■代償
「…ご無事ですか…?」
差し出された手。
間近に見えるのは幼い頃から見慣れた神官の顔。
「う…ん、大丈夫……」
一体何が起こったのだろうか。
状況を把握できないまま、呆然としながらアリーナは答えた。
「それは、よかっ…たです。」
その答えに心底ほっとしたような顔をしたクリフトだったが、その額にはいくつもの脂汗が浮かんでいた。
「クリ、フト?」
血の気が失せた顔。いつもとはあまりにも様子が違う彼。
訝しみながら視線を落として目に入ったのは、腹から生えている剣であった。
それは夥しい量の血を吸い、紅に染まっていた。

「…あ……」

彼女が声を上げるのとほぼ同時に神官は膝をついた。
「しっかりして、クリフト!!!」
アリーナは彼の身体を支えた。

どう考えても離れた位置にいたクリフトが彼女を庇えるとは思えなかった。
「どう、して?…こんな無茶な…!」
「お仕えしている以上……姫さ…いえ、主を守るのが私の勤め、です。」
苦痛に顔を歪めながら、それでもいつもの優しい瞳で言った。
「しゃべっちゃダメ!」
「ミネア、ユーリル!! 早く来て!!! クリフトが…」
「でも……あ…まり、無茶をなさらな…でくだ、さい」
その言葉を最後に、クリフトは崩れ落ちた。
「クリフトっっー!!!」


「傷は魔法で治しましたが、…命があったのが不思議なくらいです」
ミネアは沈痛な面持ちでそう告げた。
しかし彼女が告げるまでもなく、また医術の知識が無くとも彼の神官がどんな状態であったのか容易に想像できた。
回復呪文で傷を治すことができても失った血は元に戻す事はできない。
一時は脈も呼吸も停止し彼の死を覚悟したが、皆の必死の看病の甲斐もあってか、どうにかその命を繋ぎとめる事ができた。
このような状態にあり一命を取りとめたクリフトは運が良かったとしか言いようがなかった。
峠を越えたとはいえ、失われた体力を取り戻すにはまだ時間を必要としていた。

あれから一ヶ月。
クリフトの意識はまだ戻らない。

「姫様、前に出すぎです!危険ですからもう少し後ろに下がって下さい!!」
「大丈夫よ、これくらいっ!」

力の過信からくる一瞬の油断。
倒したはずのモンスターに後ろを取られる。
背後に殺気を感じた時にはすでに遅く、防御の体勢をとる間もなかった。

「危ない、姫様っっ!!」
クリフトの声が遠くに聞こえる。


私、死ぬのかしら?

そんな考えがアリーナの頭をよぎる。

お父様ごめんなさい。
ごめんね、みんな。

そう考えたのも一瞬の事。

離れた位置にいたのにも関わらず、どこにそんな力があったのか、
普段の彼からは考えられないような素早さで私を突き飛ばした。

―――刹那。

敵の刃が私がいた所を貫いた。
そこには…。

「…バギ、マっっ!!」
かざした手から渾身の魔力が放たれる。
深い傷を負いながらも、クリフトはモンスターに止めを刺した。

私、バカだ…
クリフトのいう事を聞かなかったから…。

死なないでクリフト…。

「あやつめ、どれだけアリーナ様に心配をかけたら気が済むのじゃ!」
「でもクリフトが庇わなかったら今頃アリーナは――」
「それくらいわかっておるわい…」

「もしかすると、クリフトさんはこのまま目覚めないかもしれません。
 …もう今日で一ヶ月経ちます。傷は完治しているのに意識が戻らないのは……
「…あのバカ神官めが」
ブライが目を伏せる。
「うそ!! そんなの嘘よっっ!!」
「………アリーナ様。」
「クリフトが…このまま、死ぬわけないじゃない!!」





大分前に書いた書きかけの駄文を発掘。
ハッピーエンドで考えてたはずですが、もう忘れたので続きません。


prev next

bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -