過ぎ行く時 「……ただいま」 タイムが研究所へと帰って来た時、夕日は沈み、星空が見え始めていた。 「おかえり、タイム。どこに行ってたんだい?」 彼を出迎えたのはエレキだった。 タイムは指輪を素早く隠すと、別に、と一言だけ返し、そそくさと自室へ向かった。 そんな彼の背中を見守るように見つめるエレキ。 ――彼にとって大切な時が動き出している。 証拠があるわけではなかったが、エレキはどこかで悟っていた。 そんな事を思いながら、柔らかな微笑みを浮かべた。 *** 先程の時間旅行で消費したエネルギーは既に元に戻っていた。 全身がエネルギーで満ちているのがわかる。 窓の傍へと歩み寄ると、彼は先程の婚約指輪が入ったケースを開き、それを見つめた。 電灯の光が当たり、美しく輝くそれには何度見ても目を奪われてしまう。 愛する者は喜んでくれるか。 気持ちに応えてくれるか。 どう言って、プロポーズするべきか。 彼の頭の中には、一気にたくさんの思考が押し寄せてきた。 そんな彼を照らす月の光はとても優しいものだった。 自分自身が結婚するのかもしれない。 そう思うと、彼は信じられないとばかり思っていた。 「ただいまでありますー」 その思考を止める事となった、愛する者の帰宅したことを知らせる声。 タイムは慌てて婚約指輪を引き出しへと隠し、自室から玄関へと向かった。 「…おかえり、アイス」 「ただいまであります、タイム」 何時もと変わらない、まるで太陽のような優しく暖かい笑顔。 それを見るだけで、タイムの疲れは取れ、心癒された。 何処と無く疲れも含まれたその笑顔。 タイムは自然と恥じらいも忘れてアイスを横抱きした。 「た、タイムっ、大丈夫でありますよ…っ?」 「…疲れた顔してる」 「タイム…」 ありがとうございます、彼はそう言ってあたふたする事を止めた。 タイムの胸に顔を埋め、彼のコアの音を聞く。 タイムも疲れているはずなのに。 そう思うと同時に、自分を想ってしてくれたこの事を嬉しく思うのだった。 *** タイムが婚約指輪を購入してから、そのような日が何日か続いた。 彼はアイスにプロポーズをしようと機会を伺うが、中々チャンスは訪れず、言えないまま時は過ぎていった。 気付けば蕾だった桜は少しずつ開花し始め、後数日すれば満開になりそうな程になっていた。 一時のチャンスが訪れても、彼のコアが急激に高鳴り、元々口下手な彼は普段以上に言葉を告げることが出来ないままになってしまう。 何でもない、と。 アイスはその度不思議そうに顔を傾げたが、直ぐに大丈夫であります、と微笑んで見せた。 喋る事を得意としない彼の口から、思わず溜息が溢れる。 それを見守るようして見ていたのは、エレキのパートナー、ファイヤーなのだった。 2015/4/8 [*前] 【TOP】 [次#] |