強制連行
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倒れているところをワニノコ、水龍に助けられた夕日。
だが、彼女は人間からポケモンになり、その上記憶まで失っていた!!
混乱する二人…
その時、どこからか悲痛な悲鳴が聞こえてきた!
「いや、なんだこのナレーター」
…悲鳴の正体はいかに!?
乞うご期待!!
「いや聞けよ」
「助けて――――っ!!だれかぁ――――!!」
「? あっちから声が………」
「…バ、タフリー……?」
「え?」
あたしの呟いた言葉に、スイが反応した。あたしは軽く口を押さえる。
今…?今、あたしは何を言った?この声を聞いたのは初めてだったのに、何故今そんなことを言った?
スイの視線にも気付かない。自分の中で次々に生まれてくる、疑問。
また、甲高い悲鳴が響いた。スイがハッとして、弾かれたように駆け出す。あたしも後に続いた。
「今、悲鳴が聞こえた!」
「うん、あたしも聞こえた」
「何か、あったのか!?」
「じゃないと悲鳴なんて上げないんじゃないでしょう」
あたしの言葉に、スイがスピードを上げる。置いていかれないように、あたしも走るスピードを上げた。
ガサッ、と茂みを突き破れば、そこは小さく開けた場所だった。その中央に、一匹のバタフリーが倒れている。綺麗な羽は所々傷ができ、赤い血が微かに滲んでいた。
「ど、どうしたんだよ?傷だらけじゃないか!!」
スイが彼女に駆け寄り、慌てて抱き起こす。あたしもバタフリーの傍によると、片膝をついて彼女をじっと見た。
バタフリーはしばらく肩で息をしていたが、やがてバッと顔を上げると、スイにすがりついた。
「た、助けて!!」
「落ち着けよ!!一体何があったんだ!?」
スイが錯乱しているバタフリーを必死でなだめている。
それを見ながら、あたしはキョロキョロと周囲を見回した。
「大変なのよ!!ウチのキャタピーちゃんが、ほら穴に落っこちちゃったのよ!!」
スイが、金色の瞳を見開いた。
それは彼の動揺を誘うのには充分で。
あたしは少し先にとある物を見つけ、小走りにスイの側から離れた。
「なんだって!?」
「急に地面が割れて、その中にキャタピーちゃんが!!穴から出ようにもまだ幼いから、自分じゃ出られないのよ…!!助けに行ったら、ポケモンたちが突然襲ってくるし……」
その言葉に、スイはあからさまに怪訝そうな顔をする。
「襲ってくる…?ポケモン達がか!?」
「みんな地割れに怒り、我を忘れてるのよ!きっと!!」
「(この人、なんか説明口調だな)」
場違いなことを思いながら、あたしは“それ”を拾い上げる。
その間にも、バタフリーの混乱した声は鼓膜を打っていた。
「私の力じゃ襲ってくるポケモン達には敵わないし……このままじゃ…!ああっ!もうどうしようかしら…!?」
「あーはいはい、一応落ち着いてください」
「夕日?」
泣きそうに顔を歪めるバタフリーに近寄り、あたしは手に持っていた“それ”を彼女に差し出した。
「オレンの実です。まずは傷を治してください」
「あ…」
「お母さんが傷だらけだと、子どもさんも心配するでしょう?」
「夕日…」
にこりと微笑み、あたしはバタフリーの手にオレンの実を握らせた。
バタフリーは微かに俯き、ありがとうと小さく呟く。でもその手は、まだカタカタと震えていた。スイは無言でバタフリーをおろし、夕日を向いた。
その視線に気付いたあたしが彼の目を見て、その目に宿っている光を見て嫌な予感がしたのは気のせいではないだろう……。
「こうしちゃいられない!助けに行こうぜ!!」
「
え゙。……あ、あたしも?」
「おう!行こうぜ夕日!!」
「ちょ、ちょっとまっ………
ぎゃあぁぁぁぁ!!!!」
水龍はあろうことかあたしの首根っこを引っ掴み、森の中を駆け出した。
ちょっ、首!首絞まってる!!
てかなんであたしまで!?
「行くなら一人で行けぇぇぇぇぇ!!!」そんなあたしの悲痛な叫びも、意気込むスイには欠片も届かず。
ちいさなもりぜんいきに、きいたことのないひと(ポケモン)のこえがひびきわたりました。
《小さな森に住む、あるピチューの日記より引用》