いつだったか、幼馴染みがいたんだ、とオレに告げた彼奴の声は、か細く震えていた。








フットボールフロンティアの出場権が掛かった、大事な尾刈斗中との試合。直前に豪炎寺がチームに加わったことでチームの雰囲気(主に染岡)はどこか不安定だが、やるしかない。
オレはぐるりと観客を見回し、木に背を預けて立っている一縷を見つけた。あちらもオレに気付いたようで、手を振れば小さく微笑んで振り返してくれる。良かった、見に来てくれていた。
本当は賭けだったんだ、あいつがこの試合に来るかどうかは。
陸上の時は『見に来て欲しい』と言えば見に来てくれたけれど、サッカーは別。



「頑張ろうぜ、風丸!」

「あぁ、そうだな円堂」



―――あいつは、サッカーなんて大嫌いだから。



(知ってて『見に来い』なんて言ったオレも、相当酷い奴なのかな)



きっとアイツは聞きたくなんてないだろう、試合開始のホイッスルが鳴った。



*・*・*



序盤はいい滑り出しだった。
確かあいつは染岡竜吾…だっただろうか。11番のフォワードの必殺シュートで、対戦校のゴールを抉じ開け、先取点。続けて得点を入れたのもそいつの…えっと、ドラゴンクラッシュ、だっけ?そんな感じの名前のシュートだった。
門イレブンや観客達はそれを喜び合っていたけれど、俺はどうにも素直に喜ぶ気にはなれなかった。
さっきのあれは、尾刈斗中が雷門をなめくさっていたから入った点だ。仮にもフットボールフロンティア出場校、いくら帝国を倒した(ただし棄権負け)とはいえ、無名の相手に余裕をかますのはよくあること。油断大敵、とはよく言ったもんだ。ただし次からは相手も油断なんかしないだろう。

まぁ、先取点は褒め所か。俺は非常に上から目線でそう思った。うーん、捻くれてるなぁ、俺。

再び相手のキックオフから試合が再開。その瞬間、突如相手の監督がベンチから立ち上がった。



「まさか豪炎寺君以外にあんなストライカーがいたとは、予想外でしたよ…雷門中のみなさん!」



なんだ?いきなり監督の雰囲気が変わった…?



「いつまでもザコが!調子に乗ってんじゃねえぞ!!テメェら!そいつらに地獄を見せてやれ!!」



……え、何アレ?
突然口調が変わったと思えば、なにやらブツブツと呪文のようなものを唱えだした監督に思わず眼が点になる。
おかしいな、これサッカーの試合だよね…?
何のオカルト行事だ、と呆れかけたその時、風丸の声がした。



「何やってるんだお前ら!」

「? ……!!」



フィールドを見ると、何故か相手チームではなく自分の仲間達にマークしているらい門イレブンの姿があった。
しかもマークしていた彼らは、まるで風丸の声で今気付いたという風に驚いて固まっている。その間にも、尾刈斗中の選手たちはどんどん雷門ゴールに近づいていく。



「…何やってんだ?」



敵ではなく味方を妨害するなんて。皆同じジャージでやる体育の授業じゃあるまいし、普通は有り得ないミスだ。



「みんな!相手の動きを落ち着いてよく見るんだ!!」



相手の動き、ねぇ…?

俺はフィールド全体をぐるりと見渡した。



「無駄だ。ゴーストロック!」
(マーレマーレマレトマレ!!)

「なっ…!?」

「あ、足が、動かないっス!」
「これが、ゴーストロックだ…くらえ、ファントムシュート!」



相手が放ったボールがゴールネットに突き刺さる。
シュートが打たれる直前も、その瞬間も棒立ちのまま反応せず、あっさり得点を許した雷門イレブン。
呆然としてがくりと膝を着いた彼らを見て、俺は無言のまま目を細めた。



***



その後も例のフォワードがドラゴンクラッシュを打つも、相手のキーパーにあっさりと止められ、さらにゴーストロックで動きを止められ二点追加、逆点を許してしまう。
事態は悪化したまま前半が終了した。

一度部室へ引き上げていく雷門イレブン。その一番後ろを、険しい顔でついていく選手が目に留まった。

…確か、あれは風丸が言ってた例の転校生。名前はえっと…豪炎寺……だったかな。
訳のわからない展開に戸惑う他のチームメンバーとは違い、彼はなにやら深く思案するような顔をしていた。



「………………」



俺は彼らから視線を外し、ベンチに集まる尾刈斗中のメンバーを見下ろした。



***



そして後半が始まる。
雷門イレブンはおそらく、今から追加点を狙いに前へ大きく出るだろう―――だが、その予想に反してキックオフするなり、あの豪炎寺がボールを後ろの一年生へ回した。前へ進む気配は、ない。


「何してやがる、豪炎寺!」

「なんでファイヤートルネードを打ちに行かないんだよ、豪炎寺!!」



味方も相手もその行動に驚きを隠せない。だが、豪炎寺はじっとゴールを見据えたまま何かを見極めようとしているようだった。
染岡が舌打ちする。



「チッ、腰抜けめ!少林寺、来い!」



仲間割れか。
駆け出した染岡が相手ディフェンダーによって妨害されたのを見て俺は溜め息をついた。
思えば、試合開始前からチームの雰囲気が可笑しかった気がする。だが、そんなこと俺は知らないし、知る必要もない。

俺は『観客』。試合前に何があろうと、俺達『傍観者』が重視するのは目に見える試合の過程と結果。

…たとえ、フィールドに立つあいつらよりも早くあの『呪い』とやらのタネを理解したとしても、『部外者』である俺が口出ししてやるいわれもない。



「…さぁ、誰が最初に気付くかな?」




*教えてやる義理なんて、存在すらしていない







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