白の記憶  [ 2/19 ]









ここはどこだろう?




















夢の中なのかな?




















風が気持ちいい




















……どこからか、声が聞こえる




















誰だろう?


















「………おい?オイ、起きろ。起きろって!」



あせったような声が、あたしの鼓膜を震わせた。
あたしはまだ重い瞼を無理やりに開けて、突如目を差した日の光に小さく呻いた。
ぼやけていた視界が、徐々にはっきりしてくる。
澄み渡る青い空を、真っ白な雲が風に乗って泳ぐように進んでいく。
木の葉が、風に乗ってヒラヒラ舞っていた。



「お、目が覚めたのか?よかった〜…」

「…?」



すぐ傍で男の子の声がして、あたしは首をめぐらせた。
が、彼の姿を見た時、あたしは音を立てて固まった。



「あんた、ここで倒れてたんだぜ!起きてくれてよかったよかった……」

「……………………」



文字通り、言葉も出ない。
うん、この子があたしを助けてくれたってのは分かった……分かったよ。
わかった、けど。



「あんた、大丈夫か?立てるか?」

「………」

「? どうかしたか?」



きょとんとして、小首を傾げるあたしの命の恩人さん(?)
何、一体何なの。コレは夢?それとも現実?
うーん…?疲れてんのかな?
だってねぇ?ありえないしねぇ…。



「………もっかい寝よ」

「へっ!?イヤイヤイヤ!!ちょっとまてって!!」



寝なおそうとしたら、恩人さんにツッコまれ、あたしは渋々体を起こした。



「おいおい…。ビックリしたぜ。まさかまた寝ようとするなんて……」

「…いや、夢なら寝れば起きれるかと」

「は?言ってること矛盾してるんだけど…。大丈夫かよ、アチャモ…」













はい?













ちょっと待って?
今聞き捨てならん単語が聞こえたよ?
あたしは目の前の彼を凝視し、眉根を寄せた。



「あ、アチャモぉ?何言ってんのキミ…」

「は?」

「あたしはおもいっきし人間なんですけど……」

「………………………は?」

「それより、キミこそ何?ポケモンってみんな喋れたっけ?





ワニノコくん」



あたしがそう言うと、ワニノコはあからさまに変な顔をした。



「…あのさ、頭大丈夫?オレいい医者知らないけど、病院行く?」

知らないのかよ。てかあたしはバリバリ正常なんですけど?なにこのヒトかなり失礼じゃん」



うん、助けてくれたことには素直に感謝の意を示そう。
でもさ、初めて会って間もない人間にそういうこと言う?

あたしが一人でブツブツ言っていると、おもむろにワニノコくんがあたしの手を握って歩き出しました。
慌てて顔を上げると、彼は至極真面目な顔で黙々と先へ進む。



「は?え、ちょっと?」

「…黙ってついてきて」

「病院とか行かないよ?」

「イヤ、場合によっては……」

「諦めろっての」



仕方ないのでワニノコ君について歩いていると、目の前に小さな泉が見えた。その真後ろには高いガケがあって、そのガケの下のほうから水がちろちろと流れて泉に注がれていた。



「? なんなのさ?」

「いいから、その泉覗いてみ?」

「?」



訝しげに眉を寄せながら、あたしはワニノコくんの言うとおりに泉を覗き込む。
泉の水は澄んでいて、鏡のように周囲の風景を映していた。

それはもちろん、あたしの顔も映しているということで……



「…………え?」



絶句した。
そこに映った光景に。
フワリ、とオレンジ色の《羽》が風に揺れた。
そこに映っていたのは、人間のあたしの顔じゃなくて…………











「ア、チャモ……?」











オレンジ色をした、ひよこポケモンの顔だった。


「う…そ……」

「…な?アチャモだろ?」



ワニノコの言葉に、あたしは無言で頷いた。だって、事実、だったから。目の当たりにされた真実に、あたしはその場に座り込んだ。
何で気付かなかったんだろう。周りのことが目に見えてなかった証拠だ。



「何で…?何であたし、ポケモンに……?…あれ、思い出せない……」

「……やっぱ、病院行く?」

「行かないって。いや、ある意味行ったほうがいいのかもしんないけど、でも行かないから」



何でキミはそんなにあたしを病院に連れて行こうとするんですか。
そんなにあたしを精神異常者扱いしたいのか?



「……アンタ…なんか変わってるな」

「うん、あたしもそう思った……。あたしってばいつからポケモンに変身できるようになったんだろーねぇわーすごぉい(棒読み)」

「それ、なんか違うと思う」

「あたしもそう思う」

「……………。(なんだこの子)
 あ、なあ!名前は?名前はなんていうんだい?思い出せる?」



話逸らしたね。この子わかりやすいな。

んー…名前…か。あたしの、名前……?
…名前………なま、え……は…。



「夕日……」

「夕日?それが、キミの名前?」

「かね?よくわかんないや。コレだけなんか覚えてたんだもん」



やけにはっきりと、ね。

そう言うと、ワニノコは小さく笑った。
笑われた理由が分からず、あたしは首を傾げる。



「……何がおかしいの?」

「わ、ワリィ!なんか、おもしろ…じゃなくって、珍しい名前だからさ!!!」

「人間ではコレがフツーだからね?」

「ワリィって。あ、オレの名前は水龍。スイでいいぜ」

「スイ…ね。分かった」



ワニノコくん、もといスイと握手を交わす。てかアチャモって、この羽が手だったんだな。なんか新しい発見だ。


てか、これからどうしようねぇ…?
記憶もないしポケモンになった理由もわからない。記憶は無いくせに、自分が人間だったということと、名前だけはやけにはっきりと覚えているんだ。
でも、それ以外の記憶はまっさらで。
行くところもない。このまま天涯孤独でさ迷うか。
スイと握手をしながらそんなことを考えていると、突然。



「だれかぁ――――!!!たすけてえ――――!!!」



「「!!」」



悲鳴が、森に響き渡った。






(スイとの出会いが、後のあたしの存在理由を教えてくれたのかな)
 



  









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