた音に、キャタピーは身体を硬くした。


なんだろう…?

野生のポケモンかな?

襲われちゃう……?

怖い、怖いよ…!!


思えば思うほど涙が溢れてくる。
ポタポタと、涙が地面に落ちていく。
流れた雫が、地面に濃いシミを作った。



「――――見つけた!!ホントにいたぜ、夕日!!」

「…いきなり大声出すな、馬鹿水龍。キャタピーちゃん怖がるでしょーが」

「!?」



この場所に会わない、明るい声が二つ。
恐怖を感じさせるような声ではなく、安心するような声。


キャタピーは、恐る恐る振り返った。



「キミが、キャタピーちゃん?地割れに落ちたっていう……」



そこにいたのは、アチャモとワニノコの二人組み。

アチャモの方は傷一つなく、無表情ながらも優しい瞳でこちらを見ている。
ワニノコは体中すり傷だらけで、それでも無邪気な笑顔を絶やさなかった。



「ほら、スイがあんなところで突っ走るから。あんだけくたばるなって言ったのに」

「くたばってはないぜー?ちょっとすりむいただけじゃん」

「でもボロボロじゃん」

「…バトルは慣れてないんだよ!」

「言い訳は見苦しいよ?」

「うっせ!」



目の前で言いあう二人に、キャタピーの涙にぬれた丸い目がパチパチと瞬かれる。
それに気付いたアチャモが、クスリと笑ってキャタピーに視線を移した。



「助けに来たよ」

「え……?」

「怖かったね?もう大丈夫だから。お母さんが待ってるよ」

「一緒に帰ろうぜ!なっ!」



そう言って二人は、太陽のような笑顔をキャタピーに向けた。
片や日だまりのような、片や燦々と輝く日輪のような。そんな、笑顔。



「―――っ、うん!!」



キャタピーは瞳に涙をいっぱいにためて、アチャモに抱きついた。

キャタピーの頬を涙が伝う。

しかしそれは先ほどまでの冷たい涙ではなく、とても暖かい涙だった。




  









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