月夜の語らい


食器と食器がぶつかる音が居間に響き渡った。
食事を終え皆が自室に戻った後、アイスはロールと後片付けをしていた。
アイスが食器を持って行き、ロールがそれを慣れた手つきで洗っていく。

「これで最後であります」
「ありがとう、アイス」

二体は微笑み合うと、アイスは自室へ戻ろうと歩き出す。
待って、そう言ってロールはアイスの足を止めた。

アイスは振り向くと顔を傾げ、不思議そうにロールを見た。

「アイスは…まだ結婚の事考えてない?」
「えっ…!?」

瞬時に赤く染まる彼の顔。
彼方此方へと視線を動かし、落ち着かない様子を見せた。
俯いた彼を見て微笑むロール。
その様子で、結婚に対して意識している事は伺えた。

そう会話する内に食器を洗い終えていたロール。
たくさんあったはずのそれは瞬く間に綺麗になっていた。

水を止めると、アイスに歩み寄るロール。
頭にそっと手を置くと、彼女はにっこりと笑顔を見せた。

「ふふ、考えてないわけ、ないわよね」
「ロール姉様…」

顔を上げると、アイカメラを伏せてロールを見つめるアイス。
ロールは彼の肩に手を置くと、ソファーへ座ろうと歩き出した。
並んでソファーへと腰を下ろすと、二体は会話を始める。

「タイムったら…アイスを待たせるなんて」
「そんな、わたくしは…タイムが傍に居てくれれば…それで…」
「もう、アイス!タイムが取られちゃってもいいの?」
「い、嫌であります…っ…」

酷く悲しそうな表情を見せるアイスに、ロールは悪いことを言ったと思った。
そんな事はあり得ない事だと、彼女自身も思っていた言葉。
幼き時より、タイムはアイスしか見ていないことを知っている。

次々と生まれてきたメンバーを、ライトとロックの側で長い間見てきたのだから。

「ふふ…ごめんね。タイムは小さい時から貴方しか見てないから、取られることはないわよ」
「ろ、ロール姉様…っ」

更に顔を赤らめ、今にもオーバーヒートしそうになっているアイス。
あたふたするアイスは、とても可愛らしく見えた。

「でも、タイムがあまりもたもたしてると貴方がさらわれちゃうかもしれない、なんてね?」
「わ、わたくしはタイムしか…!」
「ふふっ」

からかいすぎたかしら、ロールはそんな事を思いながら、顔中真っ赤にしたアイスを見て微笑んだ。
アイスはタイムを、タイムはアイスが本当に好きなのだと改めて実感しながら。

ふと、彼が首からかけている懐中時計に彼女の視線が移った。
彼がタイムと付き合うようになり、それ以来肌身離さず付けている所を見ると、アイスがとても大切にしている事は伝わってくる。
懐中時計をロールが見ていることに気付き、アイスはそれを開いて見せた。
タイムがライトと共に作ったそれは、金色に輝いた細かい装飾が施されたどこにも売られていない物。
この世にただ一つしかない、アイスにとってかけがえのない宝物だった。

二本の長針と短針が、チクタクと静かに時を刻む。
それは、見ているだけで心が落ち着くものだった。

ふと、ロールが何かに気付いたかのように懐中時計に触れた。
アイスは顔を傾げる。

「これ、写真が入れられるのね」
「え…?」

開かれた裏面を見ると、確かに写真を入れられるように作られていた。
撮った物をこのサイズに切り取り、入れる事が出来るのだろう。
しかし、アイスも今この瞬間までそれを知らなかった。
タイムにも何も言われなかったのだ。

「アイスも知らなかったのね?タイム…言うのが恥ずかしかったのかしら?」
「え…っと…?」
「ここに、あなた達二人の写真を入れたかったんだとしたら…」

落ち着いたかと思っていた彼のコアが再び高鳴り出す。
アイスは恥ずかしくなり、言葉を失ってしまった。

そんな彼の頭を撫でるロール。
そうして、にっこりと笑顔を見せた。

「っと…長話しちゃったわね、ごめんなさい。手伝ってくれてありがとう、アイス。ゆっくり休んでね?」

ロールはゆっくりと立ち上がると、アイスを見てそう声に出した。
彼女の金色のポニーテールが揺れる。
それに視線が映ると、今度はロールの優しい表情へと視線が映る。
アイスも同じように立ち上がると、ロールを見て声を出した。

「あっ…はい、どういたしまして、であります。ロール姉様もゆっくり休んでくださいであります」

彼女は頷き、先程まで賑やかな声が響き渡っていた居間を後にした。
頑張って、と二人を応援している一言を残して。

「……結婚…でありますか……」

彼はそう呟きながら、床から天井まである窓へと歩み寄った。
星空の中に輝く月が、優しい光を放つ。
それを見つめながら、彼は先程ロールが言っていた言葉を思い出していた。

――タイムは小さい時から自分しか見ていない。

高鳴るコアを感じずにはいられなかった。
胸の前で手を組むと、目を閉じてそれを聴く。
その様子は、居間の静かな空気と彼が一体になっているかのように思えた。

今日は結婚に関することが多い日だと彼は思った。
今まで結婚に関してアイスの頭によぎる事はあったものの、強く意識したことはなかった。

――タイムと結婚出来たなら、どれほど幸せなのか。

そう思うと同時に更に高鳴る彼のコア。
全身が火照り、オーバーヒートしそうになった。

自室に戻り、彼は休むことにした。
そんな彼を、月の光が優しく照らすのだった。

2015/4/7

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