少林寺から半田にパスが回り、半田が無理やり染岡にパスを回す。
だが、前半での染岡のシュートを懸念してか、尾刈斗中のマークは今や豪炎寺よりも染岡につきっきり。
無論、がっちりマークされた染岡にパスがまわるはずもなく。
尾刈斗の選手にブロックされたボールは、そのままコートの外に転がった。
「…アホくさ」
ホイッスルの音を聞きながら俺は溜め息をつく。
一年生は染岡にパスを回した半田に一様に詰め寄る。豪炎寺がノーマークであったのに関わらず、何故染岡にパスを出したのかと。
まぁ、一年の気持ちも理解できるし半田の気持ちもわからなくは無い。
今の雷門は、何が何でも《結果》がほしいのだ。結果。それは、簡単に言ってしまえば勝利。
勝利するためには、今の状況―――尾刈斗中にリードされている状況を打破するため点を入れなければならない。
けれど、それにこだわりガンガン攻めていく染岡にはマークが付き、逆にノーマークで実力もある豪炎寺は何故かシュートを打とうとしない。
だから半田は、万が一の可能性にかけたのだ。
本当に、万が一だけれど。
試合が再開する。
染岡がマークをつけつつもボールを回せと叫ぶが、一年はノーマークの豪炎寺にボールをパスした。
「染岡にボールを渡せ、少林!」
「だって、染岡さんのシュートじゃ止められてしまいます!」
「やっぱり豪炎寺さんじゃないと点は取れないでヤンス!」
「あいつら…!」
……………。
……。
「見る価値無し、か」
どっちもどっちだ。
染岡の可能性を信じて染岡にボールを回そうとする二年生。
確実に点を取れる豪炎寺にボールを回そうとする一年生。
こう言えば聞こえはいいが、なんというか、あいつら……それぞれ向いている方向がバラバラじゃないか。
そういえば風丸が愚痴っていた。
一年生は豪炎寺に頼りすぎてるって。
逆に二年は、今いるメンバーでもやっていこうと決めたのにって。
あの時は二年の言い分が正しいと思ったけど、こりゃあそれが歪んできてるなぁ。
二年は豪炎寺に頼りすぎないようにと意識するあまり、豪炎寺を除くメンバーで行うサッカーに固執しているし、一年生は一年生で豪炎寺修也という《ヒーロー》が打てばそのシュートはすべて決まるとでも思っているんだろう。
馬鹿だな、と呟いた。
「サッカーはチームプレイなのに―――」
それに気付くのが、実は一番難しいのだけれど。
「くっ、ボールを寄越せ!」
「待て染岡、確かめたいことが―――!」
「オレがシュートを決める!!」
「染岡!!!」
とうとう内部分裂が始まった。
染岡がボールをキープする豪炎寺を押しのけ、強引にボールを奪ったのだ。
あーあ、これもう負けるんじゃね?
これ、帰っていいかな。いいよね?いいよね別に。
状況を渦中から一歩離れたところで見ていた風丸の唇が、「何やってんだあいつら…」と動く。うん、同感。だから帰っていいかい風丸?
染岡が放ったシュートが相手キーパーの手に収まるのを見届けてから、俺はとうとう目を閉ざした。
*まったく、目もあてられない
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