勝ったぜ、とメールが来たとき、思わず「マジでか」と呟いてしまった俺は、断じて悪くない。



「風丸」

「一縷!」

「ほい、オメデトさんとオツカレさん」



朝、登校して一番に風丸の元へ向かい、コンビニで獲得してきた袋を机の上に置く。中身はスポーツドリンクとお菓子多数だ。



「サンキュ」

「にしても、あの帝国に勝つなんてな」

「それ、今朝から他の奴等に何回言われたことか」

「あー、やっぱり?」



ガサ、と袋の中に手を突っ込んで、自分用にと買っておいたポッキーとジュースを取り出す。
袋を破いて一本を口にくわえ、もう一本を風丸に差し出した。



「あの弱小サッカー部がねー…ろくに練習してるところなんて見たことないのに」



…見たくもないけど。
そんな俺の心の呟きに気付かず、ポッキーを受け取った風丸は苦笑気味に笑った。



「…っていっても、俺たちはとくに何もできなかったし…点を取ったのは豪炎寺だよ。それに、相手の棄権負けだしな」

「豪炎寺?あぁ、隣のクラスのイケメソ転校生だっけ?それでも勝ちは勝ちだろ。大したもんじゃん」



ちら、と壁にかけられた丸い時計を見る。…あ、もうSHR始まるな。



「…………帝国、か」



その呟きは、チャイムと共に教室に入ってきた担任の大声に掻き消された。




***




サッカー部の次の対戦があったのは、それから数日後だった。



「今回は見に来てくれよ」

「は?」



俺は思わず眉を寄せた。
そんな俺に構わず、風丸は素早く俺の右手を掴むと、俺の小指と自分の小指を絡ませる。



「はい、指きった」

「……………」

「約束したからな、一縷」



…かなり一方的じゃねーかお前。
俺がしらーっとした視線を向けていることに気付いた風丸は、しかしそれをものともしない美しい笑顔で対抗してくる。

くそ、これだから美形は絵になるんだよふざけんな。



「メロンパン3個とアセロラドリンク1本」

「乗った」



でもそれで屈してしまう俺も俺だった。
答えた後にはっとして、わざとらしく舌打ちしてやったのは昨日の話。




どんよりと曇った空の下、俺はグラウンドにいた。
律儀に約束を守る健気な俺がたまに憎い。



「―――尾刈斗中?」



なんだ、その不気味な名前は。
俺、間違ってもその学校には通いたくない。オカルトとかマジで無理。死ねる。ホラーとかホント無理。川とか渡れちゃうから。
グラウンドから少し離れた木の幹に背中を預け、相手の監督と何かを話しているキャプテンを見る。
ふと、風丸と目が合った。ちゃんといるよ、の意味を込めて片手を上げれば、力強く頷かれる。

―――その様子が、昔の一コマと重なった気がした。



「………」



柔らかな日の光が照らす小さな公園、そこで戯れる二人の子供。一つのボールを追い掛けて、何が楽しいのか、そんな些細なことで笑う。
ただ、ボールを追い掛けて、転がして、蹴っ飛ばして、転んでも笑っていて。
あの時繋いだ小さな手の温もりも、転びかけて抱き留められたあの温度も、もうとっくの昔に冷めてしまった。

ぐ、と組んだ腕を掴む手に力を込める。
思い出したくもない、けれど何物にも変えられない大切で愛しい過去の日々。
薄く、唇を噛み締めた。



もう、君の声は記憶の中でしか聞けない。




*聞きたくも無いホイッスルが、鳴った


prev next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -