07

「えっ?試験勉強?」


部活前。
「今日はフェンスんとこまで見に来いよ」と弁当返す時に誘えば、麻衣は嬉しそうに笑って頷いた。
そしてそのまま一緒にコートまで向かい、話があるからと人の目の無さそうな所まで移動する。
何故かってそりゃ面白半分に邪魔されたりからかわれたりしねーように念のためだ
んで「先輩命令で明日から試験勉強する事になったんだけどよ、昼休みに教えてくんねーか?」と麻衣に聞いてみれば、キョトンと首を傾げられた。
んでそのまま静止・・・
一向に返って来ない返事にさすがに俺も眉を寄せる。


「・・・・・嫌なら断ってくれてもいーんだぜ?」

「いっ嫌じゃないの!
えと、あの・・・・あっ赤也君こそ私でいいの?
私、人に教えたりあんまりしたことないから・・・
ほら、先輩とかクラスの人に教えてもらった方が」

「麻衣がいいから聞ーてんの」


つい声に力が入っちまった。
驚いたように目を見開く麻衣。
その表情を見てさすがにヤベッと思ったが、言っちまったもんは今更どうにもなんねぇ。
少しバツが悪いものを感じて俺は視線を逸らすと、誤魔化すように口を開く。


「つかあんたはいいのかよ?昼休み潰れるぜ?」

「そっそれは大丈夫・・・・・
赤也君といれるなら嬉しいし・・・・・」


そうはにかんだように微笑んで言われれば、どこか擽ってー気持ちになる。
こいつ、普段恥かしがったりすんのに変な所で真っ直ぐっつーか、好意は口にするよな・・・
それが嫌ってわけじゃねーけど、妙に照れる。
もっと下心あったり打算含まれてりゃ違うんだろうけど、そういうの感じねーからこっちまで気恥ずかしくなってくるっつーか・・・
そこまで考えると、どっか悔しい気持ちに似た感情が湧いてくる。
だからちょっとした仕返しも兼ねて、少しばかり顔を近づけてニッと笑う。


「じゃーわりぃ、頼むな」

「っ!あっ、う、うん」


縮まった距離に途端に麻衣の顔がパッと赤く染まって、忙しない様子で視線が逸らされる。


「あっあの・・・・あっ!
ばっ場所は図書準備室でいいかな?
私いつも図書室の鍵開けてそこでお昼も食べてるから・・・・
机もあるし静かだからちょうどいいと思うんだけど」

「おっ、ならそこで場所決定な」


わたわたと挙動不審っぽい麻衣の様子に妙な満足感を感じつつも、提案には正直ラッキーと思いながら迷わず頷く。
場所によっちゃー面白半分に先輩らが覗きに来るかもしんねーと思ってたけど、そこなら大丈夫だろと笑みになる。
いやほんと、最近の先輩らのちょっかいの出し加減は異常だからな・・・
ここ数日のやりとりを改めて思い出し、俺は小さく溜息を吐いた。
そんな俺の様子に小首を傾げながらも、麻衣は確認するように口を開く。


「じゃあ明日からお昼休み図書準備室で・・・えっと、教科は?」

「・・・・・・・・・・・英語」


麻衣の問いかけに思いっきり顔を顰めながら答えた。


「とりあえず英語。
とにかく英語。
これが今回赤点だったら俺マジでヤベェんだよ・・・」


さっきとは違う意味で盛大に溜息を吐いた。
するとそんな俺の様子にどこか苦笑しつつも、麻衣は一度頷いて口を開く。


「じゃあ明日は英語の教科書と問題集持って図書準備室だね。」

「あぁ、わりぃな」

「ううん。」


そう言って浮べられた笑みに、俺も自然と笑って返した。
始めこそ休み時間まで勉強なんかしたくねぇとか思ってたけど、これはこれでよかったかもしんねぇ〜
たまには丸井先輩もいい事言えるんだなってすこしだけ見直す。
しかしそこでもう一つ用事があった事を思い出した。


「そうだ、メアド!」

「へっ?」

「携帯持ってるよな?
連絡すぐ取れた方が便利だしメアド教えてくれよ」


そう言いつつズボンのポケットから携帯を取り出せば、驚いて固まっていた麻衣も慌てて携帯を取り出した。
その様子を見てから、何気なく自分の携帯に表示されている時計を見て目を見開く。


「って、ヤベッ!もうこんな時間かよ!
とっとと赤外線でやっちまおうぜ。
俺から送っからよ」

「えぇっ?!えと、あの」


携帯を操作し始めるが、麻衣はどこか困惑したような顔のまま携帯を持ったままだ。
その麻衣の様子に首を傾げる。


「どうしたんだよ?」

「あっあのね、えと、私・・・・・赤外線使ったこと無いの」


カァッと染まる麻衣の顔。
思わずその表情を見てポカンとする。
するとそんな俺の様子を見て、麻衣は取り繕うように口を開く。


「だ、だって私家族か決まった友達としかメールとかしないし、アドレス変えても直接メールして教えちゃうからこういうのしたことなくって・・・やりかたわかんない・・・・」


徐々に小さくなっていく麻衣の声。
俺はそんな麻衣の様子を黙って見ていた。


(・・・・・・ヤベェ、なんか可愛い)


いや、自分でもどこがツボにハマッタのかわかんねーけど・・・
でも何か妙に可愛く見える。
やっぱ麻衣って今までの奴らと全然違う。
今までの奴らなんて付き合い始めりゃ即行メアドの交換だぜ?
だから麻衣見てっと妙に和むつーか、なんつーか・・・
俺は未だ携帯持ったまま恥かしげに顔を俯けてる麻衣の様子に思わず苦笑した。


「ほら」

「えっ?」

「貸してみろよ。俺がやってやるから」

「う、うんっ!」


差し出した手に、何の戸惑いも無く乗せられた麻衣の携帯。
数個ストラップが付けられただけのシンプルなもの・・・
でもただシンプルってだけじゃなくてよく見りゃストラップ一つ一つも目立つようなもんじゃねーけど可愛いものがついてる。
なんつーかすっげー麻衣らしい携帯だなと思わず苦笑する。
するとそんな俺の様子に気付いたのか麻衣が不思議そうに首を傾げた。


「赤也君?」

「あっ、わりぃ。
いや、こいつ綺麗だなって思ってよ」


誤魔化すようにストラップの一つを示す。
そのストラップには中側が着色された硝子玉が付いていた。


「それとんぼ玉っていうの」

「とんぼ玉?」

「うん、お父さんが仕事で行った先で買ってきてくれたの。
手作りでね、他にもいろんな色があって綺麗だったって言ってた。
でも選ぶのに時間かかって帰りの新幹線1本遅いのになっちゃったっ事がお母さんにバレて怒られてたけどね」


その時の事を思い出したのかクスクスとおかしそうに笑う麻衣。
あっ、麻衣の家族の話っつーかプレイベートな話聞いたのって始めてかもしんねー・・・
・・・何かそれが妙に嬉しい。
たぶんこいつの事だから、他のストラップにもそれぞれ思い出あるんだろーけど残念ながら今はそれを聞いてる暇がねぇ・・・
俺は改めて麻衣の携帯へと目を向けた。
だいたいこういった操作って機種が違っても似たようなもんだよな。
俺は麻衣からの視線を感じつつもお互いの登録を手早く済ませる。


「っと、これで完了っと!」

「わぁありがとう赤也君」


携帯を差し出せば、さっきよりも大事そうに受け取る麻衣。
そんな様子を見てると自然と俺は口を開いていた。


「メールちゃんとしろよ?」

「えっ?でっでも赤也君忙しいんじゃ・・・」

「あのな、メール読む時間ぐらいあるっての。
あっ!今日部活終わるまでになんか送ってこいよ!
・・・送ってこなかったら催促のメールすっからな」

「えぇっ?!」


俺の冗談交じりの言葉に本気で困ったような麻衣の反応に思わず苦笑する。
つーか、俺が言わなかったらこいつ絶対自分からメールする気なかったな・・・
そりゃ忙しい時もあるけどよ、麻衣はそういうことばっか気にし過ぎだろ。
・・・・・・・・もしかして、こいつがこうしたいとかああしたいとか何も言ってこないのってそれが原因か?
俺は思わず眉を寄せて、未だ携帯を困った顔で見つめている麻衣へと口を開く。


「あのよ」

「ん?」

「んな遠慮とかしなくていーから」

「・・・・・えっ?」

「だから、俺が忙しいだろうからって気ぃ使ったりとか、先輩やクラスのダチの方優先させようとかしなくていーから」

「えっ、あの・・・」

「俺ら付き合ってんだろ?」

「っ?!」


突然俺が言い出した事に戸惑ってた麻衣が、最後の言葉に目を見開いて息を呑んだ。
しかしそれでもジッと視線を向け続けていれば、徐々に顔が色付いてきてゆっくりと小さくだが頷いた。
それに妙な満足感が胸の中に湧き上がってくる。


「じゃー俺もう行くけどちゃんとメールしろよ?」

「・・・・・うん」


未だ色付いた顔ではにかんだように笑って頷く麻衣。
それに俺も笑い返してから、部室へと走って向かった。










ロッカー開けてとりあえず荷物を投げ込む。
んで着替えようとしたところで、手に持ったままだった携帯の存在を思い出した。
何回か落しちまって小さな傷がいくつかついた見慣れた俺の携帯。
それでも、何か今は特別っつーか違って見える。


(あいつ、何て送ってくんだろ)


着替えを開始しながら先ほどまでのやり取りを思い出す。
今頃きっと携帯両手に持ったままメール作成画面見て困った顔してんだろうな・・・
そんな麻衣の様子が容易く想像出来て思わず口端が上がっちまった。
すると・・・


「浮かれとるのぉ赤也」


(・・・・・出た)


後ろからかかった声に俺は思わず盛大に顔を顰めた。
しかしそれを隠すようにウェアを引っ被って、着替えを続行する。
そして素知らぬ顔をして口を開いた。


「気のせいじゃないっすか?」

「気のせいには見えんのぉ〜」

「俺の助言がバッチリ効いたんだろぃ!」

「・・・何の事っすか?」

「とぼけんなっての!
誰に麻衣とメアド交換して昼一緒に勉強できる口実まで考えてもらったと思ってんだ?」


得意げな顔をして言う丸井先輩の横では、面白そうに口端を上げてる仁王先輩。
やっかいな先輩らに捕まっちまった・・・
さてどう逃げ出そうかと思考を巡らせ始めた瞬間。


ヴゥーヴゥーヴゥー


先程ポケットに入れたばかりの携帯が震えた。
まさかと思って急いで取り出せば、新着メール1件と表示された画面。
メール画面を開けば、未読メールに『麻衣』の文字。
思ったより随分と早いメールに正直驚いた。
しかしいざメールを開こうとした瞬間に、パッと手の中の携帯が取られた。


「なっ?!何するんすか丸井先輩!!!」

「おっ、やっぱちゃんと交換出来てんじゃねーか!え〜っと、何々?」

「ちょっ人のメール勝手に見ないで下さいよ!!!」


俺の方に背を向けて、丸井先輩に仁王先輩までもが一緒になって携帯を覗き込む。
取り返そうと手を伸ばすが、二人の背が邪魔になって届かない。
麻衣が何て送って来たか知んねーけど、この二人に読まれていい内容のはずが・・・


「「 部活頑張ってね 」」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」


二人揃って言った言葉に、思わず取り返そうとしていた手が止まった。
今の流れ上、考えなくともそれが麻衣が送ってきたメールの内容だと分かる。
しかし・・・


「・・・・・・・それだけっすか?」

「それだけじゃ」

「絵文字も何もついてねーぜぃ?」


一言言ったっきり続かない言葉に、まさかと思って問いかければ答えは是と返ってきた。
しかもご丁寧に俺の目の前に携帯を突きつけて、素っ気無いメール画面を見せてくる。


(・・・・そりゃ、なんか送って来いしか言ってねーけどよ)


ガクッと妙なガッカリ感に襲われた。
ただのクラスメイトでも、もう一言ぐらいついててもよさげじゃね?
つーか部活頑張ってとかいつも言ってるしよ・・・


「まぁ落ち込むなよ赤也」

「・・・・落ち込んでないっすよ」


話の内容が聞こえていたのか、ジャッカル先輩が気を使って声をかけてきた。
そして答えた俺の不貞腐れたような声音に苦笑を浮べている。
しかしそれも数秒の事で、すぐに哀れんだような顔で前方を指差した。


「それより・・・・・あれ、止めなくていいのか?

「は?」


あれって何だと顔を向ければ・・・


「せっかくじゃしここは『 麻衣が応援しててくれるなら俺はどんな時だって頑張れるぜ。だからいつも俺だけ見てろよ?愛してるぜ 』とかどうじゃ?」

「ブッ、キモいだろぃそれは!
それなら『 俺様の美技に酔いな 』とかつけた方がよくね?」

「それもいいが、大阪の白石みたいに」

「だぁ、勝手に何やってんすか先輩達!!!」


人のメールに勝手に返信しようとしている先輩らの手から慌てて携帯を奪い返した。


「何すんだよぃ赤也!
せっかく俺らでいい返事考えてたのによ」

「何がいい返事っすか!
明らかに可笑しかったし、どっかで聞いたような台詞が混ざってたじゃないっすか!!!」


「気のせいじゃろ」

「気のせいじゃないっすよ!!!」


結局その後、俺らは真田副部長の怒声が響くまで騒ぎ続けていた・・・


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