結びの前夜


満点に輝く星空。
美しいはずのそれも、今夜だけは寂しく見えてしまっていた。
何時だって、気付けば傍に、隣にいた愛するものが現在居ないのだから。

――結婚前夜。
ロールの計らいで、タイムとアイスは前夜を別々で過ごしていた。

タイムは研究所で。
アイスはロールの友人、カリンカの家で。
ロールからその話を聞いた時は反対したタイムだったが、ロールの半強引な態度に仕方ないと言いたそうに彼は頷いたのだった。

一つ一つ個性を放ち光る星達。
互いが星空を同じ時間に見てる事を知っているのは、その二体に見つめられた星空だけ。

タイムはそれを自室の窓から眺めていた。
それを見ながらも、頭に浮かんでくるのは明日の結婚式の事。
式の事を考えると彼は落ち着かず、中々寝付けないでいた。

ふと、星空の中に浮かぶ、レモンを想像させる色の月がアイカメラに映る。
それを見た時、重なるようにアイスの笑った顔が出てきた。
それは口を動かし、タイム、と言っているように見えた。

「……アイス」

思わず零れた愛する者の名前。
表情は自然と綻んでいた。
明日、彼は自分の永遠のパートナーとなる。
自分が結婚するという事が未だに信じられなかった。
しかし、結婚するという事ははっきりとした事実。

タイムもアイスと同じように若干不安――マリッジブルーとなっていた。
しかし、アイスと共にいられる、それだけで彼は何でもできるような気がした。
そう感じただけで、不安を感じていたことが馬鹿らしくなっていたのだ。

こうして愛する者が出来、結婚を控えている。
この世界に生み出された時には想像もできなかった事。
彼は幸せに思っていた。
この世界に生まれて良かったと、作成してくれた父、ライトに感謝していた。

「アイス……ボクは必ず…オマエを……」

その先を口に出すことはしなかった。
明日、時が来た時、愛する者に直接伝えるために。
タイムは窓から離れ、ベッドへと横になった。
中々寝付けずにいた体が嘘のように、夢の世界へと旅立つのに時間はかからないのだった。

***

ロール、そしてカリンカ一家との食事を終え、アイスは一室で休んでいた。
タイムと同じように、彼も星空を見つめていた。

想うのは明日の式の事。
ウェデイングドレスを試着したあの日に感じでいた不安はもうない。
あるのはこれから訪れる幸せに対しての喜びのみだった。
こうして離れても、いや、離れているからこそなのだろうか。
アイスの頭の中は式の事と愛する者――タイムの事しかなかった。

明日、その者と一緒になれる。
アイスの表情は自然と笑顔になっていた。

「…おやすみなさいであります、タイム」

アイスは一言そう言うと、ベッドへと横になった。
月明かりに照らされながら、ゆっくりと目を閉じると、夢の世界へと旅立った。
暫くして部屋の扉を開けたのは、姉、ロールだった。

心配はしていなかったが、念のために様子を見に来た彼女。
しかし、彼がとても幸せそうな表情をして眠っているのを見て、お節介だったかしら、と呟く。
その声に、アイスの表情が綻びたように見えるのだった

2015/8/9

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