相変わらず親友がサッカーに付きっ切りで非常にさびしいです。柊一縷です、こんにちは。

今日も風丸は授業が終わった瞬間サッカー部に疾風ダッシュしていきました。完全放置状態な俺です。ぐすん(棒読み)



「な…なぁ、柊!」

「んあー?」

「今日よければ一緒にかえんね《――♪――♪――》」

「あ、悪いメールだ」



何故かがっくり落ち込んでるクラスメイトは放置して、俺はポケットから携帯を引っ張り出すとメールフォルダを開く。

……あ、マジでか。じゃあ急がなきゃな。



「悪い、俺これから人と会う約束してんだわ。じゃーなっ」

「え、おい、柊っ!」



しゅぴっとクラスメートに手を振って、俺もすばやく教室から出た。さて、今回はちょっと遠出します。



「……柊ー…」

「…お前、もう柊は諦めろよ…。…あいつああ見えて結構ガード高いんだぞ…高嶺の花度なら夏未様とタメはれるんだぞ…」

「ううう……でも風丸がいない今がチャンスなんだよー…」




* * *




電車に乗ってちょっと遠出。
今日は改と会う約束をしていた。最近調子の悪い自前のノートパソコンを見てもらうためだ。

あの日、改と出会って数日。約束通り父さんに頼まれたパーツを一緒に探しに行ってくれた後も、俺達は度々連絡を取り合っては商店街で会っていた。

本当は今日も商店街でパソコンの状態を見つつカスタマイズについてのアドバイスをもらう予定だったのだが、何やら校外実習だかなんだかで丁度電気街にいるらしく。
こちらの方がパーツの種類も多いし、値段も安く買えるから、良ければ出てこないかという連絡を貰ったのだ。


慣れない駅で降り、改札を出る。



「えーと……」



1番出口、だったっけ。
先ほどの電話を思い出しながら、俺は出口を目指す。大きなリュックを背負った人や、アニメのキャラクターが描かれた袋を持った人々の合間を抜けつつ、案内板を見失わないように歩いていく。
やがて、大きく『一番出口』と書かれた表示が見えた。
あ、ここか。無事目的地に到着した俺は、キョロキョロと周りを見回して改を探す。



「―――――一縷!」



ふっと、声が聞こえた。
そちらを見ると、少し離れた所にある柱に寄りかかった改が、こちらに向かって軽く手を上げていた。
俺は駆け足でそちらに向かう。



「ごめん、待たせたよな」

「いや、大丈夫だ。俺も今来たところだから」



改くんマジ紳士。
足、大丈夫か?と訊ねると、もうギプスは外れたからと笑顔が返ってきた。



「じゃ、行こうか。少し歩くんだけど、大丈夫か?」

「うん、平気」

「人が多いからはぐれるなよ?」

「改、俺一応お前と同い年なんだけど?」



どっかの親友と似たようなことを言うな。

あ、別に互いに名前呼びなのには特に意味はない。会って間もない頃、俺が「下鶴って呼びづらいから改でいい?」と訊いてみたら、「じゃあ俺も名前で呼んでいいか?」という会話から今に至る。
だから変な勘ぐりはすんなよ?






* * *





「で、今日は何が調子悪いんだっけ?」

「ホームページ開くじゃん。やたらそのページの読み込みとかが遅いんだよね。何でかわかる?」

「んー…考えられるとすれば、メモリ容量が低いか、処理能力が追いついてないか…一気にたくさんページ開いたりしてないか?」

「あ、たまにする。動画サイト開きながらpi●ia使ったりとか」

「間違いなく原因それだろ。…じゃあ、メモリ容量が低いんだろうな……カスタマイズしてないノートパソコンだから限界があるんだろうな」

「マイパソはノートでっす」

「知ってるよ、見たらわかる」



愛用の水色のノートパソコンを開きながら、改と一緒に慣れない電気街を歩く。

そういや、こんな風に男の子と二人で歩くのなんてずいぶん久々だ。俺、元々友達少ないからな。……言っててちょっと寂しくなった。
風丸は今日も練習だろうか。次は地区予選準決勝らしいし(クラスの奴らが騒いでたのを聞いた)、忙しいんだろう。

まさかあの弱小サッカー部が、地区予選とはいえ準決勝まで進むなんてな。
そんなサッカー部で今やスタメンと化しているらしい風丸。………あいつ陸上部いいのかなあ。
まあ頑張ってるならそれでも良いとは思うけど、とそこでいったん思考を切り、改のほうに顔を向けた。


その時。



「……へ?」



たまたま前を通りがかった店の、メイドさんのアニメ絵が描かれた自動ドアが、タイミング良く開いた。



「「「行ってらっしゃいませ、ご主人様!!」」」



あまりにタイミングが良かったもんで、無意識のうちに気を惹かれてしまったのか。なんとなく視線をそちらへ移した俺の目に、信じられないものが飛び込んできた。



「は…?」

「どうした、一縷…」



驚きのあまり思わず足を止めてしまった俺につられて、改も立ち止まる。
そして、同じように目を見開いた。


ふらふらと疲れきったような足取りで店――――メイド喫茶から出てきたのは、毎日のように眼にする見慣れた学ランを着た男子生徒の集団。
しかし、驚いたのはそこじゃない。何故か全体的にげっそりとした雰囲気のその集団の中に、見慣れた青い髪が見えたからだ。


…あれぇ?



「…風丸?」

「え……………な、えっ、一縷っ!?」

「どうしたんだよ風ま…ああっ、下鶴!」

「お前達は、雷門イレブン…?」



何故かメイド喫茶から、久しく口をきいていない親友と、そのチームメイトが団体さんで出てきやがりました。



…えー?



俺とばったり鉢合わせた風丸は、顔を赤くするやら青くするやらで忙しい。その間に黄色があれば完全に信号機である。どうでもいい話題である。



「一縷、な、なんでこんなとこに…!」

「…いや、それこっちの台詞だろ。なんでお前メイド喫茶から出てきてんの。風丸まさかメイド萌え?あれ、そっち系?」

「ち、違う!断じて違う!!」

「風丸、知り合い?」



ひょこ、と風丸の後ろから猫耳のようなとんがりがついたボーダー柄の帽子を被った男子が不思議そうに訊ねる。確かあれは…松野空介か。

完全に俺にしか意識が向いていなかった風丸は、突然の松野の登場にぎょっとしていたが、なんとか呼吸を落ち着けると「クラスメイトなんだ…」と弱々しく答えた。



「へー、クラスメイト…そのクラスメイトが、なんで御影専農の下鶴と仲良さげにしてんの?」

「…はっ!」



その言葉を聞き、風丸がバッと顔をあげた。
俺と改は顔を見合わせ、同時に



「「友達」」



と声を揃えて答えた。風丸、なんでそこで固まる。
取り敢えずそんな親友はさておき、気になったことがある。俺は横目で改を見た。



「てか、改。お前風丸達と知り合いなワケ?」



別にたかが御影専農の一生徒と雷門の一生徒がただ歩いてるだけなら、恋人なのかレベルではやされるくらいだろう。
だが、こいつらは「下鶴 改」を知っていた。「御影専農の生徒」ではなく、「下鶴 改」を。

俺の問いに、改は「あぁ」とあっさり頷く。



「オレも、サッカー部だからな」

「…は?」



サッカー、部?



「フットボールフロンティアって知ってるか?その準々決勝の相手が雷門中だったんだよ」



準々、決勝。
急速に心が冷えていくのを感じた。
敏感にそれを感じ取った風丸が、焦ったように俺を見る。
「一縷、」と声をかけようとした風丸の声を聞きながら、俺はおもむろに右手首を見た。



「…そうなんだ。あっ、なぁ改。そろそろ時間まずいよ」

「え?」

「ってことでサヨナラ風丸、また明日学校で」

「一縷!」



必死な声で俺を呼ぶ風丸の声を無視し、俺は改の手を引いて足早にその場を後にした。
改は何が何やら事情が把握できていないようで、戸惑いながらも黙って俺についてきてくれる。


雷門サッカー部の気配が十分に離れたところで、俺は漸く足を止めた。



「…改、サッカー部だったんだ」

「フットボールフロンティア地区予選の準々決勝で、雷門と戦ったんだ。その時に知り合ってな。ちなみにこの足もその時にやらかしたんだよ」

「…へぇ、そう」

「…………一縷?」

「…何でもないよ」



訝しげな視線を向けてくる改に、にっこりと笑ってみせる。
ああ、これも何かの縁なのか。まったく持って嬉しくない縁ではあるけれど。



「いきなり引っ張ってきちゃってごめんな、改」

「…、いや、別に気にしてないさ。それより、どこか店にでも入ろうか?やっぱりそのほうが落ち着いて話せるだろ?」



にこ、と笑って、改はトントンと俺のパソコンを軽く指で叩く。……本当は、気になってるんだろうに。こういうところで空気読める男の子って、もてると思うよ。
俺は小さく笑って、頷いた。


































「………やっちまった…」

「風丸?」

「いや…」



残された風丸は、冷や汗をかきながら頭を抱えた。
…明日、大丈夫だろうか。






*やっぱり、逃げる
 

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