翌朝。
「おはよ、風丸」
「! 一縷…!」
「ん?どうしたかぜま…って、お、おおお?」
学校に着くなり、いきなり親友に手首引っつかまれて教室から拉致られました。
お、おおう?なんなんだ一体。
つれてこられたのは、学校の屋上。
SHR前だからか、人影は俺達以外一切ない。
ばたん、と錆びた扉が閉まるのを確認して、風丸は漸く俺の手を離した。
振り向いたその表情は、どこか複雑そうで。
「……一縷」
「何?」
「あのさ、その…昨日のこと、何だけど」
「風丸がメイド喫茶にいた話?別に誰にも言いふらすつもりはないから安心しなよ。まあずいぶん余裕なんですね我が校のサッカー部様はと若干いらっとしたこともなくはないが」
「…お前のそうやって本音を包み隠さねーとこ、俺好きだよ。心にグサッと来るけど」
「ん、そりゃどーも」
腕を組んだまま言えば、風丸は疲れたように溜息を吐き出して「………や、ちがうそこじゃなくてだな」と慌てて顔を上げた。
「その、昨日御影専農中の下鶴といただろ?…その、サッカー部、の」
サッカー部。
やっぱりそのことか。少し眉間に皺が寄ったような気もするが、事実なので頷いておく。
「どういう経緯で、知り合ったんだ?」
「…この前、町の電気屋でちょっと色々あって。そこからアドレス交換して、仲良くなったんだ。お前らと会うまで、アイツがサッカー部だなんて知らなかったよ」
お前らの対戦校だったらしいけど、それも知らなかったし。
そう続けると、「そうか…」と目の前の親友は複雑そうな表情を浮かべた。
「大丈夫なのか?ほら…色々と」
「…別に、アイツがサッカー部だからって敬遠する気はないよ。他校だからって言うのもあるけど、俺は別にサッカーが嫌いなだけであって、サッカー好きが嫌いなわけじゃないから」
その理論で行けば、現サッカー部な風丸とも絶交状態だよ?と小さく笑うと、風丸も少し考えた後「…それもそうか」と笑った。
「…でもさ、なんでサッカー部が雁首そろえてメイド喫茶にいたの?いや別に他人の性癖をどうこういうつもりはないよ?普段が笑顔の素敵な爽やかスポーツ少年だろうがホラ、やっぱり思春期真っ盛りの中学生男子なわけだし、色んな物に好奇心が向くことだって別に悪いことじゃねーし、ああいうのに興味があっても俺的には全然」
「誤解だ!!!!」
その後、風丸は一体どういった経緯でサッカー部総出でメイド喫茶に行くことになったのかをかなり必死の形相で説明してくれた。
うん、わかった。わかったからちょっと落ち着け。深呼吸しろよ、顔真っ赤だぞ?
*あくまで嫌いなのは、サッカーだけなんだ
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