時の青年の決意 昨夜出ていた月と入れ替わり、空には太陽が浮かんでいた。 暖かな光を放ち、人々やロボット、全ての生き物に朝が来たと知らせていた。 「……気を付けろよ」 「はい、行ってきます、であります」 研究所の玄関で、タイムとアイスがそう会話をしていた。 休みも終わり、それぞれの仕事が始まる。 アイスは外出先で、タイムはライトと共に研究所で。 「タイム、今日も頑張るであります」 「……ん。また…後でな」 「はい」 頷いてアイスがそう言うと、タイムの後ろを見て誰かがいないかと確認するような動きを見せる。 誰もいない事を確認すると、彼はタイムの胸に両手を置き、背伸びをした。 高鳴るタイムのコア。 アイスがしたい事を悟ると、タイムは目を閉じ、上半身をゆっくりと屈めた。 重なる二体の唇。 ――行ってきますのキス。 ほんのりと頬を赤く染め、アイスは笑顔を見せた。 タイムも微笑みを見せる。 何度かしてきているはずのそれも、二体にとっては恥ずかしく感じるものだった。 アイスは踵を返すと、恥ずかしそうに研究所を後にした。 彼は踵を返すと、ライトが待つ研究室へと向かう。 研究所内は昨夜の賑わいが嘘だったかのように静かだった。 ほとんどのメンバーが仕事のため外出している。 研究所にいるのは、タイム、ライト、そしてロックとロールの4人だった。 タイムは時間旅行の研究のため、研究所から出る必要が無い。 幼き頃は叶わなかった時間旅行は確実なものになり、時間の制御もすることが可能になっていた。 エネルギーの消費は大きいものだが、当時受けていたアイカメラの故障、オーバーヒート寸前になるなどの反動も受ける事は無くなっていたのだった。 「……ハカセ」 「おお、タイム。調子はどうじゃ?」 「悪くない…」 「そうか。じゃあ、今日も頼んだよ」 「……うん」 タイムの仕事――時間旅行が今日も始まろうとしていた。 *** 現代に戻ってきた時、時計の針はお昼丁度を指していた。 半日の時間旅行、タイムの機体は疲れを感じていた。 「…ただい…ま」 「タイム、おかえり。大丈夫か…?」 はぁ、はぁ、と息を付くタイムの背中を摩るライト。 長時間に渡る時間旅行はまだ厳しいものだが、タイムはやってみると聞かなかった。 あまり無理をすると、タイム自身がどうなってしまうかわからない。 ライトはすぐメンテナンスをしようと準備を整え、開始した。 メンテナンス中、タイムは夢を見ていた。 ――真っ白なドレスに身を包む、誰かの影。 頭には花が飾られ、そこから伸びるのは透明の綺麗なヴェール。 下半身は暗く、確認が出来なかった。 影は、優しく笑っていた。 まるで太陽のように暖かく、とても愛おしく思える笑顔。 それが誰だったのか、はっきりと確認が出来なかったが、タイムを見て優しい笑顔を見せている事だけは確かだった。 気付いた時、彼は研究室の円状のカプセルの中だった。 メンテナスが終了したのだろう、体の疲れは随分楽になっていた。 「タイム、気分はどうじゃ?」 「……悪く、ない」 「そうか、良かった。今日はここまでにしようか。あまり無理をする訳にもいかないからの」 「……うん」 タイムは上半身を起こすと、ライトからE缶――エネルギーが回復する飲み物――を受け取ると、自室へ戻ろうと歩き出した。 ライトは机へと向かうとパソコンの画面へ向かい、別の研究を始めるのだった。 普段は短い時間の時間旅行を一日かけてするのだが、今日は長時間したため機体がすぐ疲れを感じてしまった。 時間が空いてしまい、タイムは自室の窓から外をぼうっと眺めていた。 太陽の暖かな陽気がタイムを眠りへと誘ったが、それに乗ることなく彼は外を眺め続ける。 ふと、彼の頭によぎる昨夜の事、そして先程見た夢に出てきた白いドレスを着た影。 ――結婚の事、そしてドレスはウェディングドレスだったのだろう。 それを着ていた影は見えなかったが、タイムにとって愛しき存在である事は確証はないが間違いないと思えた。 気付いた時、彼は窓から離れ、自室を出ていた。 研究所から出ようと玄関に付いた時、背後から聞こえたのはロールの声。 出かけるの?という問いにタイムは頷き、研究所を後にするのだった。 *** 「いらっしゃいませ」 辿り着いた先は、街のとあるジュエリーショップだった。 そこの店員である女性の明るい声が店内に響き渡る。 ジュエリーショップに来る事はどこか恥ずかしく抵抗があったが、愛する者の事を思うとなんでもなかった。 店内を見渡し、目的の物を探す。 それが見つかると、タイムは歩み寄った。 一見どれも同じように見えるが、それぞれ少しづつ違っているそれは――指輪だった。 店内の光がそれに当たり、一つ一つ綺麗な輝きを見せている。 その指輪達にタイムは目を奪われた。 目的の物は、婚約指輪。 結婚の申し込みをする際に必要となるそれを、タイムは探しに来たのだった。 どれも美しく、様々なデザインの指輪。 どれにするべきかとしばらく悩んだが、その中でタイムの目に一つだけ輝いて見えたデザインの指輪があった。 それは、ストレートの形をしていて、ダイヤモンドはまるで雪の結晶のように見える形をした美しい指輪だった。 それが目に入ると、他の指輪は目に入らなくなっていた。 それしか、タイムの目に映らなかったのだ。 「……す、すみません」 タイムは小さな声で、でも店員に聞こえる声でそう言った。 女性店員が笑顔で歩み寄ってくる。 タイムは一歩勇気を出して声を出した。 これが欲しい、と。 「ありがとうございます。婚約指輪…プロポーズするんですね?頑張ってくださいね」 女性店員の優しい微笑みとおおらかな言葉に、タイムは緊張が解れていくのを感じた。 思い切って来て良かったとタイムは思えた。 青い正方形の形をしたケースにそれは大事そうに入れられ、タイムは会計を済ませるとジュエリーショップを後にした。 徐々に高鳴り始めるコアを感じつつ、タイムは研究所へと向かって歩き出す。 太陽が輝く青空を見て、彼は愛する者の事を想った。 ――気持ちは決まっている。 不安はあるが、彼はプロポーズすることを決意するのだった。 2015/4/7 [*前] 【TOP】 [次#] |