06

あの日から毎日ってわけじゃねーけど麻衣が部活を見に来るようになった。
他の奴らみてーに声を出して応援してくるわけじゃない。
それでも俺が技を決めれば子供っぽい笑顔を浮かべて喜ぶし、試合に勝てば俺より嬉しそうに笑う。
休憩合間に話しかければ「さっきの試合凄かったね!」とか言うもんだから俺のやる気も自然と上がり、このところ部活中に真田副部長の鉄拳を受けた記憶が無い。
そーいや俺って元々は褒められて伸びるタイプだったかも・・・

そんな事をぼんやり思いつつ、今日の弁当のおかずに入っていたコロッケを口の中に放り込む。
やっぱり屋上で食うのはなんつーか気分がいい。
美味いもんがなおさら美味く感じる気がする。
特に最近はいい感じに風が吹いてきてるし、昼飯食ってそのままここで寝たら絶対最高だろーな!!!
・・・・・まぁ実行しようものなら真田副部長の「たるんどる!」っつー怒声は確実だろーけどよ

つーか気付けばもう6月も半ばを過ぎる頃で、来週からはとうとう期末の試験週間に入っちまう。
ついこの前中間試験終わったばっかじゃなかったか?
散々な英語の点数に真田副部長だけじゃなく柳先輩からも説教喰らって、幸村部長からも笑顔のまま遠回しに「次は無い」って言われたばかりだっつーのによぉ・・・
思わずその時の事を思い出して溜息を吐いた。
すると妙にそういうのに目敏い丸井先輩が、いったい何個目か分からない菓子パン片手に隣までやって来る。


「なーに赤也のくせに溜息なんて吐いてんだよぃ」

「・・・俺には溜息吐く権利もないんすか?」


思わずジト目で見やればケラケラと楽しそうに笑われた。
どう見ても俺と同類で赤点保持者って感じなのに、意外と丸井先輩の成績がいいと知った時にはさすがにショックを受けた。
まぁ中学の頃、柳先輩のスパルタ受けた結果だって聞いた時には同情もしたけど・・・
って、このままじゃ俺もそのスパルタ行きじゃねーか!
しかもそれプラス幸村部長と真田副部長付の!!!
一瞬その様子を想像して、恐ろしさからすぐに脳内からその光景を打ち消した。
んでやっぱり溜息・・・
するとズイッと目の前に菓子パンが突きつけられた。


「・・・・何すか?」

「やるよ。
新記録達成記念ってやつ?」


丸井先輩はそう言うと意地の悪い顔で笑った。
新記録達成?
とりあえず丸井先輩の手からパンを受け取りつつ首を傾げる。
この食い意地の張った先輩が食べ物をくれるってのは滅多に無い。
中学からの付き合いだが、今まで数えるほどしかない気がする。
それこそ誕生日か何かか、恐ろしいほど機嫌がいい時ぐらいなもんだ。
ちなみに今日はそのどちらでもない。


「貰えるのはありがたいっすけど・・・
新記録達成ってなんのっすか?」


最近は部内の練習のみで、試合時間の最短記録を更新したっつー事も無い。
心当たりが全く無く素直に首を傾げれば、丸井先輩は意地の悪い顔のまま口を開く。


「わかんねーの?」

「わかんないっすよ」

「全然?」

「・・・全然」

「しゃーねーなぁ、教えてやるよ。
・・・・・・・・交際期間」

「・・・・・・・はぁ?」

「だから、お前の交際期間が最長新記録達成したって言ってんだよぃ!
麻衣と付き合いだしてもう2ヶ月は経ってんだろ?」



言われた瞬間正直驚いた。
そう言えばそうだ。
日付まではさすがに覚えてないが、確かに麻衣と付き合いだしたのは4月だ。
てか、えっ?もう2ヶ月経ってんのかよ早っ!
つーか2ヶ月で新記録達成とかどんだけだよ・・・
さすがに今までの自分に呆れる。


「麻衣が部活見に来るようになってからはよく一緒に帰ってるしよ、赤也にしちゃーちゃんと続いてるよな」

「だな」


丸井先輩の言葉にジャッカル先輩が同意する。
そう言えば、いつの間にか麻衣と一緒に帰ることも多くなったな・・・
元々麻衣は下校時間間際に図書室の鍵を閉めんだから、下校時間ギリギリくらいまで部活してる俺と学校を出る時間はそう変わらない。
でも別に、一緒に帰ろうと約束してるわけでもねぇんだよな・・・
ただ最近は部活が終わればつい図書準備室へと目を向け、電気が点いていれば先輩らと話して何となく時間を潰す。
俺の方が遅くなっちまっても、歩いてりゃそのうち追いついて結局駅まで一緒に向かう。
「一緒に帰ろうぜ」と声をかけた時の、麻衣の浮べるあの嬉しそうな笑顔を見るのはけっこー気に入ってたりもする・・・
つーかそもそも麻衣といるのはラクって感じ?
今まで付き合ってた奴らとも一緒に帰った事はあるが、今日は何があっただ、今度の休みにはあそこに行きたいだペラペラ喋られて正直鬱陶しかった。
それに比べて麻衣は元々そういう性格なのか聞き役に回ることが多い。
俺の話聞いて笑ってるし、無言になっちまっても重苦しい感じにもならない。
つーか、あいつが自分から話題振ってくるのって部活見た感想とか、弁当のおかずのリクエスト聞くぐらいじゃねーか?
ぼんやりとここ最近の話題を思い出していると、突然食いかけだった弁当からヒョイッと最後の一つだったコロッケが盗まれた。
思わず「あぁ!」と非難の声を出したが、コロッケは戻ることなく丸井先輩の口の中に放り込まれちまった・・・


「何するんすか丸井先輩!俺のコロッケ!!!」

「いーだろぃ別に。そのパンやったんだからよ」

「よくないっすよ!」

「ケチケチすんのはよくねーぜぃ?」

「人の弁当からコロッケ盗むのはいいんすか?!」

「・・・つーか未だに毎日弁当とか、麻衣もよくやるよなぁ」


あからさまに話を逸らすように言われたが、思わず同意したくなっちまうような内容だった。
でもそこで黙っちまったのがやっぱりダメだったみてーで、丸井先輩はまるでコロッケを奪ったことなんて無かったように話を続ける。


「お前ちゃんと礼ぐらい言ってんだろうな?」

「いっ言ってるっすよ!」

「・・・ならよ、たまにはあいつと昼食ったらどうなんだ?
お前らが一緒にいるの部活前と帰りぐらいなもんだろ?」


呆れたようなジャッカル先輩の声に思わず口を噤む。
確かに麻衣と昼を一緒に食ったのは、仁王先輩に唆されたあの一度っきりだ。
でもよ・・・・


「・・・だってあいつ、一緒に食いたいとか言わねーんすもん」


昼だけに限らず、今まで付き合ってきた奴らが口を揃えて言っていたような事を何一つ言わない。
一緒に帰りたいとか、休みの日にどこか行きたいとか・・・
確かにそういうとこをラクだと思う部分もある。
でもそうでもねぇ部分もあるっつーか・・・・・・・・
・・・・・纏まらない考えに悶々とする。
すると先輩らが呆れきったような顔をした。


「はぁ?何だそれ!
お前受身にも程があるだろぃ!」

「自分から誘えばいいだけじゃねーか」

「なっ?!何で俺が?!つーか無理っすよ!!!」

「何でだよ?」

「帰りはお前から誘ってんだろぃ?」

「そっそりゃー帰りは方向が一緒だからついでっつーか・・・」


思わず言葉尻が小さくなる。
するとジャッカル先輩の呆れたような溜息が耳に届いた。


「お前なぁ・・・一応付き合ってんだろ?
飯誘うのに口実がいんのか?」

「いるっつーか、なんつーか・・・」


・・・・・前に誘った時もそうだが、麻衣は今までの奴らと違って何故か俺に自分より他の事を優先させたがるような事を言う。
飯に誘っても、「先輩はいいの?」とか「クラスの友達は?」とか言いそう・・・
・・・・・いやたぶん言う、絶対言う、何か分かる。
んでそう言われるのって、なんかよくわかんねーけどすげぇ嫌。

俺がハッキリとした言葉を返せずに口篭っていると、突然丸井先輩がガシッと頭に手を置いて力を込めてきた。
自然前屈みになって膝の上に置いたままだった弁当が引っ繰り返りそうになり慌てて死守する。
しかしそんな俺の攻防など無視して丸井先輩は上機嫌気味で口を開いた。


「いいこと思いついたぜぃ!」

「っ、いいから丸井先輩、とっとと手ぇどけて下さいよ!」


俺の訴えに、ようやく乗り出していた体を戻して手も頭の上からどけられる。
たくっ・・・俺の頭は早押しクイズのボタンじゃねーっつーの
ムッとしつつも、これは先にサッサと残りの弁当を平らげた方が賢明だと口の中へとご飯をかきこみ始める。
するとそんな俺の様子なんて見えてねーみてーにジャッカル先輩は丸井先輩へと問いかける。


「んでブン太、何を思い付いたんだ?」

「名案だぜぃジャッカル!」


浮べられている丸井先輩の自信満々気な笑みに、正直聞きたくねぇ〜っと心の中でげんなりする。
だがここで例え「聞きたくないっす!」とか言ってもどうせ無視されるに違いない。
つーかぜってー無視される。
現に丸井先輩は全く俺の反応など気にせずに視線を向けてきた。
そして笑顔のまま問いかけてくる。


「赤也、お前馬鹿だろぃ?」

「怒るっすよ?」



何の悪びれも無く問いかけてくるのが心底腹立たしい。
食い終わった弁当を紙袋に戻しながら睨むが、効果はゼロだ。


「怒んなって!
とにかく、そんな馬鹿な赤也に最大級の試練が再来週に迫ってんだろぃ?」

「あぁ、期末試験か。
そういや中間は散々だったらしいな」


「 柳と真田が次赤点取ったら夏休みは勉強漬けだって言ってたな 」といらない情報まで口にするジャッカル先輩。
そう言えばそんな事を前に言ってた気がしねーでもない、と一気に俺は顔を顰める。
しかしそんな俺とは反対に、丸井先輩はすっげー笑顔でビシッと俺の目の前に指を突きつけてきた。


「そこでだ!」

「なっなんすか?」

「お前、明日っから昼休み麻衣に勉強教えてもらえばいいだろぃ!」

「は、はぁ?!」

「おっ、ブン太にしちゃーいい考えだな」

「だろぃ?」


感心したように言うジャッカル先輩と天才的ぃとか言ってる丸井先輩。
ヤバイ、このままだと本当にそういう流れになっちまう。


「いっ嫌っすよ!
どうせ来週から試験週間なんすよ?!
それをなんで明日っからわざわざ勉強漬けなんて・・・」

「お前試験週間だけでどうにかできると思ってんのか?
どーせ家に帰ってからも勉強なんてしてねーんだろぃ?
今からでも遅いくらいだぜぃ」

「でっでもっすね」

「あのな、お前だけでどーにかできんのか?
この期末赤点だったらお前、夏休みスパルタ勉強会決定だぞ?」

「うっ・・・それは嫌っすけど・・・」

「昼一緒に食う口実にもなるし、試験の点数もちょっとはマシになるかもで一石二鳥だろぃ」

「そっそりゃそーっすけど・・・・・ってそうだ!
麻衣が勉強苦手だったらどーするんすか?!
もしそーだったら」

「その心配はないな」


突然割って入ってきた声。
三人揃って声のした方に顔を向ければ、そこには柳先輩の姿。
あぁ、もうこの人まで入って来たら完全にダメだとガクッと思わず項垂れる。


「おっ何だよ柳!
麻衣って勉強できる方?つーかこいつが壊滅的な英語が得意とか?」

「得意かどうかまでは分からんが点数は悪くない。
総合の順位も常に上位で赤也の教え役にはうってつけだろう」

「・・・・柳先輩、毎回思うんすけどあんたそういう情報どこから持ってくるんすか?」


俺の力ない問いに、柳先輩はただ微かに口端を上げただけだった。


「とにかくだ!
これで明日っからの赤也の勉強は決まりだな!」


当人の意思など全く無視で決定された予定って成立するんすか?
思わずそう聞き返したかったが、きっとまた無視されるのがオチだ。
つーか、今回に限って何でこうも先輩らは口出してくんだ?
今までんな口実作ってまで彼女と弁当食って来いだなんて言われたことねーのによ・・・
そう半ば現実逃避気味で考えを膨らませていたら、またしてもガシッと頭に手を置かれた。


「おら、さっさと麻衣に連絡しろぃ!」

「痛いっすよ丸井先輩!」

「そう思うならとっととしろぃ!!!」

「って、今は無理っすよ!
俺あいつのメアドも携番も知らねーっすから」

はぁ?!
お前らまだメアドの交換もしてねーのかよ?!」


驚きと呆れを含んだ丸井先輩の声。
それと同時に一際手の力が強くなって、その後ようやく開放された。
イテテテと首を擦っていれば、頭上から溜息が落ちてくる。


「2ヶ月も付き合ってりゃ普通メアドの交換ぐらいするだろぃ」

「そういう話になったことないんすよ」

「まさか携帯持ってねーとか?」

「いや、携帯は持っているはずだ」

「そうなのか?
あっ、柳!お前なら麻衣のメアドくらい・・・・・いや、やっぱいい。
なんでもないぜぃ」


柳先輩に問いかけようとしたが、ソッと視線を逸らして思い直す丸井先輩。
確かに、柳先輩なら知ってそうな気もするけど・・・・・
聞いてサラッと答えられたら、それはそれでプライバシーってなんだっけって話になってくる。
とりあえず今日部活前にメアドの交換と明日からの昼の約束取り付けて来いと丸井先輩に言われ、俺はもう色々諦めて頷いた。


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