嬉しいです。 ぼくは確かにそう思ってたです。
そんな時に聞こえてきた、聞き覚えのある声。
「……マン……」
いつも聞いてる声。
目の前にいるロックマンの声じゃなかったです。
ロックマンは口を動かしてるです。 でも、聞こえる声はそこからじゃないです。
聞こえる声は――上からです。
「……アイスマン」
瞬きして、気付いたら、目の前にいたはずのロックマンはいなくなってたです。 ロックマンとまるで入れ替わったかのように、目の前にはぼくのオペレータ、透くんがいたです。
「透…くん?」 「アイスマン、おはよう。朝だよ」 「え…朝…ですか?」
何が起きたのかわからなくて、頭の中は少し混乱してたです。
「ロックマンは…?」 「え、ロックマン?」 「ソウル…ユニゾンは…」
透くんは顔を傾げてるです。 そうした後言った言葉に、ぼくはようやく気付いたです。
「夢を見てたの?アイスマン。すごく嬉しそうだったよ」
――夢。
ロックマンとソウルユニゾン出来て嬉しかった、でもそれは夢だったです。
夢、だったんです。
透くんが何か言ってるです。 でも、それを聞く余裕は今のぼくにはなかったです。 ただ何かを言ってる、それだけがわかるだけで、ぼくの聴覚には届かなかったです。
何かがこみ上げそうになったです。
気付けば、ぼくはPETから飛び出してたです。
透くんがぼくを呼ぶ声に、足を止める事なく――
「う…う…」
ナビの気配を全く感じない場所。
「うわあああんっ!」
こみ上げてきたものの正体が分かった時、ぼくは声をあげて泣いてたです。
嬉しかったはずのそれも、夢だとわかったら辛いものに変わってたです。
ぼくには力がないです。 ロックマンの力に、なりたいです…。
「…アイスマン?」 「…!?だ、誰ですか!?」
突然背中から聞こえてきた声にぼくは驚きながら振り向いたです。 そこにいたのは、ロックマンだったです。
これは、夢ではないです。 ――現実です。
「あ、アイスマン…!?どうしたの、何があったの!?」
ロックマンが慌ててるです。 どうしてなのかわからなくて、ぼくは顔を傾げたです。
拭い忘れた涙をそのままにして。
「何がですか…?」
それと同時に柔らかい布で拭き取られた涙。 ぼくはその時ようやく気付いたです。
涙を拭い忘れていた事に。
「涙…出てたよ、アイスマン。一体何があったの?」 「ロック、マン……うう…うわあああんっ!!」
涙が止まらなくなって、ぼくは勢いでロックマンに抱きついてたです。
ぼくの頭に手を置いて撫でてくれるロックマンの大きな手。 安心する、あったかい手。 ロックマンは驚いた様子で、でもぼくが落ち着くまでそうしてくれたです。
「ぼく、ロックマンの力になりたいです…。みんな、ソウルユニゾン出来てるのに、ぼくは…出来ないです…」 「アイスマン…」 「ぼくには力がないです…ロックマンの事、助けてあげられてないです…」 「それは違うよ、アイスマン」 「違う…ですか…?」 「うん」
少し離れてロックマンの顔を見たら、ロックマンはあったかくて優しい笑顔をぼくにみせてくれたです。 それを見たらまた涙が零れて来て。 ロックマンは手でそれを拭ってくれたです。
「僕は何度もアイスマンに助けてもらってるよ」 「え…?」 「いつも僕と一緒に戦ってくれた。僕を助けてくれた。…それに」 「それに…?」 「…最初にエクステンションチップとして力を貸してくれたのは…アイスマンだよ?」 「あ……」
エクステンションチップ。 少し前の、赤外線じゃなくてコードでプラグインしてた時代のPET。 ぼくはあの時、ロックマンと合体してWWWを倒したです。
熱斗くんのPETと透くんのPETを繋いで。 ――エクステンションチップとして。
「助けてあげられてないなんて事ないんだよ、アイスマン。ありがとう、いつも助けてくれて」 「ロックマン……」
――ソウルユニゾンは出来ずにいるけど。 ロックマンの言葉で、ぼくはぼくにしかできない方法でロックマンを助けていけばいいって、そう思ったです。 ロックマンの事、助ける事ができてたみたいです。
「ぼくの方こそ…ありがとです…ロックマン」 「どういたしまして」
ロックマンはもう一度笑ってくれたです。 ぼくも満面の笑顔でそれに応えたです。
そうしてロックマンに抱きついてしまっていた事を思い出して慌てて。
「ろ、ロックマン!ぼく、これからもロックマンを助けるです!」 「うん、僕もだよ。アイスマンやみんなの事、助けるから」 「…はいです!」
顔中が熱いと感じながら、ぼくはその場を後にしたです。
向かった先はぼくのPET。
「突然いなくなっちゃうからびっくりしたよ、アイスマン」 「ごめんなさいです、透くん」 「ううん、アイスマン…元気出たみたいだからいいよ」 「ありがとです、透くん」
――ロックマンのおかげです。
ロックマンは、強くて優しいナビです。 ぼくは改めて、そんなロックマンの力になりたい、そう思ったです。
ぼくにしか出来ない事を、ぼくにしか出来ない方法で。
ロックマンの…仲間の一人として…――
2015/05/26 |